兵庫農民連事務局長の上野さんは「兵庫民報」にこう書いていた。
「昨年は、作況指数『九六』の三年続きの不作だったにもかかわらず、値下がりしました。農家に今、米代の一部が仮り渡しされますが、一俵(六十㌔㌘)当たり、JA丹波ひかみのコシヒカリで一万三千円。JA兵庫南のキヌヒカリで一万二千円。いずれも昨年より千円安くなっています。農水省の〇六年度の調査によれば、米生産費は一俵当たり一万六千八百二十四円。まったく採算割れになっています。」
全文は、憲法が輝く兵庫県政をつくる会の『We Love Hyogo』(08年2月出版予定)に再録される。
経済時評 米価暴落と“農業恐慌”(しんぶん赤旗、12月22日)
経済評論家の内橋克人さんが、雑誌『世界』(〇八年一月号)の対談で、最近の米価の暴落について、次のように述べています。
「農業恐慌の恐れが出てきた…激しい米価の下落―世界的な穀物価格高騰のなかで日本のコメだけ暴落―で、辛うじて踏みとどまってきた農業従事者が、二〇〇七年、もはや再生産を続けるのも難しい危機に陥ってしまった…農業恐慌再来論を笑うことのできない時代に入った」
今日の米価暴落を“農業恐慌”とみることには異論もありうるでしょう。しかし、それを承知の上で内橋さんが「農業恐慌の恐れ」と心配する意味を、いま国民全体が真剣に考えるべきときだと思います。
米価下落の“底が抜ける局面”に近づく
従来の農業恐慌の特徴は、恐慌時の価格の下落が工業にくらべてはるかに急激で、しかも長引き、農業生産や農民経営に深刻な打撃を与えるだけでなく、社会全体にも重大な影響をおよぼすことでした。
今日の米価下落の特徴は、短期間に大暴落するかわりに、長期間、継続的に下がり続けていることです。この十年余で、生産者米価は四割近くも下落しています。とりわけ今年は、コメの作況指数が99(平年並み)で生産が急増しているわけでもなく、消費も急減したわけでもないのに、今年産米の入札価格は全銘柄平均で前年比8%も下がっています。
コメの生産費は、農水省の計算でさえ、六十キログラムで1万6824円(〇六年)なのに、落札価格は1万4434円と、生産費を大きく下回りました。生産者の95%が採算割れとなり、大規模経営でも成り立たない水準です。
本紙の連載「米価暴落―東北・秋田から」(十一月三十日付から十二月四日付)では、規模拡大のために農地や大型機械を購入したものの、米価暴落で苦悩する秋田県大潟村などの農民の実情を詳しく伝えていました。米価暴落は、稲作農家の規模を拡大していけば生産性が上がるとして、農政の対象を一部の大規模経営だけに絞るコメ政策の行き詰まりを示しています。
長期の米価下落は、ついに“底が抜ける局面”―ほとんどの農民が、もうコメ作りをやっていけなくなるがけっぷちに近づいています。
市場原理に米価をさらし続ける農政の破綻
今日の米価暴落は、市場原理に米価をさらし続ける農政の破綻(はたん)も示しています。
一昔前までは、政府買い入れの生産者米価はもっとも重要な公共料金の一つでした。毎年六月ごろの米価審議会の会場前は、ムシロ旗をかかげた農民団体やテレビ、新聞の報道陣で騒然としていました。
しかし、一九九〇年の自主流通米価格形成機構の設立、九五年の食糧法、〇四年の同法大改正によって米価に市場原理が本格的に導入され、米価決定の仕組みは様変わりしました。政府は米価決定を市場メカニズムにまかせ、米価が下がるのはコメが過剰だからといって、農家に減反を押しつけ続けてきました。
福田首相の米価問題への認識は、こうです。
「コメの価格が下がる理由というのは幾つかあるわけでございます。その中でもやはり需給バランスが悪いということ、要するに生産過剰ということですね」(注)
しかし、世界的な食糧危機が確実に迫っているのに、食糧を輸入に頼り、自給率を39%にまで引き下げておいて、「生産過剰」を云々(うんぬん)するのは、まさに“井の中の蛙(かわず)大海を知らず”ではないのか。
米価が下がり続けているため、全国平均のコメ作りの家族労働報酬は、一時間あたり二百五十六円(〇六年)という水準です。これではやっていけなくなるのは当然でしょう。
市場原理も、農民あってこそのもの。農業従事者は、製造業や商業のように、パートや派遣で簡単に代わりをみつけることはできません。現代農業を担う農民は、大地に根ざして安全で質のよい食料を生産する“熟練技能者”でもあるということを肝に銘ずべきです。
「小手先の対応では日本農業は崩壊する」
かつての農業恐慌と今日の米価暴落との違いは、大企業が四年連続で最高益を謳歌(おうか)し、財界や政府が「長期景気」を喧伝(けんでん)しているもとで、米価だけが下落し続けていることです。
別図は、今年、自動車生産が世界一になるというトヨタの売上高とコメの総産出額を比較したものです。その格差は、十数年前の三倍前後から最近は十三倍に拡大しています。
この極端な“産業格差”は、一握りの多国籍企業化した大企業だけが大もうけを続ける日本資本主義の異常さ、それを促進する産業政策のゆがみを示しています。こうしたいびつな産業構造のもとで、市場原理の土俵にむりやり農業を追い込んだなら、価格下落・生産縮小がおこるのは、むしろ経済法則でしょう。
日本共産党の紙智子参院議員は、十月十七日の予算委員会で、当面の緊急対策として、「備蓄制度を活用して米価の下支えを」と要求しました。十月末に政府も備蓄米を積み増しし、その後やや価格も持ち直しましたが、下落の流れを止めるまでにはなっていません。
紙議員は、福田首相への質問で、緊急対策とともに、「小手先の対応では日本の農業は崩壊する」、「食料自給率を引き上げることを中心に据えた農政を」と迫りました。「国の産業政策のなかで、農業を基幹的な生産部門として位置づける」(日本共産党綱領)―この視点こそ、農政に求められていることです。
農水省は、十月から「『販売』を軸とした米システムのあり方に関する検討会」を開いています。その第一回議事録には、農民代表の切羽詰った悲痛な発言が、次のように記録されています(農水省ホームページ)。
「政府は、国民に日本に本当に稲作は必要なのか、日本に農業は必要なのか、もっと強くアピールしてほしい」
(注)十月十七日の参院予算委での紙議員の質問への福田首相答弁(友寄英隆)
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