「御手洗ビジョン」はすでに「春闘」を過去のものとして扱っている。
しかし,実際に賃金を決めるのは労資の力のバランスである。
大企業労組の中心は連合だが,その連合が「格差是正」をかかげ,
さらに利益を「家計へ」といっているところは共感できる。
「家計へ」の中には,男性正規雇用者だけではなく,
女性や,非正規の若者たちがふくまれるから。
もちろん全労連にも大いにがんばってほしい。
「景気拡大と絶好調な企業業績を背景に本格化する二〇〇七年春闘。賃上げ獲得へ勢いづく労働側と、対決姿勢を強める経営側の激しい攻防が見込まれる。パートなど非正社員の待遇改善、中小や地方企業の賃上げ確保をはじめ、格差是正も新たな問題だ。見過ごせない課題が山積する労使交渉の行方は。 (経済部・上田融)
連合は二日、二〇〇七年春闘の「闘争開始宣言中央集会」を東京・新宿で開いた。主要な産業別労組の組合員ら約二千人が参加、「格差社会の是正」を大きな柱に、「労働者に対する分配率の引き上げ」「パート労働者の最低時給千円確保」「パート労働者の待遇改善」の実現を求めるスローガンを採択した。
春闘相場のリード役となる自動車総連傘下の主要労組や、大手電機の労組が今月半ばに要求を提出、労使交渉が本格化する。
景気拡大で企業が高収益を上げている現状から、今春闘で労働側は、ベースアップを含んだ賃上げ獲得の方針を決めた労組が相次ぐ。
一方で、経営側の姿勢は賃金改善に慎重で、厳しい交渉も見込まれる。
連合は、パートなど非正規雇用者の均等待遇の要求にも本腰を入れ始めており、待遇改善がどこまで進むのかも注目点。
会場ではスーパーのレジ担当の女性が「正社員と同様に、職場で誇りを持って働いている。待遇の均等化を」と訴えた。
自動車や大手電機の経営側は三月十四日、一斉回答する見通しだ。
■反転の年
「企業は史上最高益を更新し続けるが、それは株主や役員ばかりに行き、労働者への分配率は下がり続けている。今年は家計への分配率の反転、転機の年だ」
連合の高木剛会長は二日夜、約二千人を集めて都内で開いた「闘争開始宣言中央集会」で、各産業別組合の奮起を促した。
連合が示す春闘の闘争方針には、「物価上昇分の(賃上げ)確保」や「昨年を上回る改善」などの用語が並ぶ。いずれも、昨年の春闘要求にはなかった強気の“新語”だ。
追い風も労働側に吹き、「交渉の足場は比較的いい」(厚生労働省幹部)。政府の〇七年度経済見通しは「企業・家計部門とも改善が続き持続的な成長が実現する」と予測、国内総生産(GDP)の実質成長率が2%前後を見込んでいる。
安倍晋三首相を含む政府内からも、経営側に対し「企業収益改善による景気回復の成果を家計にも広げてほしい」と求める声が上がるなど、与党からの異例の“援軍”も相次いだ。
これらを受け昨年二千円の要求を出した電機連合は「二千円以上」、二千円だった私鉄総連は「三千五百円」と要求額を引き上げた。昨年は賃上げ要求を見送った情報労連は七年ぶり、電機連合も六年ぶりの賃上げ要求を決定。自動車総連は金額は明記していないが「経済指標の好転を踏まえた水準向上」をうたい「物価上昇分の確保」を明確に示した。けん引役となるトヨタ労組は千五百円を要求している。
■姿勢不変
対照的に、経営側は簡単には応じない方針だ。日本経団連が昨年末に「経労委報告」で示した春闘に対する方針では「経済のグローバル化で日本企業は激しい構造変化の真っただ中にある」として、業界一律の「ベースアップなどはもはやありえない」と断じている。中国や東南アジア、インドなどの新興国との競争に打ち勝つには、日本の人件費はまだ高すぎる、という理屈で、賃上げは「個別の労使で対応すべきだ」との姿勢を変えない。
ある経団連幹部が「今回はそれなりに出すことになるだろう」と漏らすなど“軟化”の兆しもあるが、それも企業が好調で国際競争力があるかどうかがカギ。早々と賃上げ交渉を断念した業績不振企業の労組もあり、企業間の格差がいっそう広がるのは確実だ。
■非正社員
今回の春闘で大きなテーマになっているのが、パートや派遣などの非正規雇用者の待遇改善と、地方・中小組合への支援拡充だ。昨年から「パート共闘」を始めた連合は今年、初めて「正社員と変わらない仕事をしている“疑似パート”の正社員化や同一労働条件の確保」を掲げた。非正規雇用者が約千七百万人と雇用者全体の三割を占めるようになり、流通業界で相次ぐパート店長など企業の基幹部門に登用されるパート従業員も珍しくなくなっているためだ。
正社員との差を縮める格差是正要求に力を入れることで、18・2%に落ち込んでいる労組の組織率の改善につなげる狙いもある。だが、これらが効果を上げるかどうか、先行きはまだ不確か。高木会長は「今年成果を上げないと労働運動への期待は吹っ飛ぶ」と危機感を募らせる。」
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