安倍首相の「慰安婦」発言に対する国際批判がますます広まっている。
驚いた安倍首相は,国会で「河野談話」の内容継承をあらかめて明言した。
首相就任時から繰り返される,この人らしい右往左往である。
他方で「産経」は,「河野談話」の「欠陥」を語った安倍発言の正当性を主張し,アメリカからの批判がつづけば,日米同盟への不信が高まるだけだと苛立っている。
しかし,政府自身はそうした不信を口にしない。日米同盟は大前提である。
「歴史問題」の一定の整理については,すで経済同友会が何度もその見解を表明してきた。
アメリカも対中政策を軍事対応一辺倒から,交渉重視へと転換している。
変化の根底にあるのは大国支配の衰弱と,途上国の政治・経済成長による世界構造の変化である。
とどめようのない東アジア経済共同の発展の中で,日米財界の主要関心事は,共同体における「儲けの自由」の程度となっている。
東アジアの経済ルールに,いかにして日米財界の意向を反映させていくかである。
それには,障害となる「歴史問題」の一定の整理が不可欠となる。
それは平和・人権・民主主義の拡充を求める内外世論にも重なってくる。
東アジアの成長に危機意識をもち,さらにこうした大方針の前に,命脈を絶たれかねないと危機意識を強めた靖国派が,様々にフラストレーションを爆発させている。
それにもかわらず,大局の動きには変化が見えてこない。
そのような「袋小路にいる靖国派」であるところに,安倍内閣の危険性ともろさの1つの中心的な要素がある。
慰安婦問題で謝罪立法求める=下院小委が対日動議採択-カナダ(時事通信,3月30日)
【ニューヨーク29日時事】カナダ下院外交・国際開発委員会の小委員会は29日までに、第2次大戦中の従軍慰安婦に公式謝罪する法律の制定を安倍晋三首相と日本の国会に促すため、マッケイ外相に「必要なあらゆる措置」を取るよう求めた動議を採択した。
今後、外交・国際開発委が動議を議題として取り上げるかどうかなどを審議する。動議に法的拘束力はない。
「慰安婦」問題 吉川議員の質問 首相の姿勢問う(しんぶん赤旗,3月30日)
日本共産党の吉川春子議員が二十六日の参院予算委員会でおこなった「従軍慰安婦」問題で安倍晋三首相にたいしておこなった質問をあらためて紹介します。
吉川春子議員 安倍総理は、三月一日の夜、官邸で記者団の質問に答えて、九三年の河野官房長官談話について、当初定義されていた強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実だと語られました。そうですか。
安倍晋三首相 何回か答弁を申し上げていますが、私は河野官房長官談話を継承していくということを申し上げているわけでございまして、そしてまた慰安婦の方々に対しまして御同情を申し上げますし、またそういう立場に置かれたことについてはおわびも申し上げてきたとおりでありまして、今まで答弁してきたとおりであります。
吉川 当初定義されていた強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実だとおっしゃったんですか、おっしゃらないんですか。
首相 累次この場においてもまた本会議の場においても答弁をしてきたとおりでございまして、それを見ていただければ分かるとおりであります。
吉川 そういう発言はなかったと、取り消されるんですね。
首相 累次、今まで答弁してきたとおりでございます。ですから、今、吉川議員がおっしゃったことも私は答弁をしてきた中の中身でございます。
吉川 総理が記者会見で官邸でおっしゃったかどうかだけを伺っているんですけれども。
首相 強制性について私が申し上げたことは、記者会見で申し上げたことはすべて、これはニュースにもなっておりますから、それはそのとおりであります。
吉川 官房長官談話では、広範な地域に慰安所が設置された、慰安所は軍の要請によって設置された、慰安所の管理運営、慰安婦の移送について旧日本軍が直接又は間接に関与したとしております。これはお認めになるんですね。
首相 先ほど答弁をいたしましたように、河野官房長官談話を継承しているということは、この官房長官談話をまさに引き継いでいるわけでありますから、その中身も、それを引き継いでいるということでございます。
吉川 さらに談話では、慰安婦の募集について、本人の意思に反して集められた、官憲が直接これに加担したこともあった、慰安所の生活は強制的状況で痛ましいものであったと言っていますが、これもお認めになりますか。
