「G7言及の不均衡問題や円めぐる財務相発言、ドルのリスク意識か」(朝日新聞,9月17日)。
「シンガポールで行われた7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)では、世界経済の順調な拡大を強調しつつ、内包する複数の潜在的なリスクにも言及した。谷垣財務相のユーロ高/円安けん制発言の背景にも、そのリスクの1つである世界経済の不均衡問題やドル急落リスクへの意識があるとみられ、米経済の減速の行方とも絡んで、今後の注目点として浮上しそうだ」。
「谷垣財務相は16日夕、G7の議長国として臨んだ記者会見で、最近のユーロ高/円安について『私の見方では、ユーロに対する円の下げがやや荒っぽいところがある』と述べた。これまで財務相は、ユーロが対円で150円台を突破し、1999年のユーロ導入来の高値を更新する中でも『注視している』と述べるにとどめていただけに、記者団はその後の会見で改めて言葉の真意をただしたが、財務相は『(自身のこれまでの発言も)荒っぽい動きと言っておけばよかったと思っていた』と、質問をかわした」。
趣旨の明快な発言ではないが,要するに円・ドルに対して高すぎるユーロに懸念を示したということである。それは円の為替価値低下という問題以上に,ドル価値の低下に対する恐れといえるのかもしれない。
「今回の財務相発言には、為替相場のみでなく、G7で協議された世界経済のリスク回避シナリオとしての意味合いも少ながらず読み取れる。潜在リスクの1つとされる世界経済の不均衡問題は『理屈は別としても』(G7筋)ドル急落の懸念がくすぶる。ユーロ/円相場のテーマが日欧間の金融政策スタンスからユーロとドルの相対関係へ移行し、米国の双子の赤字問題や景気失速懸念に問題意識が集約されることになれば、ドル全面安の引き金を引くリスクが増大するという危機シナリオは依然として存在する」。
この不均衡問題とは,ドル特権を利用したアメリカによるドル垂れ流し政策への各国の不満と反発のあらわれという問題であり,世界経済におけるアメリカ経済の相対的地位低下の問題でもある。それは歴史的趨勢として避けることのできないものであろう。
その中で依然「外貨=ドル」という世界にもまれな通貨政策をとりつづけた日本の政府は(それはアメリカのドル特権を維持するための行動だが),ドル安とともに自己の保有するドル資産価値を失っていかずにおれない。そのことへの恐れが,谷垣発言の背景となっていよう。
本来,議論されるべきは保有外貨の多極化なのだが。それが正面から打ち出せないところに,この国のアメリカに対する金融政策の従属の根深さがある。
「世界経済の不均衡問題をめぐってG7は、米国の双子の赤字を中心とする財政再建の必要性や欧州の構造改革、日本の財政再建を含めた構造改革が必要との認識で一致した。今回は、貯蓄率の高い中国の消費拡大に向けた取り組みなど、アジア新興国や産油国という『G7以外の国にも共同責任を持つよう促した』(谷垣財務相)ことも特徴だ」。
拡大する生産能力に照応した消費力の育成が,従来,途上国といわれた国々に向けられずにおれない。これもまた戦後の世界構造変化が今日もなお経済面で大きく進展していることの現れである。
そしてそのように各国経済の相互依存が深まるということは,世界経済管理における途上国等の発言権を高めることになっていく。それはG7の国際的権威と影響力の低下にもつながっていく。
「世界経済の不均衡は『数十年かけて積み上がったように、解消にもかなりの時間がかかる』(財務省幹部)問題。G7の主要なテーマになって久しいが、これまでG7が比較的、穏やかに討議を続けてこられたのも、世界経済が米国の成長をけん引役とする拡大基調にあったことも一因だ。米経済の減速が静かに意識され始め『地平線には雲が増えてきている』(ラト・国際通貨基金事務局長)と、世界経済の足取りに陰りが見え始めた中、米景気の好調に隠れてきた不均衡問題の深刻さが、再認識されるきっかけになる可能性は否定できない」。
大局的には,衰退するアメリカ,台頭する途上国,アメリカとの同盟一辺倒をすでに離脱したEU諸国,いまだそれに固執する日本など,これらの要因の総合として,不均衡「解消」は強いアメリカの復活にではなく,新たな力関係に応じた新しい秩序の形成に向かう他ないのだろう。
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