テキストに入る。まずは著者の紹介。次に「序章に代えて」に入る。ジャーナリズムには中国や日中経済関係の実態を知らずに,感情的に反中国論を展開するものがあるが,そこには危機感を覚えるとする。国益のために親中路線をとるとする著者のアジア重視の主張が,今日にいたる政府との摩擦を生む原因ともなった。
本全体の構成の紹介。第1章は米中貿易に対する人民元切り上げの実際の影響の問題。それは決して大きくない。第2章は中国の意思決定メカニズム。一党制だが,党と政府の二重構造という点では55年体制に似たところもある。第3章は今後の人民元のゆくえ。第4章は中国経済を全体としてどう理解するか,また高成長がいつまで続くかの問題。
「社会主義崩壊」の議論が依然として力をもつが,今日の世界で,不況局面を政策的に回避しながら最も高い経済成長を安定的にとげているのは社会主義をめざす中国。景気の変動への政府の介入が結果的に功を奏している。中国政府は社会の現状を初期段階の社会主義というが,榊原氏は「原始資本主義」と呼ぶ。榊原氏には市場経済の導入とその役割の拡大を即資本主義に結びつける発想があるが,市場を活用しようとする政府の経済政策全体の内容と経済介入の効力への評価が欠けてはいけない。
第5章は社会主義的統制の「残滓」の問題,あるいは経済制度の改革の課題。第6章は中国の強みとしての華僑ネットワークと新中産階級。
すでに中国は数年前の「世界の工場」であるだけでなく,同時に遠くない未来の「世界の消費市場」ともなりつつある。中米関係もその二面をもち,すでにアメリカは中国経済から切り離されたものであることは許されない段階に入っている。
第7章は共産党支配の今後について。独裁のイメージに反して,かなりの集団指導体制がすでに形成されている。第8章は日本の対中国外交のあり方について。「選択は中国か米国かではない。中国も米国もである」。これが著者のもっとも強く主張したいところと思われる。
つづいて,第1章「誤解だらけの人民元論争」に入る。人民元は中華人民共和国建国以後の元(中国の通貨)の正式名称。05年の繊維貿易の世界的自由化などもあり,中国製品の対米輸出が拡大している。これに対してアメリカからは人民元の切り上げを求める声も強まっている。外国為替が完全には市場にゆだねられていない中国については,政府に対して切り上げの政治的判断が求められる。
とはいえ専門家には,元切り上げがアメリカの対中赤字削減に大きな効果をもたないとする指摘も多い。中国の対米輸出が,実は中国へのアジアからの部品輸入に支えられており,元高は,輸出製品の価格を引き上げる役割を果たすが,輸入部品価格の低下によってそれが相殺されてしまい,結果として中国からアメリカへの輸出価格が高くからないからとの判断である。これを正確に理解するためには,中国を最終組立地とする東アジアの生産ネットワークの実態を知っておく必要がある。
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