1)テキスト第2章「株主資本主義とコーポレート・ガバナンスの転機」を読んでいく。コーポレート・ガバナンスとは,とりあえずは企業を構成し,そこに利害をもつ関係者(経営者,株主,融資する金融機関,労働者等)間の利害調整のこと。
2)企業経営の実権がどこにあるかについては,古くは「経営者支配論」に始まり,「銀行支配論」「投資家資本主義論」などとつづく,アメリカ資本主義の歴史的発展を反映した議論の積み重ねがある。特にマイケル・ユシームの「投資家資本主義論」は,企業の利害関係者に占める機関投資家(年金基金,投資信託,生命保険など)の地位拡大を分析した最新の成果の1つといえる。
3)アメリカにおけるコーポレート・ガバナンスの実態と課題を,「エンロン」事件とこれに前後した法制度の改革から見る。旧来のガバナンス・システムは,①社外取締役による業務監督,②監査法人による財務諸表の監査,③「中立的」立場からの証券アナリストによる株式評価,④経営陣へのストックオプション(自社株購入権)の付与などを柱としていた。しかし2001年のエンロンの粉飾決算とその後の倒産は,これらが建前上の機能を果たせなかったことを明らかにした。①②③については,いずれももエンロンからの「独立性」は保持されなかった。④についても,自社株購入後短期での売却が行われ,経営者としての利害が株主の利害と長期的に一致することはなかった。
4)2002年,これらの弱点を補強する目的をもって「企業改革法」が成立し,①情報開示の強化,②財務報告の説明責任と虚偽報告への罰則強化,③監査法人を監視する委員会の設置などが行われる。しかし他方で,①社外取締役の報酬が社内から支払われること,②監査法人が適用すべき監査基準の曖昧さ,③証券アナリストの独立性保証の曖昧さ,④ストックオプションの費用としての計上化が義務づけられないことによる,損益表示への影響が残る等の課題も残された。
5)大雑把に以上の内容である。不足を感ずる点は,①「投資家資本主義」とはいえ「資本蓄積」の方式に規定されるという指摘,②その「蓄積」方式が大金融機関の協力・仲介に支えられるという指摘それぞれの具体的な内容の説明であり,③さらにより大きな問題としては,コーポレート・ガバナンス論が労働者の地位をほとんど語らない点,さらに企業の社会的責任を語られない点など,コーポレート・ガバナンス論それ自体の枠組みの制約が検討されないところである。本章の限りでいえば,それは労使関係において「使」を構成する利害関係者の利害調整を主とする議論であり,またその利害関係者がそれぞれ私的に自立した存在であることによる無政府性が相互の利害調整の均衡を不可能にしているように見える。今後への問題意識として確認のこと。
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