1)テキスト47~55ページを読む。財界の2つの経済戦略の流れ,①ゼネコン国家化と,②規制緩和・市場開放の路線の一定の対立と政治への反映が中心テーマ。まず1955年に結党された自民党の得票率の変化について。60~90年は50%弱を獲得するが,2000年には28%へ急低落。無駄と環境破壊のゼネコン国家(およびその財源づくりの消費税)が国民的な批判にさらされ,財界内部にも①②の対立が表面化する。
2)その政治への露骨な反映が橋本内閣の右往左往。同内閣は97年11月に財政構造改革促進法を成立させ,社会保障削減などの国民負担増のほか,公共事業の一定の抑制を打ち出す。現に98年度政府予算は11年ぶりに公共事業費がマイナスとなった。ところが,その予算がスタートした4月に史上最大級の公共事業費をふくんだ大型補正予算がつき,5月には財構法の修正が行なわれる。①サイドからの巻き返しである。これに対して,経済同友会は②の立場から6月には「公共事業改革の徹底」をもとめる反論文書を出す。しかし,経団連は「切れ目のない景気対策」をもとめていった。5月に経団連会長は,最大の多国籍企業トヨタから,最大のゼネコン企業新日鉄に交代していた。98年夏の選挙での敗北ののち,橋本内閣にかわる「借金王」小渕内閣が成立し,「二兎を追うもの一兎を得ず」とする,徹底した大型公共事業路線が復活する。森内閣はその延長。②の「経済戦略会議」は,この段階では政策を実行させる力をもたない。
3)2001年の自民党総裁選で,あらためて①②の対立が再燃する。①の亀井,①②折衷の橋本・麻生氏に対して,従来型①を「ぶっこわす」とさえして②を主張した小泉氏が首相に就任。その段階では,経済同友会だけでなく,経団連も②路線への再度のすりよりを深めていた。そこから「構造改革」の本格的な実行が開始される。実体は「経済戦略会議報告」の実行である。これへの経団連の支持は,2002年の日本経団連発足とトヨタの奥田会長就任でより明快になる(奥田氏は戦略会議のメンバーでもあった)。その路線が,実際には,世界最大の大型公共事業を縮小・継続しながら,日米大企業への新たな利益機会の提供を目指すものであることは,すでに述べてきたとおり。
4)2006年今年の総裁選には,もはや①②の対立はない。候補者いずれもが①をふくみながら②を推進する立場にある。新たに大きな争点となっているのは「靖国問題」であり「東アジア政策」。小泉首相の靖国参拝とそれによる対中韓関係の最悪化を財界は厳しく批判し,アメリカ内部からも強い批判が出てきている。小泉氏は後継者に安倍晋三氏を推すが,安倍氏も靖国問題発言は「伝統を金で売るのか」から「参拝を公言しない」へとトーンダウンを余儀なくされている。他方,中韓との関係修復を最重点課題にかかげる福田氏は,財界の多くの支持をとりつけ,訪米中。小泉氏は全国各地での演説会開催で国民の安倍人気をあおりたい。しかし,それには時間が必要で,6月18日の国会会期を教育基本法「改正」など懸案課題のためにどこまで延長すべきかの模索も行なわれはじめてもいる。総裁選をめぐる動きを材料に,しかし自民党の議論の枠をこえて,「日本はどうすすむべきか」を考えていきたい。
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