兵庫県から175億円といわれる補助金を受け取る松下の尼崎工場だが、その「コスト競争力を高める」努力の中には、地域経済の沈没をすすめる極端な(偽装も活用した)低人件費政策がある。
他方で、「生産の無政府性」が、グローバル市場を舞台とした新しい規模で展開されていることも実感させられる。
松下プラズマディスプレイ・森田社長に聞く(神戸新聞、12月31日)
プラズマテレビの市場シェアで首位を走る松下電器産業。プラズマパネル製造子会社の松下プラズマディスプレイ(大阪府茨木市)は今年十一月、国内五番目の生産工場である尼崎第三工場を尼崎市で着工した。二〇〇九年五月に第一期の稼働を始める予定で、フル稼働すれば月産能力百万台(42型換算)という世界最大規模の工場となる。社長の森田研氏(59)は「市場の需要を見ながら先手を打つ」と意気込む。(記事 白倉麻子、写真 大山伸一郎)
--松下にとってプラズマテレビ関連で最大の投資となる、尼崎第三工場が着工した。
「大画面のパネルを効率よく生産しコスト競争力を高める。最新設備を導入し、一枚のガラスから42型で十二枚以上取れるようになる。最初の茨木の工場では一枚のガラスから一枚のパネルを生産していた。それが四番目の工場の尼崎第二工場では42型で八枚となり、エネルギー効率や生産性は向上してきている」
「尼崎第二工場は今年六月、一期ラインを予定より一カ月早く稼働させた。二期ラインも冬のボーナス商戦に間に合うよう急いで稼働させた。三段階でフル稼働に持って行く計画で、需要があれば、生産能力を一割程度引き上げる」
--目標としていたプラズマテレビの世界シェア四割がみえてきた。
「『そんなにたくさんパネルを作って大丈夫か』との声もあった。しかし製造業は物流やサービス業などと違い、グローバル(世界的)な需要が見込める。激しい競争の中で、需要を先取りして生産能力を上げる--という考え方をしないといけない」
「二〇〇一年に当社が生産を始めたころは、他社が先行していた。当社最初のパネル工場である茨木市の第一工場は当時、メーカーの中でも一番最後にできた量産工場だった。だがその後、かなり積極的な需要を見込み増産を重ねた結果が出てきている」
--もう次の工場の建設を期待する声もあるが。
「尼崎第三工場が立ち上がると、既存工場も合わせれば年産能力は二千万台ぐらいになる。それを上回る需要があれば検討しないといけない。ただ現段階では、その後の工場について具体的な予定はない」
--“松下効果”で尼崎にはさまざまな企業が進出した。
「周辺の尼崎臨海地区の産業用地はもう完売のめどがついたと聞く。以前、ある地元の方から『尼崎は産業が出て行くだけの街だった』とのお話を聞いたことがあるが、当社の進出を大変喜んでいただけた」
「兵庫県は昔から、製造業で発展した地域であり、地元の経済発展にお役立ちできたならうれしく思う」
メモ 松下のプラズマパネル事業の国内生産拠点は大阪府茨木市に2工場、尼崎市に3工場(建設中を含む)がある。2007年度上期の同社の薄型テレビの売上高は約3956億円。一方液晶テレビ分野でも、パネル工場の建設地に姫路市を検討していることが明らかになった。
もりた・けん 1971年に大阪大学基礎工学部を卒業し松下電器産業に入社。PDP事業部長などを経て現職。松下電器産業の常務役員、パナソニックAVCネットワークス社上席副社長を務める。大阪府出身。
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