首相 河野官房長官談話を継承すると、このように申し上げております。
吉川 お認めになるんですね、今言ったこと。
首相 そうです。
吉川 河野談話の内容と、それから、首相官邸での記者会見の強制性はないという発言は矛盾すると思いますが、談話を受け継ぐとおっしゃるならば、この発言は取り消されたらいいと思うんです。いかがでしょう。
首相 そうした発言も含めて今私は答弁をしているわけでございますが、この河野官房長官談話を継承していくということでございます。
(吉川氏は、ここでオランダと中国の慰安婦の強制の事例を追及)
吉川 (元慰安婦の方は)今日までまだPTSD(心的外傷後ストレス障害)で苦しんでいるんですよ。日本政府が本当に心から公式に謝ってほしいと思っているんです。総理、公式に謝る必要があると思いませんか。
首相 今、私はここでおわびを申し上げているわけであります。内閣総理大臣としておわびを申し上げているわけでありますし、河野官房長官談話で申し上げているとおりであります。
吉川 河野官房長官談話は閣議決定されていません。それでは、閣議決定しますか。
首相 河野官房長官談話ですべてでございます。
吉川 安倍総理、一度被害者に直接お会いいただきたいと思います。細田元官房長官はお会いになりましたけれども、安倍総理も直接、慰安婦にお目に掛かって謝罪をしていただきたい。
従軍慰安婦「おわび」見直す声、河野氏「知的に不誠実」(朝日新聞,3月27日)
河野洋平衆院議長が昨年11月、アジア女性基金(理事長・村山富市元首相)のインタビューに対し、従軍慰安婦の募集に政府が直接関与した資料が確認されていないことを踏まえたうえで「だから従軍慰安婦自体がなかったと言わんばかりの議論をするのは知的に誠実ではない」と語っていたことが明らかになった。
河野氏は93年の官房長官当時に従軍慰安婦問題で「おわびと反省」を表明する談話を出したが、各界でこれを見直す声が出ていることを厳しく批判したものだ。河野談話をきっかけに95年に発足し、元従軍慰安婦への支援を担った同基金が近く公表する「オーラルヒストリー」に掲載される。
インタビューで河野氏は、談話で「官憲等が直接(慰安婦の募集に)加担したこともあった」と認定した点について「どなたが何とおっしゃろうと問題ない」と断言。談話の前提となった政府調査での元従軍慰安婦16人への聞き取り結果を理由に挙げ、「明らかに厳しい目にあった人でなければできないような状況説明が次から次へと出てくる」と振り返っている。
従軍慰安婦の徴集命令に関する旧日本軍の資料は「処分されていたと推定もできる」と指摘。「(談話を出した)責任を逃げたり避けたりするつもりは全くない。談話を取り消すつもりも全くない」と強調している。
3月になって安倍首相の発言が河野談話見直しと関連して海外で報じられたことから、河野氏には欧米メディアから取材要請が相次いだ。事態の沈静化を図る河野氏は、現在は「信念を持って談話を発表している」と語るにとどめている。
安倍首相の「慰安婦」発言 世界はこう見る(しんぶん赤旗,3月30日)
安倍首相は「従軍慰安婦」問題で「強制連行はなかった」と言い張り、自ら継承すると言明したはずの「河野談話」(一九九三年)を事実上否定しています。世界の世論は、そんな安倍首相と日本政府の姿勢に厳しい目を向けています。
現在進行の人権侵害
韓国各紙
韓国の新聞七紙は二十八日付の社説で、「慰安婦」問題についての安倍首相の一連の発言を批判しました。「おわびする」と言いながら、国の責任を認めない安倍首相の“謝罪”を批判しました。
中央日報は「(慰安婦の方々が)そのような立場におかれたことに、おわび申し上げる」とした安倍首相の二十六日の参院予算委員会での答弁を引用。「(この)言葉遊びのような表現からしても分かるように、政府次元の責任を回避する態度には本質的に変化がない」と指摘。「彼の謝罪には真剣さが見られない」と断じました。
ソウル新聞は、米国務省のケーシー副報道官が二十六日に「(日本は)過去に犯した罪の重大さを認識し、率直で責任ある態度をとるべきだ」と述べたことを紹介。「歴史わい曲と責任回避にきゅうきゅうとする日本に対し米国が公式の立場を明らかにするのは前例がない」と説明した上で、「安倍首相の二重的であいまいな態度を非難したものだ」と指摘しました。
同報道官の発言を中央日報、京郷新聞はともに「異例」と報道し、日本に事態の深刻さを認めるよう迫っています。
