福田・ブッシュ氏双方とも、この会談を自分の政権基盤強化のために活用することのできる結果とはならなかったようだ。
孤立を深めるアメリカ外交への追随に対しては、日本国内外での批判が強まり、日本側の対北朝鮮強攻策に対しては、アメリカもうかつな同調を示すことができない。
ともに時代後れの政治の乗り越えが求められている。
【ワシントン16日共同=阿曽吉宏】福田康夫首相はブッシュ米大統領との首脳会談で、米国の北朝鮮に対する「テロ支援国家」指定をめぐり「拉致問題で進展がなければ解除しない」との確約を得ることはできなかったとみられる。米朝の関係改善が進む中、日米の“溝”があらためて浮き彫りになった。福田首相は拉致問題に関し「私の手で解決したい」と強調してきたが、拉致問題の最大の理解者だったはずのブッシュ大統領から言質を引き出せなかったとすれば、解決に向けた戦略の練り直しを迫られることは確実だ。
大統領は拉致問題に関し「被害者と家族を置き去りにしない」と強調したが、会談では双方が「六カ国協議合意文書を全体としてバランスよく実施」することを確認した。核放棄へ向けて北朝鮮側から譲歩を引き出すことができれば、見返りに指定解除することがあり得るとのサインをにじませたとみられる。
また、指定解除問題をめぐる詳しい首脳会談のやりとりは「日米の了解」(外務省幹部)に基づき明らかにされなかった。会談後の共同記者会見は質問を受け付けない異例の形をとったことと併せて、この問題が日米双方にとりいかにデリケートかを裏付ける格好になった。
首脳会談は、日米同盟に関し「死活的に重要」とその意義を再確認した。一方で「小泉、ブッシュ」の蜜月の日米関係が去ったとの印象は否めず、福田首相にとってはほろ苦い“外交デビュー”となった。
日米基軸アピール、隠せぬ不協和音=「福田外交」の試金石に-初の首脳会談(時事通信、11月17日)
「テロとの戦い」からの海上自衛隊の撤収、北朝鮮のテロ支援国家指定解除問題をめぐる擦れ違い…。日米間にぎくしゃくした空気も漂う中、福田康夫首相は就任後初のブッシュ米大統領との会談で、日米の強固なきずなを内外にアピールすることを目指した。日米同盟を強化し、アジア外交と共鳴させる。こうした首相の外交哲学を具体化するには日米関係を固め直すことが不可欠なためで、今回の首脳会談は「福田外交」の試金石となった。
◇アジア外交との「共鳴」図る
首相は15日付のメールマガジンで「日本が米国との良い関係を持つことが、アジア外交を進めるに当たっても重要だ。今回の旅を日米の信頼関係をさらに強化する旅にしたい」と意欲を表明した。
首相の対米方針は、「追従」批判を恐れず米国と協調した小泉純一郎元首相とも、対等な同盟関係を志向し、集団的自衛権の行使容認を模索した安倍晋三前首相とも異なる。大統領との会談で日米同盟を確認した上で、19日からのシンガポール訪問で中韓や東南アジアのリーダーと意見を交わし、より厚みのある外交を展開することを狙っている。
そのためにも首相は、大統領との個人的な信頼関係の構築を目指した。インド洋での海自の給油活動再開に向けて新テロ対策特別措置法案の成立に全力を挙げていることを説明し、大統領の理解を要請。外務省幹部は「首相は小沢一郎民主党代表への大連立打診という奇手まで繰り出し、新テロ法案を衆院通過させた。そのしたたかさは米側も評価しているはず」と語っていた。
ただ、首相は、小泉内閣の官房長官時代にインド洋へのイージス艦派遣に慎重姿勢を示した経緯があり、米側の一部には首相の外交姿勢への疑念が残っているという。
日米首脳会談要旨(中国新聞、11月17日)
【ワシントン16日共同】福田康夫首相とブッシュ米大統領の共同記者会見と日本側説明に基づく首脳会談での発言要旨は次の通り。
▽日米同盟
大統領 福田首相の就任後初の外国訪問が米国となったことは、同盟関係が平和と安全のために死活的に重要であることを示している。
首相 強固な日米同盟は、アジアに平和と安定の基盤をもたらす。日米同盟をよりどころとしてアジア諸国との関係を一層深化させ、発展するアジアを実現することは、日米共通の利益になる。
▽北朝鮮問題
大統領 北朝鮮はすべての核計画を申告しなければならない。日本政府と日本国民には、米国が拉致問題を置き去りにして北朝鮮と取引するのではないかという心配があると理解しているが、拉致問題は決して忘れない。日本人にとっていかに重要か理解している。被害者と家族を置き去りにはしない。
首相 核、ミサイルと並び、拉致問題の解決が重要だ。北朝鮮に対するテロ支援国家指定の解除の問題を含めた日米連携が重要だ。
双方 6カ国協議を通じて北朝鮮の核兵器、核計画の完全な放棄に向け日米で緊密に連携。6カ国協議合意文書を全体としてバランスよく実施。
▽給油活動
大統領 福田首相の補給再開に向けた努力に感謝する。早期再開を期待する。
首相 海上自衛隊によるインド洋での補給活動の早期再開に向け、新テロ対策特別措置法案の早期成立に全力を尽くす。
▽牛海綿状脳症(BSE)問題
大統領 すべての米国産牛肉、牛肉製品に対して、国際的なガイドラインにのっとり、日本市場が全面的に開放されることを望む。
首相 日本政府として国民の食の安全を大前提に、科学的な知見に基づいて対応していく。
▽国際情勢
大統領 イランの核開発の現状を非常に懸念している。ミャンマーに対してはアウン・サン・スー・チーさんやその他の政治犯の解放を求める。
首相 イランの核開発は容認できない。ミャンマーに民主化や人権状況の改善を強く働き掛けている。
▽気候変動
大統領 先進国も発展途上国も、将来の気候変動やエネルギー安全保障に関する枠組みにぜひ取り込んでいきたい。
首相 来年7月の北海道洞爺湖サミットの重要テーマは気候変動だ。
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