中国が設立する新投資会社の運用資金は2000億ドルとなるらしい。全保有外貨の6分の1である。
そして、今回のブラックストーンへの30億ドル出資には、新投資会社運営のための授業料との側面があるようである。
元ドルの今日的なレートを支えるために、中国のドル保有は拡大し、すでに日本に次ぐ金額となっている。
しかし、日本のように無策な態度をとれば、円高を阻止するためにドル保有は拡大するものの、そのドルの資産価値が下がるのをただ黙過するしかないとのことになりかねない。
そこで、中国はより高い運用利益を求めて行動するとのことらしい。「市場の活用」がいよいよ、世界的規模での金融市場にまで広がってきているということである。
中国マネー 世界で存在感 米ファンドへ投資 外貨運用の第一歩(読売新聞、5月22日)
中国政府が設立する投資会社による米大手投資会社ブラックストーングループへの30億ドルの出資は、1兆2000億ドル(約144兆円)を超える巨額の外貨準備を抱える中国が、世界の金融・資本市場で存在感を強めていることを象徴している。今後、中国からの投資資金が世界の市場に出ていった場合に、どのような影響があるかなど、不透明な点も多い。(北京 寺村暁人、ニューヨーク 山本正実)
目減り
中国の外貨準備は、昨年2月末に日本を抜いて世界最大となり、今年3月末で1兆2000億ドルを超えた。巨額の貿易黒字による大量の米ドル流入に加え、人民元レートを低めに抑えるため、中国当局が米ドルを買い支えているため、外貨準備は増える一方だ。
05年7月の人民元切り上げ以降、人民元の対ドル・レートは上昇し、06年は年間で約3・4%上昇した。今年は年間4~5%程度のペースで上昇している。中国の外貨はその大半がドル資産とされ、ドル安が進めば、その分、人民元換算の資産価値は下がる。現在の主要な運用先と見られる米国債の利率は、年利4・5~5・0%程度で推移しており、元高・ドル安がこれよりも高いペースで進めば運用損が出かねない状況だ。
米の反応探る
このため、中国政府は「外貨運用の高収益化を極力可能にする」(金人慶財務相)狙いで、シンガポール政府系の投資会社などを参考に投資会社を年内にも設立する。中国が必要な外貨準備は「6500億ドルが適正規模」(成思危・全国人民代表大会常務委員会副委員長)と言われている。このため、最大で数千億ドルが運用に回される可能性もある。その場合、チャイナマネーは世界の市場にとって中東のオイルマネーと並ぶ大きな存在となる。
中国紙の報道によると、投資会社の準備グループの楼継偉グループ長は今回の決定について「第一弾の投資先がブラックストーンのように著名な会社になることは非常にうれしい」と述べた。ブラックストーンへの出資をいち早く決めた背景には、投資会社設立後の本格投資に備え、「実務上の問題がないか確かめる狙いがある」(国際金融筋)と見られている。
米国政府や議会の反応を見ることで、中国から巨額の投資資金が世界の金融市場に出ていくことに対するマーケットの受け止め方を探る意味もありそうだ。
容 認
米国では、安全保障上の問題につながりかねないエネルギー企業などに対する外国政府の経営関与に、強い拒否反応がある。
2005年に表面化した中国の国有石油会社、中国海洋石油による米石油大手ユノカル買収計画は、「中国にエネルギー資源を取られる」とした米議会の強い反対で頓挫した。ユノカルで懲りた中国政府は、ブラックストーンから受け取る株式を議決権がない普通株とし、さらに株式保有比率も10%未満に抑えるなど、同社の経営に直接関与できない計画とした。米政府もこうした配慮を酌んで提案を容認したとみられる。
ただ中国政府が、今後も投資会社を通じて、高い運用実績のある米投資会社や優良な米メーカーなどに投資する可能性は大きい。米国には、外国企業による米企業の買収を審査し、米政府が買収を差し止められる制度もあり、安全保障の面などから反対するケースも出てくるとみられる。
中国の外貨準備は、米国に限らず高い運用成績を求めて世界を駆けめぐる可能性もあり、市場関係者は、中国政府の投資姿勢から目が離せなくなりそうだ。
