1)第1章「『ゼネコン国家化』と『多国籍企業化』の財界戦略」第1節「情勢を見る問題意識」から。①財界は総体としてのまとまりをもつとともに,内部に一定の利害対立ももつ。特に90年代後半以降の主たる対立は「ゼネコン」勢力と「製造業多国籍企業」の間にある。前者は大型公共事業の継続による利益確保を追求し,後者は法人税減税や規制緩和による利益機会の拡大に重点を置いた。前者は自民党内の旧橋本派など特定の派閥と長く結びつき,後者は小泉内閣に代表される「構造改革」派に代表される。前者から後者への支配的な力関係の転換と,後者による支配の安定化がすすんでいる。
2)②同時に,旧来型の「ゼネコン」勢力と新たな「多国籍企業」勢力はともに経済政策面での対米従属あるいは対米迎合を深刻な特徴とする。89~90年の日米構造協議は10年で430兆円の公共事業とともに,6分野240項目にわたる規制緩和を日本政府に求めている。日本の政治は財界による支配とともに,アメリカによる強い介入と支配を受けている。③ただし,この財界とアメリカ支配層との合作は政治運営において万能でなはい。主権在民にもとづく議会制の政治は,最終的にはつねに選挙による財界等の政策に対する国民の承認を必要とする。岩国・沖縄それぞれの市長選で在日米軍基地強化・再編の勢力が敗北したように,現実の政治は政治的経済的支配層と国民との綱引きによって決定される。
3)第2節「財界の政治支配」。財界による政治支配の具体的なあり方,99年の経団連(当時)今井会長(新日鉄)の総会発言を材料に見る。98年10月の「金融再生法」(大銀行への60兆円投入)成立は,過半数割れした自民党だけでなく,公明党・民主党・自由党等とも話し合った成果と語る。他方,99年3月に経団連がお膳立てしてつくった産業競争力会議では,第3回会議(5月)でリストラ推進のためのまとまった税制・法制改革の提言を行い,これをもとに通産官僚が「経団連の要求を法案にした」と語った産業再生法(リストラ促進法)を成立させていった。
4)第3節「アメリカによる世界戦略の新展開」。90年代以降の日本の「構造改革」は,アメリカの世界戦略の転換に強い影響を受けている。戦後アメリカ外交の基本である47年のトルーマン・ドクトリン(「冷戦」戦略)は,①アメリカの繁栄のための国際共同体づくりと,②そのためのソ連封じ込めを柱とした。しかし,91年のソ連崩壊により,この戦略は修正を受け,①だけがその後に残る。結果としてアメリカの一国覇権主義といわれる戦略の野蛮化がすすむ。その過程で92年からのクリントン政権が実施するのが「グローバリゼーション戦略」。それは経済面ではアメリカ多国籍企業の海外展開の強化を行い,軍事面ではこれの障害となる諸国政府(ならずもの国家)の「民主化」をすすめ,さらに国連を活用するが従わないとの新政策をとるものとなる。次回,この続きから。
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