企業や家庭・地域などに男性優位の関係があるが,それらを経済全体の関係の中に位置づけてとらえていく。テキスト第1章「ジェンダーとは?」。ジェンダーは,もともとは言語学で名詞の性別を示す用語。
戦後アメリカではまず「近代家族」が急増するが,60年代に入ると専業主婦たちから「得体の知れない不安」の表明がある。 夫や子どもや親の世話だけを行う人生の将来に対する不安である。そこから女性も働きたいとの希望が生まれてくる。これに立ちはだかったのが「男は仕事,女は家庭」を生物学的根拠に基づく人類史に不変な役割分担と理解する社会通念。これを乗り越える試みの中から,男女の生物学的差異や両者の関係をとらえるセックスと別に,男女の歴史的に変化する社会的役割の差異や両者の関係をとらえるジェンダー概念が明示されるようになる。これがジェンダー概念が今日のような意味でつかわれるようになる経過。
男女の関係が歴史的に短期間に大きく変化することを,近代以後の歴史を中心に見る。近代以前の人間社会の産業は,農林漁狩商…など自然の生産物を獲得し,これを流通させるものが主。加えて芸能などの宗教的あるいは娯楽的な産業もあった。これらの多くは「家族および地域」を単位に行われ,そこでは老若男女の区別なく,働きうる全員が家族の共同労働に参加していた。
近代資本主義の形成がここに大きな変化をもたらす。工業の成長が家族の共同労働を解体し,資本家・官僚・労働者家庭等に職住の分離をもたらし,都市や通勤を形成する。職住の分離は「家」を純粋にプライベートな空間とし,一部の富裕層家庭に専業主婦を誕生させ,そこに家事を発展させる。この富裕層にのみ許された主婦が平均的家庭の中の庶民主婦へと大衆化するのは,日本では戦後の高度成長期のこと。工業の発展による家族共同労働の解体の促進と,都市における女性労働者への若年定年制の強制,大企業の男性正規労働者の一定の賃金上昇が,都市を中心に「近代家族」を急増させる。
この主婦の増加が逆転を示し始めるのが75年以後。「得体の知れない不安」にもとづくウーマンリヴの思想と,高度成長の終焉による男性賃金の頭打ちがきっかけ。その後働く女性は増加するが,男性主力の超長時間労働とこれを家庭で支える主婦とのセットを維持しようとする財界の労働者家庭管理政策は継続している。その結果,企業社会での女性差別は継続し,今日ではそれが相対的「短時間」労働の不安定雇用に女性を追い込むものともなっている。今後女性が安心してはたらけ,またゆとりある家庭の維持できる社会とするには,①企業社会における女性差別の廃止,②男女ともに労働時間を短縮する,③子育てへの公的支援の充実などが必要となる。
以上,社会における男女の関係は,短時間に急速に変化するものであり,今日もその変化の過程にある。この変化する社会的な側面を「自然な男女の関係」と区別して,純粋に取り出すところにジェンダー概念の役割がある。
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