テキスト第3章「経済の空洞化を促進させる対アジア戦略」に入る。企業の海外進出と中国を中心とした東アジアの成長がキーワードとなる。
①海外現地生産が拡大している。原材料生産の素材型に対して,完成品生産の加工型が海外生産により積極的。現地生産の拡大は,同時に国内生産の縮小を意味することが多く,それによって雇用の空洞化が進んでいる。
②現地生産の拡大は,その生産物を日本向けに輸出する「逆輸入」をも拡大させる。中国の低賃金労働力の活用が推進力で,これが競合する国内産業の衰退をもたらす事態も生まれている。タオル,しいたけなど。電機産業の逆輸入も拡大している。
③日本からの輸出については加工型が北米市場向け中心であるのに対して,素材型は中国など東アジア向け中心となっている。ただし低賃金労働者により中国で加工された製品は,アメリカ市場へ再輸出される比率が高い。中国を経由した日本企業による「迂回輸出」である。
④素材型の主力は生産過程の分割が困難な鉄鋼産業であり,加工型の自動車・電機産業は生産過程の国際分割により適した産業となっている。それが加工型が海外進出により積極的であることの根拠ともなる。
⑤2002年の調査にもとづく以上の諸傾向は2004年になっても大きくは変わらない。ただし世界経済における中国の位置づけは「世界の工場」から「工場と同時に市場」へと変わってきている。実際,日本の主力製品が外国企業と最も激しく競合する地域は中国となっている。またアメリカの輸入相手国は,NAFTAを結ぶカナダ・メキシコのあいだに中国がはいり,日本からの輸入を大きく上回っている。
⑥中国の成長および東アジアサミットに象徴される東アジア経済共同の推進が,アメリカの東アジア政策の転換をもたらしている。アメリカは,アメリカ企業により都合のよい東アジアの共同に向けた日本の発言力拡大を求め,そうした角度から靖国・歴史問題の解決を求めるようになっている。日本財界も同様であり,9月29日の所信表明演説で安倍新首相は靖国・歴史問題にふれることができなかった。
⑦なお身近な雇用の問題について1つ。非正規雇用の拡大によるワーキングプアの形成が進められ,20代では非正規雇用が半数に達している。兵庫県は雇用確保のための企業誘致をすすめ,尼崎に進出した松下プラズマディスプレイ工場に90億円の助成をするとする。ところが,それによる地元採用の内訳は「正社員6名」に対して「派遣労働者236人」でしかない。なぜこのような誘致に巨額の税金投入が必要なのか。県の企業誘致策の内実が問われるところといえる。
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