安倍首相が北朝鮮による日本人拉致問題を最優先課題とする一方、「慰安婦」問題では政府の責任を否定していることにも強い批判があります。
安倍首相が二十六日、「拉致問題は現在進行形の人権の侵害」で「慰安婦」問題とは「まったく別」と述べたことについて、ハンギョレ紙は「慰安婦問題は決して過去のものではない」と反論。「まだ多くの慰安婦ハルモニ(おばあさん)が、その当時の苦痛を持ったまま生きている。安倍首相をはじめとする日本政府の官吏の発言は、傷口に塩を塗る重大な現在進行形の人権侵害だ」と批判しました。
この問題では朝鮮日報十二日付が、「孤立招く日本」という記事を掲載。「北東アジア外交再編で日本は孤立の様相を呈している。北朝鮮による日本人拉致犯罪にこだわる一方、かつて日本が拉致した日本軍『慰安婦』を否定することにより、日本は外交的、道徳的基盤を失いつつあるとの批判も出ている」と指摘しています。
米国まで敵に回した
英誌
英誌『エコノミスト』三月二十一日号(電子版)は「東京の間違った動き―日本外交に泥を塗る軍の売春宿」と題する論評で、「慰安婦」問題での安倍首相の姿勢を厳しく批判しました。
論評は「安倍晋三は日本の首相となってわずか六カ月で、戦争中の歴史というやぶに突進することによって自らの国際的な評価をずたずたにしてしまった」と書き出しています。
安倍首相が日本政府の「慰安婦」への関与について「強制の証拠はない」と述べたことは、「自らが体験した奴隷状態を証言してきた多くの年老いた女性たち」を驚かせたと指摘。その発言は「軍の文書庫から発見された証拠にも反する」と述べています。
論評は、強制を認めた一九九三年の河野談話を首相は引き継ぐと言ったのに、すぐまた「強制はなかった」とする答弁書を確認したことを紹介。「安倍氏は近隣諸国との関係で最近日本が進めてきた成果の多くを一撃でご破算にしたと同時に、同盟国の米国まで敵に回してしまった」と解説しています。
論評はさらに「安倍氏の無能ぶりを測る物差し」は、「慰安婦」問題で「北朝鮮が道徳的な高みに立つのを許した」ことだと指摘しています。
具体的事例として、六カ国協議で北朝鮮側が「日本は拉致問題を口にするのをやめ、自らの歴史的な過ちを謝罪し補償せよと要求している」現状を説明。「日本はすでに(六カ国)協議で脇に追いやられつつあるのかもしれない」「日本による慰安婦の否定は、それをさらに深刻化するだろう」と述べています。
「完全な謝罪」を回避
英紙
【ロンドン=岡崎衆史】英ガーディアン紙二十七日付は、「日本は戦時の性奴隷(「従軍慰安婦」のこと)についての完全な謝罪を回避」と題する東京発のニュース記事を掲載しました。
安倍首相の二十六日の国会での答弁を取り上げたもの。「首相は日本による戦時の性奴隷の使用について謝罪したが、日本軍によって強制されたことを認めなかった」と報じました。
記事は、「慰安婦」問題での活動家が、日本の国会による公式の謝罪と補償を求めていると指摘。また、米下院で「慰安婦」問題で日本政府に謝罪を求める決議案が採択された場合も、安倍首相が謝罪をしないと述べていることを紹介しています。
ねらいは憲法骨抜き
シンガポール紙
シンガポール紙聨合早報の元論説委員・黄彬華氏は同紙十六日付に論評「歴史論争はアジアから北米に拡大した」を寄稿し、侵略の歴史をあいまいにしようする安倍首相の「慰安婦」発言が国際的批判を広げていると指摘しました。「慰安婦」問題で「強制はなかった」と繰り返す安倍首相や自民党の「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の狙いは、「憲法を骨抜きにし、河野談話を『まったく無害なもの』に変えることにある」と厳しく批判しています。
論評は、「日本は慰安婦問題ばかりか第二次世界大戦中のシンガポールでの中国系住民虐殺や中国での南京大虐殺など日本軍による蛮行を絶対に認めようとしないか、もしくは『証拠が不足している』との口実で焦点をあいまいにしてきた」と指摘。「その目的は、(過去の行為を)あくまで否定し、それを国家への汚点として残さないことにある」と解説しています。
「欧米人のなかには、日本をアジアで唯一の成熟した『平和、民主、富裕』の国とみる人もいる」とした上で、「しかし(今回)彼らは、日本が言行不一致で歴史の真相を尊重せず、歴史に対し『不誠実、無責任』で、人権を尊重しない国家であることに驚いている」と述べています。
