中国人原告による個人の賠償請求だが,最高裁は請求権がないとして,これを完全に退けた。
根拠とされたのは,「日中共同声明」。
しかし,中国側は,この判決をただちに「一方的解釈」と報道している。
なお,強制労働にせよ,「慰安婦」のレイプにせよ,いずれも事実認定はされている。
個人賠償請求権認めず 「日中共同声明で放棄」(中国新聞,4月27日)
日中戦争中に強制連行され、西松建設(東京)が施工した広島県の水力発電所建設工事で過酷な労働を強いられたとして、邵義誠さん(81)ら中国人元労働者とその遺族計五人が同社に損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第二小法廷は二十七日、原告勝訴の二審広島高裁判決を破棄、請求を棄却した。原告敗訴が確定した。
中川了滋裁判長は「一九七二年の日中共同声明で中国人個人の賠償請求権は放棄され、裁判では行使できない」との初判断を示した。請求権自体が否定されたことで、午後に上告審判決のある中国人元慰安婦賠償訴訟も含め一連の戦後補償裁判は事実上終結した。
ただ中川裁判長は「個別具体的な請求への自発的対応は妨げられず、極めて大きい精神的・肉体的苦痛を受けた原告らの被害救済に向けた関係者の努力が期待される」と付言した。担当した三裁判官全員一致の意見で、個別意見はなかった。
判決はまず二審判決と同様、西松建設が旧厚生省から割り当てを受け、旧日本軍監視下で原告らを強制連行し、労働を強いた事実を認定した。
その上で、個人請求権の有無を検討。日本と連合国のサンフランシスコ平和条約(サ条約、五一年)は「戦争状態を終了させるため、相互に個人賠償請求権も含めて放棄した」と指摘し「日中共同声明の請求権放棄条項は個人を含むかどうか明らかとはいえないが、交渉経緯から実質的に平和条約で、サ条約と同じ枠組み」として個人請求権を否定した。
また個人請求権の放棄は「事後的個別的な裁判による解決を残すと、平和条約締結時に予測困難な過大な負担、混乱を生じる。請求権は消滅したのではなく、裁判上の権利喪失にとどまる」との解釈を示した。
中国のほか韓国、フィリピンなどとは同趣旨の条約や協定があり、個人請求権は放棄したと解釈されるが、条約のない北朝鮮と台湾は今回の判断対象に含まれない。
邵さんらは九八年に提訴。一審広島地裁判決は強制連行・労働と安全配慮義務違反などを認めた上で、消滅時効(十年)などを理由に請求を棄却した。
控訴審で西松側は個人請求権放棄の主張を加えたが、二○○四年の二審判決は「共同声明に明記されていない」として退け「消滅時効の主張は著しく正義に反する」と判断。請求通り計二千七百五十万円(一人当たり五百五十万円)の支払いを命じた。西松側が上告し、最高裁は請求権放棄の争点だけ受理した。
「共同声明の一方的解釈」に反発=最高裁判決、新華社も速報-中国(時事通信,4月27日)
【北京27日時事】中国政府は、西松建設強制連行訴訟をめぐる27日の最高裁判決が「(1972年の)日中共同声明により個人の賠償請求権は放棄された」と初めて判断したことを受け、「共同声明の重要原則を一方的に解釈してはならない」(劉建超外務省報道局長)と反発を強めるのは必至だ。日中関係が先の温家宝首相の訪日で改善する中、「懸念材料になる」(日中関係筋)可能性も指摘されている。
中国国営新華社通信も、この日の判決を至急電で伝えるなど大きな関心を示した。
戦後補償裁判、4訴訟も請求権否定 最高裁で敗訴(朝日新聞,4月27日)
戦時中の日本の行為をめぐって中国人が損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第一、第二、第三各小法廷は27日午後、計4件でいずれも原告側の上告を退け、敗訴させた。同日午前、第二小法廷が、強制連行をめぐる訴訟で「72年の日中共同声明によって賠償請求権は放棄された」との初判断を示したばかり。この解釈に基づき、戦後補償裁判が次々と姿を消す事態になった。
4件は、戦時中、旧日本軍の慰安婦にさせられたとして中国人女性が国に損害賠償などを求めた二つの訴訟▽中国から強制連行され、働かされていた北海道の炭鉱から45年7月に脱走し、終戦を知らないまま道内の山野で13年間逃亡生活を続けた劉連仁(リウ・リエンレン)さん(00年死去)が、国に賠償を求めた訴訟▽強制連行されて福岡県の炭鉱で働かされた元労働者が国と三井鉱山に賠償を求めた訴訟。
このうち慰安婦2次訴訟は、第一小法廷(才口千晴裁判長)が判決を言い渡した。二審は「日華平和条約によって請求権は放棄された」と理由を述べたが、「日中共同声明によって放棄された」と理由を変更した。
訴えていたのは、山西省出身の郭喜翠さん(80)と故・侯巧蓮さんの遺族。一、二審とも軍が15歳の郭さんと13歳の侯さんを連行、監禁、強姦(ごうかん)した事実を認定したが、請求を棄却した。最高裁も、この事実認定自体は「適法に確定された」と認めた。
ほかの3件はいずれも法廷を開く判決ではなく、書面だけの決定により敗訴が確定した。
慰安婦1次訴訟は、被害にあった山西省の女性4人が国に賠償を求めたが、一、二審とも、旧憲法下で国の行為は責任を問われないとする「国家無答責」の法理を適用して請求を棄却していた。
劉連仁さんの訴訟で、一審は国家賠償法に基づき請求全額を認めて国に2000万円の支払いを命じた。しかし二審は、不法行為のあったときから20年がたつと賠償請求権が消滅するとされる「除斥期間」を理由に、原告を逆転敗訴させた。
福岡強制連行訴訟では、一審が被告三井鉱山に計1億6500万円の支払いを命じたが、二審は時効と除斥期間の成立を認めて原告を逆転敗訴させた。
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