「竹中氏退場で問われる安倍氏の経済政策、海外勢に懸念も」(朝日新聞,9月15日)。
「竹中総務相が小泉内閣の幕引きとともに参院議員を辞職する意向を表明し、東京市場にはさざ波が立った。短期的な影響は限定的との見方が多かったものの、ポスト小泉で最有力である安倍官房長官の掲げる経済政策のイメージが抽象的で、竹中氏なき安倍内閣では経済政策の方向性が不明確なまま、経済が失速するリスクがあるのではないかとの懸念も市場関係者の中から出始めている」。
確かに『美しい国へ』など,いくつかの本を読んでも安倍氏には経済政策らしいものがひとつもない。だが,それは,安倍氏が現在の「改革」路線を転換してとる新たな路線を知らないということでもあるのだが。
「仮に組閣で派閥均衡人事を許せば、小泉改革の継承者というプラスイメージがはく落し、海外勢の動きをきっかけに中期的にトリプル安傾向になるリスクを指摘する見方も浮上している」。
だから「改革」路線を突っ走ることが,日本の上場企業の利益にもなるという圧力か。
<竹中氏の議員辞職表明で、ミニ株売り/債券売り>
「竹中総務相が小泉内閣の総辞職に合わせて26日に参院議員を辞職すると表明したことが15日正午前に伝わり、いったん東京市場は株売り/債券売りで反応した」。
「ただ、どちら(株も債券も)の動きも一過性だった。別の邦銀関係者は『竹中氏は最近、影響力が回復してきたと言われていたが、新政権では影響力が低下するとみられていた。ほぼ予想通りとの見方が広がって、株売り、債券売りともに反対売買が出て、大きな動きにならなかった』と説明する」。
<安倍政権の経済政策、理論的指導者とスポークスマンは誰になるのか>
「だが、ポスト小泉で樹立されるとみられる安倍政権の経済政策に背骨がなくなったのではないか、との指摘がエコノミストから出ている」。
「第一生命経済研究所・主席エコノミストの熊野英生氏は…『現在の安倍氏の経済政策の理論的な指導者は竹中氏と言える』と指摘する」。
「さらに熊野氏は『米国をはじめ海外の当局者への説明役としての竹中氏の役割も小泉政権では見逃せない。事実上の経済政策の対外スポークスマンだった。今回の議員辞職の表明で、この経済理論の指導者とスポークスマンの存在がいなくなるわけで、その部分の後任が見当たらない現状では、安倍政権下での経済政策は相当、不透明感が増すとの印象を内外に与えかねないだろう』と指摘する」。
ここで竹中氏は,アメリカへの経済政策スポークスマンとして語られている。「当局者への説明」は,同時に海外投資家たちの「説明」でもあった。
ついでにいえば,竹中氏の場合,そこで語られることの多くが「アメリカの求めのとおりに改革しています」という内容だったが。
「郵政民営化」を通じて,それが誰にもわかるようになってきたということが,竹中氏による「議員放り投げ」の重要な背景になっているのだろう。
「海外勢の動向に詳しい草野グローバルフロンティア代表の草野豊己氏も、海外勢には安倍氏やその政権での政策推進力に懸念があると述べる。『自民党内の大多数から支持される政権は、対立候補への危機感が薄いので、政策実行力にクエスチョンマークが付きやすい。そこに改革のシンボルだった竹中氏が、安倍内閣には残らないことが決定的になり、改革路線を維持することができるのかという疑問が浮上しやすくなるだろう』と分析している」。
要するにこれは,「海外」の投資家たちの声ということ。大量の株を発行する大企業の利益があがる政策をとれ。その株の売買への制約をまったくゼロにせよ。日本大企業は株主利益最優先の企業統治を行えと。
<無策なら、景気悪化先取りの株売りも>
「経済政策の方向性が明確でないと、外的な環境が変化した場合に、整合性の取れた政策を実行することが難しくなるという面も出てくるとの見方がある。第一生命経済研の熊野氏は『安倍政権は基本的に、緊縮的な財政と低金利の組み合わせで高成長を目指すことになると思うが、仮に米経済の減速が予想以上に大きくなった場合、シナリオの修正を余儀なくされることも予想される。その場合にどのような対応をするのか、今から予想することは全くできない』と指摘する」。
過度のアメリカ市場依存という問題点も指摘される。本筋でいけば,だから,個人消費を核とする内需の育成とアジアとの経済交流の拡大が必要なのだが,安倍政権がすすんでそれを行うことは期待できない。
したがって「社会の力」による強制が,ここでこそ必要になってくる。
「別の外資系証券の関係者は、安倍政権の経済政策が無策であることを市場が先取りし『株安/債券高のシナリオをヘッジファンド勢が構築する可能性がある』と予想する」。
なるほど,こういう圧力のかけ方というのもあるわけだ。
三菱UFJ証券・チーフエコノミストの「水野氏も『安倍氏の経済政策の方向性が今一つはっきりしないため、海外勢にしても、しばらくは様子見になる展開もあるだろう』とみている」。
<組閣が試金石>
「先の邦銀関係者は『派閥均衡人事を復活させ、ベテラン議員を多用した場合、市場には失望売りが出てくるだろう。そのケースでは円売りを含めたトリプル安ではないか』と話す」。
「草野氏も『改革路線を放棄したような組閣をすれば、それをきっかけに海外勢は、日本株を売ってくる可能性が大きい』と予測している。その背景として草野氏は、今年初めを基準した日本株のパフォーマンスが、相対的にG7諸国の株の中で低く、日本株をロングにしていたヘッジファンドや長期投資の機関投資家が劣勢に立たされている点を指摘する」。
「こうした状況下で改革路線に黄信号が点灯するような組閣になれば『売りのきっかけを提供するようもの』と草野氏は述べる」。
「また、先の邦銀関係者は『若手を主要なポストに抜てきして安倍カラーを出さずに、ベテランを重視して派閥均衡人事を復活させると、来年の参院選で負けるとの思惑を生み、株と円は売られやすくなるだろう』との見通しを示す」。
「別の外資系証券の関係者は『米経済の後退リスクに敏感なときに、日本で政局リスクが顕在化するようなら、日本株は買えない。小泉政権下では忘れ去られていた政局不安が、久しぶりに材料になる日が、そう遠くない日にやってくる可能性も出てきた』と26日の組閣に注目している」。
こうしてみると,「構造改革」という名のアメリカン・グローバリゼーションへの追随政策が(それを推進した張本人が竹中氏だが),日本の市場と政治を国際的な金融関連資本の利殖の道具にいかに深刻に変えてしまったかが良くわかる。
海外投機家の短期の資本流出入にふりまわされる金融市場ではなく,実物経済の成長をつうじて利殖を見越す健全な金融市場のルールをいかに形成していくか。竹中氏らのおかげで,この国はそういう課題を抱え込んだということらしい。
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