【緯度経度】対米不信招く慰安婦問題(産経新聞,3月31日)
「慰安婦」問題が日米両国間でなお波紋を広げている。現在の日本の政府や国民が60余年前の出来事を理由に突然、被告とされ、米国の議員やマスコミの一部が検事と裁判官とを兼ねて、断罪する。だがその罪状がはっきりしない。慰安婦という存在よりも、慰安婦について米側が求めるのとは異なる見地からいま語ることを悪とする言語裁判のようなのだ。その背後で日本側では日米同盟を最も強く支持してきた層の対米不信が広がりそうである。
いま慰安婦問題が論議を招くことのそもそもの原因は日本側にはまったくない。慰安婦について日本側で最近、新たになにかがなされ、語られたということはない。ひとえに米国議会下院に1月末、慰安婦問題で日本を糾弾する決議案が民主党マイク・ホンダ議員らによって出され、2月15日にその決議案を審議する公聴会が開かれたことが発端だった。
同決議案は「若い女性を日本帝国軍隊が強制的に性的奴隷化した」と明記して、日本軍が組織的、政策的に女性を強制徴用していたと断じ、日本政府がその「歴史的な責任を公式に認め、謝罪すべき」だと求めていた。
この時点では米国のマスコミも識者、研究者もこの決議案も慰安婦問題も論じたり、報じたりすることはなかった。ところが3月1日、安倍晋三首相が東京で記者団に同決議案にどう対応するのかと質問され、一定の発言をしたことから米側での反響がどっと広がった。安倍首相は軍による組織的な女性の強制徴用の証拠はないことを強調し、その点で河野談話には欠陥があることを指摘しただけだった。
だがこの安倍発言は「安倍は戦争セックスに関する日本の記録を排除する」(ニューヨーク・タイムズ)として安倍首相が軍の関与をもすべて否定したかのように米側では報じられた。米側ではここから慰安婦問題はすっかり「安倍たたき」の形をとって、輪を広げた。このプロセスでは肝心の慰安婦決議案に対しての米側のマスコミや識者たちの態度は支離滅裂であることを印象づけた。
米国の安倍たたき勢力は慰安婦問題に関しては河野談話を絶対に撤回や修正してはならないと主張する。シーファー駐日米国大使にいたっては、「河野談話を修正すれば、破壊的な結果が起きる」とまで語った。河野談話の価値を認めたわけである。そうであれば論理的には河野談話が保持される限り、慰安婦問題はOK、慰安婦決議は不要ということになる。だが現実は異なる。
そもそも米側は日本に一体、どうせよというのだろうか。一方で河野談話を絶対に保持せよ、と求める。だが他方では決議案を読めば、河野談話が保たれても、安倍首相も同談話についてなにも述べなくても、日本の対応はなお不十分ということになる。
いまの米側からの日本糾弾はそもそも事実を究明しての批判なのか、それとも単に道義上の説教なのか、区別できない。日本側の最大唯一の主張は、日本の政府や軍隊が政策として組織的に各国女性を強制徴用して、これまた一貫とした方針として将兵へのセックス奉仕を無理やりさせていたという証拠はどこにもない、ということだろう。
この点の論争には事実の提示が欠かせない。だが米側は具体的論拠となると、「歴史家たちは女性20万人もが拘束され、日本軍将兵がその拘束に参加した、と述べている」(ワシントン・ポスト)という範囲の記述で終わってしまう。そしてそんな細かな点で争うよりも、全体の悪を認めよ、と、急に事実関係を論議の枠外に押し出して、道義の議論に転じてしまうのだ。自分たちは過去も現在も一点の非もないかのごとく、高い道義や倫理の頂上に仁王立ちとなり、はるか下方の日本を見下して、講釈をする、というふうになる。
そもそも一主権国家が他の主権国家がからむ60余年前の一行動をとりあげ、いま目前で展開される自国や他国の不祥事や悲劇をすべて無視して、その国家を責め続けるというのは異常である。ましてその2つの国家が同盟国同士であれば、ますます奇異となる。とくに日本側では対米同盟の堅固な支持層というのは、自国の国益や国家意識、さらには民主主義、人道主義という普遍的な価値観を強く信奉してきた国民層だといえよう。
米国が慰安婦問題で日本側をたたけばたたくほど、まさにこの層が最も屈辱や怒りを感じ、同盟相手の米国への不信を強くするのだ、ということは米側に向かっても強調したい。(ワシントン 古森義久)
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