敗戦確定直後、旧海軍が日本人「慰安婦」を看護婦として雇用するよう命じた通達が明らかになった。
「共同通信」は「解説」の中で、「新たな立法措置」の必要を述べており、「琉球新報」は「恥ずべき旧軍の事実隠ぺい」を社説で批判した。
共同通信 2008.6.19配信 6.20 各紙朝刊掲載(中国新聞、6月19日他)
敗戦後、慰安婦を看護婦に/旧軍の命令、文書で初確認/「特別な関係」の事実補強
第二次大戦での日本の敗戦決定直後、旧海軍が日本人慰安婦を、軍病院の補助的な看護婦として雇用するよう命じた通達が19日までに、連合国側が暗号解読して作成された英公文書で判明した。研究者らは、慰安婦が看護婦に雇用された際の身分が軍属だった可能性が高いとみている。敗戦時に軍属雇用するという配慮から、軍が戦中に慰安婦管理に事実上深くかかわっていたとする見方を補強する貴重な史料としている。
従軍慰安婦問題では、政府の謝罪や補償の根拠となる当局の関与の度合いが問題となっており、今後の議論に影響を与えそうだ。「看護婦」とすることで、当局が慰安婦の存在を連合国側から隠ぺいしようとした可能性も指摘されている。
慰安婦を看護婦としたことは元兵士らの証言や、オーストラリア人ジャーナリストの著書の中で出典不明で紹介されたことがあったが、その命令が原文に近い形で確認されたのは初めてとみられる。関東学院大の林博史(はやし・ひろふみ)教授(現代史)が英国立公文書館で発見した。
英公文書によると、東南アジア方面に派遣された第一南遣艦隊司令長官からサイゴン第一一特別根拠地隊などにあてた一九四五年八月十八日付の通達で、シンガポールで海軍の「慰安施設」で働いていた多くの少女が、海軍第一〇一病院で補助的な看護婦として雇用されたと指摘。サイゴンでも「同様の措置」をとるよう命じた。
また、同二十日付の「第八通信隊」から海軍民政部の全責任者に出された通達には、「全地区の日本女性」を看護婦の資格で病院に割り当てるよう指示。内容を理解した後、その通達電文を「完全に焼却」するよう付け加えた。
林教授ら研究者によると、軍が慰安婦を看護婦として雇用した理由としては、引き揚げ時の手続き面などで慰安婦より看護婦の方が都合が良かったことなども考えられる。また、命令の中で言及された「日本人」には朝鮮半島出身者も含まれていたとみられるという。(共同)
解説--〝慰安婦隠し〟が狙いか/法的責任認めぬ日本政府
第二次大戦時の慰安婦らを敗戦直後に補助的な看護婦として雇用するよう旧海軍が命じた通達の狙いは、都合の悪い慰安婦の存在を連合国側に隠そうという〝慰安婦隠し〟の意図があった可能性が考えられる。
従軍慰安婦問題では、韓国などの元慰安婦らは今も、日本政府に謝罪や賠償を要求している。しかし、日本政府は旧日本軍の一定の関与と道義的責任は認めつつも、二国間条約などで解決済みとして法的責任は認めていない。
国連人権委員会は一九九六年、元慰安婦への賠償を勧告したほか 、国際人権団体は従軍慰安婦問題を「性奴隷問題」と追及。欧米の議会などでは最近も対日非難決議が続くなど、国際社会で日本の立場が広く受け入れられているとは言い難い。
今も〝慰安婦隠し〟を続けているという国際的な批判を避けるためには、元慰安婦らの声に耳を傾け、新たな立法措置など十分な対応をする必要がある。
ある高齢のオランダ人元慰安婦は昨年十一月、国際人権団体がロンドンで開いた会合で「お金の問題ではない」と強調。自分が非人間的な扱いを受けた明確な理由をいまだに日本側から得られていないなどと訴えた。(共同=上西川原淳)
識者談話-軍属待遇との見方を補強/中央大学の吉見義明(よしみ・よしあき)教授(日本現代史)の話
慰安婦の身分は、純粋な民間人でも軍が雇用する軍属でもなく、今でも議論がある。だが、今回見つかった史料は「軍属待遇」だったとの私の考えを補強する内容だ。軍は戦中、慰安婦に給与は払わないものの軍属と同等の便宜を図ったと考えられ、私は日本政府には重い責任があると言ってきた。
これまでの史料で、軍が慰安所を建設し、慰安所規則も作成、利用日を指定したことや性病検査を行ったことが判明している。軍と慰安婦との間に「特別な関係」があったことは分かっている。
また、慰安婦を看護業務にあたらせたという元日本兵の証言などもあるが、軍との「雇用関係」があったのかなどは明らかになっていなかった。今回見つかった史料の「雇用」という言葉は「特別な関係」を明確にしたと言える。
