安倍首相の「大アジア構想」とパール判事の家族への訪問だが、イギリスのフィナンシャルタイムズもこれを厳しく批判している。
国内経済・社会の困難には心をよせず、国際世論の対日批判にも目をつぶり、一路帝国軍隊の名誉回復のみに邁進する。
ひょっとすると、その手の「特攻」精神への陶酔があるのかも知れない。
ただし、参議院選挙の大敗を受けても「散る」ことを潔しとしない、その精神は実に執念深いものだが。
裁判手続きには意義をとなえながらも、日本の侵略と加害の罪を明確に認めたパール判事もいい迷惑である。
安倍訪印 アジアから厳しい目 「大アジア構想」を批判 パール判事遺族面会に警戒(しんぶん赤旗、8月26日)
安倍首相のインド訪問をめぐって、中国をはじめとするアジアのメディアは、厳しい批判と警戒の目を向けています。
時代に逆行
とくに議論が集中しているのが、首相のいう「大アジア」構想です。
中国国営新華社通信(電子版)は二十四日、「『大アジア』構想は時代の潮流に逆行する」という論評を出しました。
論評は、安倍首相のインド訪問の目的の一つは「中国に向けての“日・米・印・豪の四国戦略同盟”をつくりあげることにある。それが『大アジア構想』だ」と指摘。「勝手に敵をつくりあげてしゃにむに突き進もうとするもので、大方の失笑を買う」と批判しています。
論評は「中国と良好な関係にあるインド、米国、オーストラリアが、日本のたくらみに乗るだろうか。『大アジア』構想で、どうして国連加盟国の信頼が得られるだろうか」と問いかけています。
最後に、「安倍首相の提起する『大アジア』構想は、冷戦時代の思考の表現であり、今日の時代潮流におよそ合致しないものである」と厳しく指摘しています。
主に華僑向けに発行されている中国新聞二十三日付(電子版)は、「中国排除の『大アジア』構想は、日本メディアの支持も得られず」と報じました。
記事は、日本のメディアが「首相のインドでの講演での四国協力構想は、中国に向けて“包囲網”で対抗していく狙いであることは明らか」と報じていると紹介。「米国も、東アジアに不安を引き起こす行動には慎重な態度だ。安倍首相の構想への国際社会の共鳴はきわめて少ない」と指摘しています。
シンガポールの聯合早報二十四日付は、安倍首相のインド訪問について「中国を排除した“大アジアの仲間”だけの組織をつくろうとしている」と指摘しています。
無罪を宣伝
多くのアジアのメディアが警戒の目を光らせているのが、安倍首相が東京裁判のパール判事の息子と会ったこととその話の内容です。
中国の北京晨報二十四日付は、「安倍首相は戦犯を無罪にした人物の息子と会った」という見出しで報じました。記事は「安倍首相のこの行動は、少なからぬ騒ぎを引き起こした。東京裁判の判決を覆したという印象を免れない」と指摘しました。
記事は“東京裁判は事後法で裁いたので被告は無罪”というパール判事の論理は、戦争犯罪をめぐる国際法の発展を軽視していると指摘しています。
さらに日本や韓国のメディアは、安倍首相のこの行動に疑問や不安を表明していると指摘。韓国メディアは「安倍首相はわざわざインドまで行って、日本軍国主義者をかばった判事の息子に会った。その目的は“A級戦犯は無罪”と宣伝することにあった」と報じたと紹介しました。
マレーシアの星州日報二十四日付は、安倍首相が「パール判事を多くの日本人は尊敬している」とたたえたことを紹介し、「これでは日本に侵略されたアジア諸国の激しい怒りを買うだろう」と述べています。
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韓国紙
“戦犯無罪”の言動だ
韓国紙朝鮮日報は十六日付社説で、「極東国際軍事裁判の判事のうち、A級戦犯全員の無罪を主張した唯一の人物」であるパール判事の遺族との安倍首相との会見について論評を掲載、これを同首相の「戦犯無罪」の「アピールをもくろむもの」だと批判しました。
同論評は、パール判事が戦犯裁判は戦勝国による「報復のためのもの」と主張したことを指摘。安倍首相が著書『美しい国へ』のなかで「A級戦犯は日本の国内法上は犯罪者という扱いではない」と記していることや、昨年十月の国会答弁で「戦争責任の主体についてはさまざまな論理が存在し、政府が具体的に断定するのは適切ではない」と語ったことに触れ、パール判事の遺族に会うことにしたのは「決して偶然ではない」と述べています。
同紙は、安倍首相が今年四月の靖国神社の春季例大祭時に、現職の首相としては約二十年ぶりに、「内閣総理大臣」名で玉ぐしの一種である真榊(まさかき)を奉納したことを紹介。「ドイツの首相が事あるごとに、やり過ぎではないかと思うほどナチスの戦犯らを強く非難するのとはまったく正反対の行動だ」と強調しました。
さらに「終戦記念日には靖国神社への参拝はしなかった」にもかかわらず、「その数日後には、インドで軍国主義者らが英雄視する『戦犯無罪論者』の子孫と顔合わせする」と述べ、「米下院の外交委員長が言った通り、日本の首相の度重なる『吐き気がするような』言動には、あきれるほかない」と指摘しています。
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英紙
また批判を無視
英紙フィナンシャル・タイムズ紙二十四日付は、安倍晋三首相がインド訪問時にパール判事の長男と会ったことについて、「アジアの批判を無視したものだ」とする記事を掲載しました。
同紙は「安倍首相は、終戦の日に靖国神社を参拝せずに失望させた右翼へのジェスチャーとして、パール判事の息子と二十分間懇談した」と報道。「複数の論評が、この懇談は靖国神社参拝の代替として、首相自らの自尊心を救済し、国粋主義的な支持者をなだめるためのものだとしている」と論評。韓国紙、朝鮮日報の記事を紹介しています。
同紙は、国際キリスト教大学のピント客員研究員の「パールは右翼の最愛の人であり、右翼は東京裁判が巨大なでっちあげであったと証明しようと決心している」とのコメントを紹介しています。
同紙はまた、日本の戦争を侵略戦争ではなく植民地主義からの解放の戦争だとする見解をもっていたチャンドラ・ボーズ氏の関連施設訪問とその関係者との会見を、「微妙な戦時の問題にもう一つ手を出した」と報じました。
安倍首相、パール判事遺族面会 中国外務省が不快感(しんぶん赤旗、8月27日)
【北京=山田俊英】中国外務省の姜瑜報道官は二十五日、安倍首相が先にインドを訪問した際、第二次世界大戦後の極東国際軍事裁判(東京裁判)で日本の戦犯の無罪を主張したインドの故パール判事の長男と面会したことに関して、戦犯の有罪を認定したこの裁判は「国際社会の定説となっている」として不快感を表明しました。
同報道官は記者の質問に答え、「極東国際軍事法廷での日本軍国主義に対する厳正な裁判は、日本人民を含む世界各国人民の平和を熱愛し戦争に反対する正義の声を代表しており、日本が戦後再び国際社会に復帰するための重要な基礎でもあった」と指摘。「これは以前から国際社会の定説となっている」と述べました。
安倍首相はパール氏の長男に、「パール判事は今でも多くの日本人の尊敬を集めている」と語りました。
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