厚労省の調べで、日本中の全世帯の平均所得が3年前に比べて45万円も低下していることがわかった。
この貧困化の進行の中で、内部格差が拡大している。
最大の要因は雇用と社会保障の破壊であり、それによる個人消費の衰弱が景気悪化をすすめるという悪循環がつくられている。
それにもかかわらず、「国民経済」にまるで無関心な製造業大企業主導の「構造改革」は、さらなる国民貧困化政策をすすめようと企んでいる。
他方で、これに対抗する「反貧困」の動きも、強まっている。
憲法守ろうの声を、生存権を守ろう(25条)、労働権を守ろう(27条)といった、具体的な取り組みと結んで広げることが重要課題。
所得格差が過去最大 04年 小泉「構造改革」で(しんぶん赤旗、8月25日)
二〇〇四年の世帯ごとの所得格差が過去最大を更新していることが二十四日、厚生労働省の調査でわかりました。
これは、厚生労働省が三年に一回行っている所得再分配調査で明らかになりました。それによると、〇四年の公的年金などを除いた一世帯当たりの年間の平均所得は四百六十五万八千円で、前回の〇一年と比べ四十五万円(8・8%)減っています。所得別にみると、前回と比べ五十万円未満の世帯が4・7ポイント増の23・4%、五百万円以上五百五十万円未満の世帯が0・2ポイント減の3・8%、一千万円以上の世帯が0・8ポイント減の12・4%となっています。
世帯ごとの所得の格差について、全世帯の所得が同じ場合をゼロとし、1に近づくほど格差が大きいことを示す「ジニ係数」という指標でみると、〇四年は0・5263で、前回の0・4983よりも拡大し、過去最大を更新しました。0・5を超えたのははじめてです。
小泉内閣(〇一年四月発足)がすすめた「構造改革」のもとで所得格差が広がったことを示しています。税と社会保障の再配分後の「ジニ係数」でも、0・3873で過去最大となりました。
児童扶養手当 厚労省、減額具体化へ 共産党は中止を要求(しんぶん赤旗、8月26日)
厚生労働省は、低所得の母子家庭に支給している児童扶養手当を来年四月から減額するため、年末の予算編成に向け、削減額を具体化する作業をすすめています。
児童扶養手当の削減は、二〇〇二年の国会で、自民、公明、民主の各党の賛成で強行されました。年収に応じて月四万一千七百二十円―九千八百五十円支給(母と子一人の場合)されていた手当を、「支給から五年を超えた場合、最大半減する」という改悪です。
しかし、法律で決まったのはあくまでも大枠です。具体的な減額幅や対象者は、十二月の政府予算案までに決める予定です。その際、厚労省は、(1)九月末にまとまる「全国母子世帯等調査」で明らかになる母親の就労・所得状況(2)母子福祉団体など関係者から幅広く聞いた意見―などを踏まえるとしています。
また、先の通常国会で採択された、「児童扶養手当の減額率を検討するにあたって配慮を求める」請願も考慮するとしています。
児童扶養手当の受給者は今年二月現在で、九十八万七千四百五十人と過去最高に達しており、文字通り「母子家庭の命綱」となっています。また、「母子家庭白書」によれば、母子家庭世帯の平均所得は年間二百三十三万四千円と全世帯の平均所得の約四割にとどまるなどきびしい生活実態となっています。
日本共産党は、児童扶養手当削減の中止を求めています。民主党も参院選マニフェストで「児童扶養手当の支給水準の変更を元に戻し」と主張するなど、減額を決めた改悪法の改定を求める声も広がっています。
反貧困 運動さらに 生活保護問題対策会議が集会(しんぶん赤旗、8月27日)
「市民の力で貧困を絶つ」―生活保護問題対策全国会議は二十六日、東京の法政大学市ケ谷キャンパスで東京集会を開きました。「貧困に抗する力を広げていこう」をテーマに交流、「すべての人が、人に値する暮らしをおくる社会をつくるために労働、福祉、消費者などの枠を超え、手をたずさえていこう」との集会宣言を採択しました。
生活保護問題対策全国会議は、貧困問題を解決していくために法を無視した生活保護行政の改善などを求め六月に発足したもの。北九州餓死事件で小倉北福祉事務所長の刑事告発(二十四日)の中心となりました。
集会では、杉村宏・集会実行委員長(法政大教授)が開会あいさつ。北九州餓死事件の報告や全国で起こっている生活保護の窓口規制(水際作戦)の実態などを報告・交流しました。日本女子大の岩田正美教授が基調講演し、この一年間で反貧困の運動が大きく広がったことを振り返りながら、「貧困を放置すれば社会は不安定になる。さまざまな運動が貧困問題を核に連帯していくことが大切だ」と訴えました。
パネルディスカッションで、暉峻淑子埼玉大学名誉教授は「貧困はつくられたもの。これに対抗する人権をもつ人間が人権のために手をつなぐことだ」と強調。菅井義夫・中央労福協事務局長は「不正や理不尽なことに立ち向かう情熱をなくしたら労働運動ではなくなる。原点に立ち返り運動したい」とのべました。
鴨田哲郎弁護士(日本労働弁護団幹事長)は「企業利益第一、効率第一の社会をつくりかえる運動の一翼を担いたい」と表明。宇都宮健児弁護士(日弁連多重債務対策本部・本部長代行)は、「基調となる考えは人権であり、人間の尊厳を守ること。この立場でネットワークをつくっていこう」とのべました。尾藤廣喜弁護士(同会議代表幹事)は「反貧困の運動に参加して若い人が自分たちの問題として参加していることに勇気づけられる。連帯して運動を広げたい」と訴えました。
与野党の国会議員があいさつし、日本共産党からは笠井亮衆院議員があいさつしました。
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申請拒否 水際作戦 これが実態
録音テープ公表