慰安婦の存在については「慰安所」という遠回しな表現からも、軍にとっては公然とは言えない問題で、看護婦とすることで連合国側に隠そうという意識があったと思う。(共同)
英公文書の要旨
英公文書の要旨は次の通り。
▽一九四五年八月十八日、第一南遣艦隊司令長官からサイゴン第一一特別根拠地隊などあて
一、シンガポールの海軍「慰安施設」に関して、日本人従業員は海軍第一〇一病院で雇用されることになった。より多くの少女が補助的な看護婦とされた。これと同様の措置をとるようにせよ。
▽同二十日、第八通信隊から(海軍)民政部の全責任者あて
一、全地区の日本女性を地方病院(第一〇二病院または民政部病院)に看護婦の資格で割り当てよ。(この電文は完全に理解後、焼却せよ)
(共同)
従軍慰安婦問題
従軍慰安婦問題 第2次大戦中、朝鮮半島や中国などの女性が、戦地の「慰安所」で日本軍に性的被害を受けたとして、日本政府に謝罪や賠償を求めている問題。1993年の河野洋平官房長官談話は「おわびと反省」を表明。日本政府は95年「女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金)を発足させたが、民間募金を「償い金」として渡す方法に元慰安婦らが反発した。米下院は昨年7月、慰安婦問題での公式謝罪を日本政府に求める決議を可決。その後、カナダやオランダの議会、欧州連合(EU)欧州議会でも同種の決議が可決された。(共同)
「従軍慰安婦 はずべき旧軍の事実隠ぺい」(琉球新報、2008年6月21日・社説)
またも旧日本軍の犯罪の一端が明らかになった。戦後補償の焦点ともなっている従軍慰安婦問題で、旧軍が敗戦直後に、日本人慰安婦を看護婦に雇用するよう通達していた。
従軍慰安婦問題を隠ぺいする姑息(こそく)な工作である。一事が万事。この際、国には慰安婦問題に関する旧軍犯罪の徹底調査を求めたい。
従軍慰安婦問題では、第2次大戦中、戦地の慰安所で日本軍に性的被害を受けた朝鮮半島や中国などの女性たちが、日本政府に謝罪や賠償を求め続けている。
政府は1993年に官房長官談話の形で「おわびと反省」を表明し、95年には「女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金)を発足させている。
しかし、民間募金を「償い金」とする方法に、元慰安婦らは反発している。民間募金では、日本政府の正式な謝罪と受け取れないというのが理由だ。
加えて、1人当たり200万円という補償額を受け取るために、従軍慰安婦として名乗り出る社会的デメリットもある。実際、償い金を受け取った元慰安婦は90人余にとどまったまま、事業は2002年に終了している。
実態解明も不十分なまま、口先だけの謝罪では、性的奴隷とされた元慰安婦たちの傷は癒やされない。だからこそ元慰安婦たちは現在に至るまで日本政府に対する公式謝罪と損害賠償請求を繰り返し提訴している。
これに対し最高裁は昨年、「日中共同声明で個人の賠償請求権は放棄された」との判断を示し、慰安婦の請求権を否定している。
従軍慰安婦問題では、政府の謝罪や補償の根拠となる当局の関与の度合いが常に問題になってきた。
今回見つかった英公文書で、旧軍が日本人慰安婦を軍病院の補助的な看護婦として雇用するよう命じた通達電文(1945年8月18日)の存在が明らかになった。
軍が戦中に慰安婦管理に事実上深くかかわっていたとする見方を補強する貴重な資料とされる。
しかも、内容から旧軍が慰安婦の存在を連合国側から隠ぺいしようとした可能性も指摘されている。
通達電文は「完全に理解した後、焼却」との指示も明示している。
「慰安婦隠し」で、犯罪を隠ぺいする重犯行為ともいえる。
戦後60年余を過ぎてなお慰安婦問題で謝罪も賠償も不十分な日本政府に国連人権委員会や欧米議会から非難決議が続いている。
旧軍による慰安所建設や慰安所規則、利用日指定、性病検査の実施の事実は、すでに判明している。政府がすべきは旧軍の犯罪隠ぺいをほう助し、責任逃れをすることではない。国民が求めているのは旧軍犯罪の徹底調査と告発であり、被害者への謝罪と補償である。
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