茂木健一郎『脳と仮想』(新潮文庫、2007年)を読み終える。
もとの単行本は、2004年の出版である。
脳は外的な世界を、鏡のように反映するだけでなく、その不足を仮想で補い、また自らの行動を鼓舞し、豊富化するために仮想を生み出し、仮想をつうじて外的世界にせまろうとする。
そのように人間の脳には、仮想の抱きが組み込まれており、それが人の生活を日常的に支えている。その重要性を「非科学」「非合理」の言葉で、簡単に切り捨てるなどあってはならない。
勝手にそのように読んでみた。であれば、これは哲学者や社会科学者が「科学的認識とイデオロギー的認識」あるいは「創造的反映」といった形で論ずるところに、深く重なることかも知れない。
議論は、様々な角度からの問題意識の提示となっており、そこに体系的な整理があるわけではない。
教育の効果は「思い出せない記憶」の蓄積である、人の意思決定に果たす「内臓感覚」の役割など、格別のひっかかりを与えられる断片もある。
とはいえ、何かの成果を得るため以上に、自身の何かが触発されることを期待して読むべき本といえるらしい。そのような意味で、とても面白い。
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