集会では生活保護申請者を福祉事務所窓口で追い返す「水際作戦」の実態が申請者とのやりとりを録音したテープによって明らかにされました。
場所は大阪の福祉事務所。申請者夫妻は、夫が網膜剥離(はくり)、白内障、妻がうつ状態にあり、無職・無収入。食事は友人の差し入れに頼っていました。
家賃が十一万円(滞納している)で住宅扶助基準(大阪は上限五万四千円)を超えるので生活保護の適用はできないと申請さえさせませんでした。
二回目の申請となる六月二十七日のやりとり…。
申請者「食事代すらない。転居先も探せる状況にない。どうしたら」
職員「自分たちで努力して転居先を見つけないと話がすすまない」
申請者「努力しているが転居にはお金がいる」
職員「生活保護が救済する問題ではない。どこに住むかは自分の問題」
しかし、厚労省の局長通知は、困窮状態にあれば保護し、その後保護費で生活できる住宅に転居できるよう敷金・転居費用を支給することができるとしています。
三回目の申請(七月三日)には弁護士が同行、係長に問題点を指摘。
係長「転居先を先に確保するよう指導するのは当然の対応」
弁護士「まず保護し、基準額をだせばよい」
係長「基準額をだしても高額家賃では生活がなりたたない。保護の趣旨に反する」
弁護士「話が逆転している」
係長「大阪市では水際作戦をしていない。北九州市とは違う」
夫妻は、弁護士の応援によって生活保護の適用となりましたが、「水際作戦」の犠牲となるところでした。
底流 ほん流 生存権守る行政へ連携(しんぶん赤旗、8月30日)
生活保護をめぐって行政による違法な申請拒否や排除によって命を失う事件が相次ぐなか、憲法二五条の保障する生存権を守る立場から是正を求める提言が注目を集めています。生活保護問題対策全国会議の要望書と、自治労連の「生活保護の職場政策」が示す事態打開の方向は―。
弁護士、司法書士、学者・研究者らでつくる生活保護全国会議の要望書は、北九州市の生活保護行政について検証している第三者委員会に二十四日、提出したもの。生活保護をめぐって命が奪われることのないよう運用の是正を求めて同検証委員会に次の三点をもりこんだ「提言」をだすように求めています。
行政に周知義務
(1)「生活に困ったら生活保護を利用する『権利』があります。申請があれば福祉事務所は十四日以内に判断しなければなりません」との趣旨をあらゆる方法で広報する。
(2)あらゆる公共施設の誰もが手にできる所に生活保護申請書を備える。
(3)憲法二五条の生存権保障を実質化するために生存権保障条例(仮称)を制定することを求め、▽行政機関の社会保障制度に関する広報・情報提供義務、市民の「助言請求権」の明示▽苦情処理の福祉オンブズマンを設置する。
厚労省のすすめる生活保護基準切り下げや「手引き」による抑制策推進によって、北九州市はじめ各地の福祉事務所では、生活保護申請が窓口で規制され(水際作戦)、保護が決定されても自立指導に名をかりた「辞退届」の強要によって廃止するなど違法運用がまかりとおっています。
憲法二五条の福祉国家の理念や同条にもとづく生活保護法などの福祉立法が想定する「利用する権利をもつものがもれなく給付をうける」ことに反しています。人々が権利を行使するには制度の存在と具体的内容が知られていることが前提です。
一般的広報、行政窓口での情報提供、個別の事情に応じた助言は、制度運用の基本です。義務を負う行政として、とり入れるべきものです。
自治体労働者は
実施機関である自治体関係者も「本来人の命を救うべき自治体が、人の命を救えなかった」ことを真剣にうけとめ、打開のための提案を出し、運動を強めています。
自治体労働者でつくる日本自治体労働組合総連合(全労連加盟)の「生活保護の職場政策―住民の『生きること』を保障する仕事と職場をめざして(案)」がそれです。八月に開いた定期大会で発表しました。
北九州市職労や埼玉県本部、大阪自治労連で取り組まれた生活保護職場アンケートを踏まえたものです。「職場に正義感あふれ、法制度に精通した職員集団が存在するなら、生活保護の抑制は容易にできない」との立場から打ち出されました。
北九州市職労は、昨年五月に五十六歳の男性が餓死状態で発見された事件についてケースワーカーにアンケート調査を行いました。「急迫保護をかけるべきだ」が22・2%、「保護申請させるべきだ」が6・7%の一方で、「適切な処置」と答えたのは40・0%にのぼり、福祉事務所の措置が適切だったとする意見が最多でした。
この点について「職場政策」は、北九州市の人事管理制度に成果主義が持ちこまれ、生活保護を抑制することが職員の昇任や本庁への異動の「成果」の物差しになっていることが大きく影響していると指摘。専門性を考慮しない短期間の異動が繰り返されており、「憲法や生活保護の理念を体現する職員の養成に困難をきたし、職場集団ができにくくなっている」と分析しています。
これを打開するために「私たちの提言」として「ケースワーカーは福祉の心をもった専門職だ」と強調。「誇りと確信をもって住民・利用者が抱える生活上の問題を解決するために住民・利用者と一緒に考え、実現にむけて奮闘することが求められている」とよびかけ、次の三点を求める運動を提起しています。
▽ケースワーカーの専門性を確保し必要な配置をおこなう▽生活保護を生活困窮者に利用しやすいものに改善し、住民のなかに生存権保障としての生活保護制度をいきわたらせる▽生活保護制度を切り下げるのではなく充実させる。
「生きること」の保障をめざした二つの提案は、響きあうものです。ひろがる市民運動と一方の当事者である自治体労働者の運動との連携は、事態打開の大きな力になるでしょう。
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