南アジア首脳会議は,アメリカの圧力に屈しないことをひとつの大きな特徴とした。
それはイランの準加盟や,天然ガスパイプラインの建設の動きにも,また会議の中でのアメリカ代表の扱いにも現れている。
「普遍的価値の共有」という言葉で,これを共有しない国への対抗をめざした麻生外相の演説も,南アジア首脳による「地域協力の重要」性認識の前では,無用な軋轢を持ち込むものでしかないのだろう。
南アジア首脳会議 イランの準加盟承認 対立から協力へ(しんぶん赤旗,4月8日)
米国が核開発問題でイランの国際的孤立化と封じ込めを強めるなか、ニューデリーで三、四両日に開催された南アジア地域協力連合(SAARC)首脳会議は、イランのオブザーバー参加(準加盟)を認めました。
印の働きかけ
会議筋は「インドが強く後押しした結果だ」と話しています。イランがオブザーバー参加を申請したのは今年の三月上旬でした。議長国インドの強い働きかけなしには決まりませんでした。
インドは、イラン産天然ガスをパキスタンとインドに供給するパイプライン計画(IPI)の早期実現をめざしています。米国はイランを利するとしてIPIに反対しています。三月中旬に訪印したボドマン・エネルギー長官もその主張を繰り返しました。
しかし、インドのデオラ石油・天然ガス相は同長官との会談で、米国の懸念に関係なく進める考えを表明し、記者会見では「米国の圧力に屈することはない」と語りました。
インドのシン首相は四日行われたパキスタンのアジズ首相との首脳会談で、「IPIは平和と地域協力促進のメッセージとなる」と強調。SAARC外交筋も、「米国よりイランの方が南アジアに近い。世界が多極化する現在、地域協力は重要だ」と話しています。
特別扱いなし
SAARCは今回の首脳会議から、日米中韓四カ国と欧州連合(EU)をオブザーバーとして迎え入れました。日中韓は外相を派遣しましたが、米国はバウチャー国務次官補が出席するにとどまりました。
開会式で演説したのは日中韓の外相だけでした。「閣僚以外には演説させない、との事前合意があった」(会議筋)ためです。SAARCは米国といえども特別扱いはしませんでした。
開会式で演説した麻生太郎外相は、安倍内閣の主張する「自由と繁栄の弧」政策を強調し、この視点から南アジア地域との協力強化を訴えました。「自由と繁栄の弧」は東南アジア、南アジア、中央アジア、旧東欧諸国に「民主主義と市場経済」を根付かせるというもので、中国封じ込めを狙ったものとの指摘があります。
地元紙インディアン・エクスプレス(三日付)のインタビューで麻生外相は、「日本、インド、米国の協力促進は有益となるだろう。同じ普遍的価値を共有する三カ国間の協力は、地域の平和と繁栄に貢献するからだ」と語っています。
しかしSAARC各国は、仮想敵をつくったり、封じ込め政策に加担する気はありません。それは、今回のイランのオブザーバー承認に示されています。宗教や政治体制の違いを超えて、平和と繁栄のために協力するというのがSAARCです。
一九八五年に誕生したSAARCは、印パ対立など加盟国間の関係悪化が活動停滞を招くという苦い経験をしています。印パが二〇〇三年に停戦で合意、和平対話が進展するなか、SAARCは「行動する時代」を迎え、対立を乗り越えて前進しようとしています。(ニューデリー=豊田栄光 写真も)
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