「ASEAN憲章」への署名が終了した。あとは各国の批准によって発効する。
憲章は、貿易や投資の自由化をいいながら、あわせて貧困削減と格差縮小をかかげている。単純な「自由主義」の憲章ではないということである。
おそらくそれ以上の大きな意義をもつのは、国連憲章と国際法の遵守、紛争の平和的解決の追求を明記していることである。
第3次アーミテージ報告が、一国覇権主義の見直しをいわずにおれない世界の変化の大きなひとつがここにある。
外国軍に基地提供せず ASEAN首脳会議 憲章に署名(しんぶん赤旗、11月21日)
【シンガポール=井上歩】東南アジア諸国連合(ASEAN)は二十日、首脳会議を開き、二〇一五年の共同体実現に向けた域内の憲法となる「ASEAN憲章」に署名しました。
憲章は、平和、協力、経済統合、繁栄などのASEANの理念や機構運営を法的拘束力のなかに位置づける最高規範で、ASEANは創設四十年を機に、ゆるやかな地域機構から、法的枠組みに基づき法人格を持つ機構へと進化します。憲章は全加盟国が批准した上で発効します。
憲章は前文で「恒久平和、持続可能な経済成長、繁栄と社会進歩の地域に生きるため」に団結するとし、目的の第一に平和・安定と平和志向の向上を挙げ、地域を非核・非大量破壊兵器地帯として守ることを明記しました。
原則には(1)独立と主権の尊重(2)平和と繁栄への共同(3)侵略・脅迫・力の行使の拒絶と国際法の順守(4)紛争の平和的解決――などを掲げたほか、「全加盟国の主権、領土保全、政治的、経済的安定を脅かす、領土の使用を含むいかなる政策と行動にも参加しない(自制する)」とも規定し、軍事同盟への参加や外国軍への基地提供をしないこともルール化しました。
「人々の幸福、暮らし、福祉をASEAN共同体の中心におく」「人材開発、社会福祉、司法への公平な機会を提供し、地域住民の幸福と暮らしを向上させる」ことも掲げ、「人間本位のASEAN」も打ち出しました。民主主義と人権の擁護、促進も原則に掲げました。
憲章は、ASEAN十カ国が民族、宗教、国の規模や歴史が異なる「多様性のなかでの団結」と協力の重要性を強調し、内政不干渉、コンセンサス(全会一致)の原則を基本的に維持。他方で政策決定の質を高め、合意・決定の実行をより確実にするためとして、コンセンサスができない場合も首脳会議で別の決定方法をとると決められるとしたほか、経済合意の実施で域内の経済格差を念頭に「柔軟な参加」ができるようにも規定しました。機構も再編成しました。
森林拡大へ共同の努力
気候変動で初宣言
【シンガポール=井上歩】東南アジア諸国連合(ASEAN)は二十日に開いた首脳会議で気候変動・地球温暖化問題を議論し、「環境維持に関するASEAN宣言」を採択しました。森林面積拡大に大きな数値目標を盛り込むなどして、地球温暖化問題に対してASEANが積極的に取り組んでいく姿勢を示しました。
ASEANが気候変動に関する宣言を出すのは初めて。首脳会議はあわせて、十二月にインドネシアのバリで開催される国連気候変動枠組み条約第十三回締約国会議(COP13)などに向け、ASEANの意思を示す宣言も採択しました。
「環境維持に関するASEAN宣言」は、二〇二〇年までに地域内の少なくとも森林面積一千万ヘクタールを拡大するという目標達成へ共同で努力することで合意しました。
そのほか(1)太陽、水力、風力、潮力、バイオマス、バイオ燃料、地熱など再生可能な代替エネルギーの利用促進に向けて具体的な方策を取る(2)情報共有や能力構築を通じ、主要分野でエネルギー利用効率を向上させるなどに取り組んでいくとしました。
他方、締約国会議に向けた宣言では、気候変動が、持続可能な発展や途上国の貧しい人々に対して「深刻な脅威」であり、すべての国が「共通だが差異ある責任」の原則に基づき、気候変動に取り組む必要があると指摘。同時に、先進国に対して「歴史責任と経済力に照らして、(温室効果ガス)排出の大幅な削減を主導」するよう要求。途上国への技術移転、財源提供などをさらに進めるよう訴えました。