中国の外貨準備積極運用、ドル安につながるかは不明(日経BP、5月22日)
5月21日、中国の外貨準備を運用する新機関が、米ブラックストーン・グループに出資する計画を発表したことで、より高い運用益を求める中国の意図が示されたと言えるが、こうした動きがドルの下落を意味するかどうかは定かではない。
[ニューヨーク 21日 ロイター] 中国の外貨準備を運用する新機関は、米プライベートエクイティ大手ブラックストーン・グループ[BG.UL]に30億ドル出資する計画を発表したが、これによって、より高い運用益を求める中国の意図が示されたと言えるだろう。
ただ、こうした中国の新機関による動きがドルの下落を意味するかどうかは定かではない。
一部の市場参加者の間では、中国の新機関のような国家資産の運用機関が登場すれば、ドル建て以外の高利回り資産への投資を選好し米国債の保有高を縮小するとみられることから、ドルの圧迫要因になるとの声が上がっていた。
しかし、中国のブラックストーンへの投資は、こうした機関がドル建て資産の分散化よりも、米国の株式や社債への投資を通じて運用利回りの拡大を目指していることを示唆しているとみる向きもある。
ビクトリー・キャピタル・マネジメントのアービンド・サクデバ最高投資責任者(CIO)は「米資産を売却するのではなく、彼らがそのような投資を魅力的だと考えていることが実際に示された」と述べた。
アジア諸国の巨額の貿易黒字やサウジアラビアやロシアの莫大な原油収入を背景に、投資リターンの最大化を目的にした、外貨準備の一部を運用する国家資産運用機関の設立がここ数年相次いでいる。
リーマン・ブラザーズによると、上位13機関の運用資産総額は2兆1000億ドルに達しており、こうした機関の世界の資産価格への潜在的影響力が高まっている。
中国の外貨準備は1兆ドルを超えており、設立の決まった新機関は約2000億ドルの資金を運用する。
カンバーランド・アドバイザーズのデビッド・コトックCIOは、中国のブラックストーンへの投資について、氷山の一角だと指摘。「中国が30億ドルだけで投資をやめる可能性は非常に低い」と述べた。
同CIOは、中国の外貨準備運用機関が英国やユーロ圏、またスウェーデンなどの資産に一部資金を投資する可能性があるものの、「中国は米国を欧州連合(EU)に代わる、より開放的な経済だと見なしている」と説明した。
ビクトリー・キャピタルのサクデバCIOは米国株について、特にエネルギー関連やテクノロジー関連は多大な価値を有していると指摘した。さらにブラックストーンが米国のプライベートエクイティであることから、同社が米国での投資機会に注目する方針を変える可能性は低いと強調した。
ただ、米国債投資が手控えられるようであれば、特に中国が人民元のドルに対する一段と速いペースでの上昇を容認した場合、その他の米資産への投資を圧迫する可能性があり、結果的にドルの下落を招くと警告する向きもある。
中国は米国債に投資することで人民元の対ドル相場での上昇を抑えている。米財務省によると、3月末時点の中国の米国債保有高は4200億ドルと、首位の日本に次ぐ規模となった。
しかしドルは、米経済の減速が重しとなり、4月に対ポンドで26年ぶり安値に、対ユーロで史上最安値に下落した。これに加えて、新興国市場の高利回り資産が魅力的なことや英国、オーストラリア、ユーロ圏などその他の経済が米国よりも堅調に拡大していることから、非米国資産に対する人気が高まると一部のストラテジストは予想している。
パトナム・インベストメンツのストラテジストは「短期的には明確にならないだろうが、長期的に見るとはっきりしてくるだろう。ドルには悪材料になると思う」と述べた。
ただ、その他のストラテジストは、米国市場の厚みや流動性を考えれば、国家資産運用機関が米資産への投資をやめるのは難しいとみている。
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