テキスト、榊原英資・吉越哲雄『インド巨大市場を読みとく』(東洋経済新報社、2005年)に入る。
奥付から著者の紹介を読む。実務家であり経済外交の実践家であったところに著者の特徴がある。とりわけ榊原氏は、1997年のアジア通貨危機において「アジア通貨基金」の実現に奔走し、アメリカの抵抗にあってこれを実現することができなかったという問題の中心人物。
世界と日本の経済をとらえる視角としては、①長く自民党政治の経済外交を担い手であった、②国益(多くが大企業益)が東アジア特に中国との交流にかかっていることを強調、③日米友好を肯定するがアメリカの世界支配はすでに崩れ始めているとの時代認識をもっていること等が特徴となる。
テキスト「はじめに」を読む。IT産業主導の経済成長という特異性に着目し、ITサービス輸出からあわせて内需拡大の段階へ、さらに左翼政党と連立した国民会議派による自由化政策の継続などに着目し、インドの経済成長の特質の歴史的意義を考えるとする。それは日本の進路を考えるのに不可欠な知識としてもとらえられている。
テキスト「プロローグ-21世紀の経済大国」に入る。インドにおける「中産階級」の成長が、不動産や自動車の消費を拡大し、これら産業の拡大を促している。住宅ローン・自動車ローンなどの消費者向けローンも。
こうした成長の転機は、1991年の「新経済政策」。直前には財政赤字、湾岸危機と戦争による原油価格高騰の影響、ラジブ・ガンジー暗殺による政治不安などが重なる経済危機があった。この中に成立した国民会議派ラナシム・ラオ政権が、財務大臣マンモハン・シン等を中心に「新経済政策」をとる。内容は、①国家による経済規制の緩和・自由化、②外資導入規制の緩和。
これにアメリカの「IT革命」の時期が重なり、ソフトウェア産業育成が経済戦略の中心に立って成功をおさめる。ソフトウェア産業が輸出の主力として急成長し、これがインドの債権国化を可能にする。
この点については、テキストは簡単な指摘にとどめているが、おそらく重要な役割を果たしたのは、「新経済政策」以前からの工学教育の重視。高い技術の蓄積なしに、ソフトウェア産業は簡単に成り立たない。つまり、①「新経済政策」、②「IT革命」、③ソフトウェア産業を戦略産業と位置づけた判断にくわえて、④それを可能にした高い技術・教育の存在が重要。
このインドの成長パターンは、①軽工業、②重工業、③サービス産業という従来型の資本主義成長のパターンと大きく違う。これを可能としたのはグローバリゼーション。
以上の範囲の限りでも、①自由競争あるいは市場の役割に対する評価、②グローバリゼーションが生み出した途上国成長の新しい道筋、③経済や産業をリードする人材育成の役割などが、それぞれ今日のインド経済を考える重要な論点となることがわかってくる。
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