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ASEAN憲章 要旨
【シンガポール=井上歩】東南アジア諸国連合(ASEAN)十カ国首脳が二十日署名した「ASEAN憲章」の要旨は次の通り。
【前文】▽恒久平和、持続可能な経済成長、繁栄と社会進歩の地域に生きるため、共通の願いと集団的な意思に基づく統合の推進▽主権、平等、領土保全、内政不干渉、コンセンサス(全会一致)、多様性のなかでの団結の各原則と友好協力の重要性を尊重▽持続可能な成長で人々の幸福、暮らし、福祉をASEAN共同体の中心に置くことを決意▽憲章を通じ、ASEANの法的、制度的枠組みを確立
【目的】▽地域の平和・安定の維持・向上と平和志向の価値の強化▽政治的安全保障、経済、社会・文化の協力推進による地域の強じん性の向上▽非核地帯と、大量破壊兵器のない東南アジアの維持▽正義、民主主義、調和の環境で世界とともに平和に生きる▽貿易と投資の円滑化、商品、サービス、人材、資本の自由な流れによる、安定・繁栄・高競争力の経済統合▽貧困削減と発展格差の縮小▽加盟国の権利に配慮しながら、民主主義、良い統治と法の支配の促進、人権と基本的自由の擁護、促進▽あらゆる形態の脅威、国際犯罪に、包括的安全保障の原則に従い有効に対応▽環境の保護、天然資源の持続、文化遺産の保護、生活の質が保障される持続可能な発展の促進▽人間開発、社会福祉、司法への公平な機会の人々への提供、暮らしの向上▽統合と共同体の恩恵を人々が受ける人間本位のASEAN▽地域外パートナーとの関係と協力で、地域機構における主要な推進力としてのASEANの中心性と主導的役割を維持
【原則】▽全加盟国の独立、主権、平等、領土保全と国家的一体性を尊重▽地域の平和、安全保障、繁栄の増進に共同の責任を持つ▽侵略、脅迫、武力による威嚇とその行使、その他の行動で国際法に一致しないすべての方法を拒絶▽紛争の平和的解決▽内政不干渉▽外部からの干渉、破壊、強制を受けない権利の尊重▽法の支配、良い統治、民主主義の原則と立憲統治を順守▽基本的自由、人権の保護、促進、社会的公正の促進を尊重▽国連憲章と国際法を支持▽加盟国の主権、領土と政治的、経済的安定を脅かす、領土の使用を含む、政策と行動に参加することを自制
【法人格】ASEANは政府間機関として法人格を有する
【権利と義務】▽加盟国は、憲章の効果的実行、義務の履行のため、適切な国内立法を含む必要なすべての措置をとる
【組織】▽ASEAN首脳会議は最高政策決定機関。年二回開催▽ASEAN調整委員会をASEAN外相で構成、年二回開催。首脳会議の合意と決定の実行を調整する▽人権の擁護と促進のために人権機構を創設。活動は外相会議で決定
【意思決定】▽基本原則として協議とコンセンサスに基づき決定▽コンセンサスができない場合、首脳会議が特別な決定方式を決める▽憲章の重大な違反や不履行があった場合、首脳会議が決定
【実施】▽経済合意の実施でコンセンサスがある場合は柔軟な参加方式をとることができる
【紛争の解決】▽あらゆる紛争の対話、協議と交渉を通じた平和的解決に努力▽すべての分野で紛争解決メカニズムを創設▽議長国か事務局長に仲介、調停、仲裁を要求できる▽最終的に解決されない場合、ASEAN首脳会議で決定する
【対外関係】▽ASEANは諸国家と地域、準地域、国際的な組織、機構との友好関係と互恵的対話、協力、パートナーシップを発展させる▽地域協力の推進力となる
【付則】本憲章は全加盟国の国内批准手続きを必要とする
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