1)テキスト第2章に入る。まず竹中平蔵氏の議論を読むことの意義について。学者時代から「経済戦略会議」「IT戦略会議」と重要な諮問委員会の委員をつとめてきた竹中氏は,01年小泉内閣発足にともない経財相となり「経済構造改革」推進の中心に立つ。さらに郵政民営化大臣,総務大臣と「改革」の焦点を時々に担当する立場にある。氏自身のイニシアと同時に,氏の行動と発言は「構造改革」推進の大きな流れの代弁者という意義ももつ。「改革」路線の内実を知る重要な手がかりとして氏のものを読む意義がある。
2)「改革」の世界的背景として,竹中氏は,①世界の市場経済化(ソ連・東欧の資本主義化),②IT化,③両要因による市場メカニズムの強化を語る。それを「チャンス」だと語る目線は,新たな市場へ参入しようとする企業・銀行自身の目線であり,それで国民のくらしはどうなるかという生活の目線は存在しない。他方,市場メカニズムの強化が世界的な「制度の均一化」を必要とするともいうが,内容はアメリカン・スタンダードの日本への適応。なぜ世界市場への変化が日本市場のこの手の改革を必然とするかの理由は語られない。
3)現実の「改革」推進にあたっては,「山の国」主導の経済政策から「海の国」主導の経済政策への転換が必要だとされる。農業・銀行・ゼネコンなどの前者は,競争にさらされないことによって生産性が低くなっており,自動車・電機などの後者は高い生産性を維持していると。そして過去の政治指導者は「山の国」からやってきたと,政治の流れそのものの転換を求める。実際90年代以降の政治をみれば,93年が公共事業費のピーク,97年に橋本内閣が財構法をつくり,98年には逆戻りをする。これをついだ小渕・森内閣は公共事業大盤振る舞いをつづけ,01年に「経済戦略会議」答申を実行するとした小泉内閣が誕生する。この瞬間に「経済戦略会議」委員であった竹中氏が入閣するが,以上の時期は,大局的には「山の国」主導から「海の国」主導へと政治の内容が移り変わる転換の時期(過渡期)となった。
4)竹中氏は「改革」の推進にあたり,「外圧」を利用することが必要だとも述べており,アメリカの要請に答えることを重視する。要するに「改革」は,①財界(特に「海の国」)からの要望と,②アメリカン・スタンダードの強制というアメリカからの要望に特徴をもつ。05年の郵政民営化法に端的にあらわれたように,それは日米大企業への新たな利益機会の提供を第一とする。これに抵触する各種規制が「改革」され,また大企業により利殖の障害となる社会保障や企業「福祉」などの破壊がすすむ。氏は競争は生産力を高めるというが,その一方で人件費抑制や中小企業いじめが深まり,失業率が高まっている。その競争の「破壊的側面」に一向に目を向けないところに,「強者の目線」が良くあらわれている。
最近のコメント