テキスト36~64ページを読んでいく。
元高ドル安がアメリカの対中貿易赤字を減らす決定打となり得ない理由は,中国からの輸出が多くの部品輸入に支えられ,元高による輸出品価格の上昇が輸入部品価格の低下によって相殺されるから。そのような東アジアの生産ネットワークをつくる中心にあるのが日本企業。
かつて円高ドル安がアメリカの対日貿易赤字を減らすことにつながらなかった過去がある。85年のプラザ合意は1ドル240円を,95年には1ドル94円まにで上昇させたが,貿易不均衡是正には役に立たなかった。その理由の1つは,円高をきっかけに日本企業が部品生産工場を東アジアに建設するようになり,低廉化した部品輸入拠点として活用するようになったこと。
ただし,もう1つテキストが指摘しない重大問題があった。それが国内のリストラ。1つは国内にある下請け部品生産企業の単価切り下げ(買いたたき)で,もう1つは直接的な人件費削減。人員減による労働強化と,正規雇用の削減(非正規雇用の拡大)など。これによって「円高→リストラ→競争力回復→対米輸出増→円高…」という「悪魔の循環」が形成された。その最大の被害者は労働者と中小業者。
しかし,元高(元切り上げ)問題には別の政治的な側面がある。1つはアメリカ国内の国際競争力の弱い産業からの保護要求あるいは中国たたきの要求を,政治家・政府が無視できないという問題。もう1つは,中国にとって元高が就業者の2/3を占める農村の国際競争力の低下につながり,都市と農村の格差をさらに広げることにつながるということ。それは中国の政治・経済の不安定化につながり,アメリカや世界の経済にとってもデメリットを生む。したがって「元高で問題が解決する」という誤った世論の鎮静化が必要となる。
最後にポールソン米財務長官の中国問題での発言を紹介。
最近のコメント