○さて〆切まで,あと1ケ月。
そろそろ少しは作業全体の見通しがいる。大雑把に整理をしておきたい。
○暫定的な課題は,日米中の政治・経済関係のなかで,「離米」の主張がどうあらわれており,その内容がどう評価できるのかを明らかにしていくこと。ここでの「離米」の議論については,いわゆる革新的な政治・市民運動をのぞき,支配層周辺のものに限定しておく。
まず重要なのは,前回論文以降,アメリカの対中国戦略に大きな転換が明確となり,それによって「親米か親中か」という二者択一的議論に加え,「親米の枠内での親中」という議論が可能になってきていること。
そうした変化の根底には米中,日中間の経済的交流の深まりがある。日本の支配層でも財界がまずは一定の枠内での「親中」を主張し,靖国参拝批判を行なっていく。米中関係については,中国企業のアメリカ進出といった「相互浸透」もふくめて,その密接化が急である。
「中国封じこめ」がすでにアメリカにも採用しようのない道になっていることは明らかで,軍事的敵対から一定の警戒は維持しながらも,これをアメリカン・グローバリゼーションの担い手として取り込んでいくことが目論まれている。
○他方で,政治面では米中の頻繁で急速な首脳外交の展開に対して,日中の長期の「政冷」は対照的な状況といえる。
日米関係が強固なら,アジアとの関係も開けてくると小泉首相は語ったが,そのきざしはいまだどこにも現れていない。
むしろ対中,対東アジアの外交政策では,日米関係のズレが拡大しており,そこはアメリカにとっても障害と感じられるようになっている。そのズレを容易に修復させない日本国内の力は「靖国史観」勢力である。
そのズレが日米政府間の重大問題としてクローズアップされないのは,アメリカに対する軍事拠点としての気前の良い国土の提供と,「経済的領土」の提供という2つの大きな「貢献」があってのことだろう。
○支配層周辺での「離米」論だが,①日米の従属的な軍事一体化,米軍基地の再編・強化については,基本的に反対論が見当たらない。せいぜい「仕方がない」とつぶやくくらいが関の山。日米政府間の軍事面での従属はきわめて強固といわねばならない。
ただし,基地再編・強化の動きは,保守勢力を含む関係自治体からの強く新しい反発を生み出している。社会全体の動きを論ずる際には,もちろんここに注意がいる。
②経済的従属・依存については,「構造改革」路線が定着している。自民党の前回総裁選では,小泉・麻生・亀井・橋本4氏の中で「構造改革」(経済戦略会議答申)路線推進を正面からかかげたのは小泉氏だけだった。しかし,今回の総裁選ではその道に異を唱える候補はいない。
小泉・竹中主導の「従米構造改革」に小さな反旗をかかげた者さえ,郵政民営化選挙で整理がつけられた。
アメリカによる対日経済支配の深まりには,論壇においては吉川・関岡氏らによる警鐘があり,特に関岡氏にはその角度からの国民新党等への高い評価もあるようだ。しかし,それがアメリカへの従属を脱したどのような経済運営を望んでいるかについては定かでない。批判はそれとして貴重だが,さらにすすんだ対案の提示が求められる。
その点では,前回論文で指摘した榊原・山下氏の「アジアとともに生きる」論がより鮮明である。ただし,現時点では,その具体的な「生き方」が,冒頭にふれた「親米の枠内での親中」路線とその程度に重なり,またどの程度に距離をもつかについての確認の必要が生まれている。
③日米の東アジア外交のズレについては,是正を求める動きが総裁選にも現れている。日本財界の意向も反映していよう。「東アジア外交重視」をかかげる福田氏の訪米を,アメリカ政府首脳が歓待した姿は記憶に新しく,経済同友会からは「靖国参拝」への批判にとどまらない,近現代史の見直し論もとびだしている。
アメリカの中国・東アジア外交については,すでに森原論文が相当の資料の裏付けをもってこれをまとめている。
そうであれば森原論文の分析を一つのものさしとして,アメリカの戦略と日本政財界内部の「東アジア外交重視」路線との異同を明らかにしていくことが可能であろう。経済同友会の文書,東アジア共同体評議会の文書もあらためてその角度から読み返してみる必要がある。
また靖国など政治問題を脇に置く形で展開されている,政府の「経済戦略」文書なども見る必要があるか。
靖国史観堅持の動きは,客観的にはアメリカの外交政策に衝突せずにおれないのだか,当人等の自覚は「反米」でも「離米」でもなく,むしろ非常に狭い意味での「反中国」のようである。
○他方で,中国政府の対日,対米外交政策,また中国経済界の対外政策も見ておきたいだが,今回の論文で手を伸ばすことのできる範囲はかなり限定されそうである。
○最後には,おそらく多少なりとも具体的に論じられた米日中の諸関係を,世界構造の大きな変化の中に位置づけるという視角が必要になる。
○その他,日経新聞主催の「アジアの未来」シンポジウムの様子や,東アジア共同通貨の形成にむけた動き,米日中の客観的な経済関係の描写にも留意すべし。
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