靖国史観をベースとする「価値観外交議連」が、5月17日に立ち上げられた。
さて、この議連、アメリカに対してはどのような「外交」を主張するのだろう。
「(自民)党内左派とのたたかい」といった言葉も見えるようだが。
また、郵政民営化造反組に靖国派が多かったことに、それがアメリカによる対日政治・経済介入であることと深いつながりがあるのだろうか?
07年 政治考 “安倍価値観議連”の危うさ(しんぶん赤旗、5月21日)
「おおー。そうそうたる顔ぶれだな」
こういいながら、中川昭一自民党政調会長が入ってくると拍手が起こりました。十七日、衆院第二議員会館の会議室。安倍外交を応援する自民党の「価値観外交を推進する議員の会」の発足集会に、「靖国」派の中心部隊である「日本会議国会議員懇談会」(「日本会議」議連)の中心メンバーがずらりと顔をそろえたのです。
中川氏は同懇談会の会長代行。遅れて駆けつけた下村博文官房副長官は前事務局長でした。今度の「価値観外交」議連の会長には、古屋圭司衆院議員(「日本会議」議連副会長)、事務局長には萩生田光一衆院議員(同事務局長)が座りました。古屋―萩生田のコンビは、「日本会議」のもと、自民・民主議員でつくる「新憲法制定促進委員会準備会」の座長―事務局長コンビでもあります。
真の保守主義
なんのための新議連立ち上げか。古屋氏は発足集会でいいました。「外交は切り口だ。もう一つの趣旨はこれらの『価値』の根底に相通ずる真の保守主義にある」。皇室典範問題、靖国参拝、改憲手続き法、民法七七二条の離婚後三百日の再婚禁止規定…。古屋氏はこれらの課題をあげ、「理念、政治信条で直結する問題で同じ価値観をもつ同志を糾合し、速やかに行動する」とのべました。
実際、今年に入っての古屋氏らの活動をみるとこれらの課題での行動が目立ちます。
▽三月十三日 改憲手続き法で改憲団体「民間憲法臨調」事務局長を招き勉強会。「このままでは改憲阻止法になる」として、公務員の政治的行為を制限する公務員法適用を執行部に働きかけ、「修正」案に盛り込ませる。
▽同二十五日 下村官房副長官がラジオ番組で「『従軍慰安婦』というのはなかった」と発言。
▽四月三日 自民党法務部会に古屋氏が乗り込み、再婚禁止期間短縮に待ったをかける。
▽同六日 「日本会議」議連メンバーの長勢甚遠法相が「貞操義務、性道徳の問題も考えなければ」と発言し、民法改正提案見送りに――。
古屋氏は安倍政権について「教育基本法改正、改憲国民投票法案など、しっかり実績もあがっている。自分の理念に基づいて行動しているという実感だ。われわれの使命は、議会サイドからしっかりサポートすることだ」と語りました。
復党で活発化
「日本会議」議連メンバーの策動が活発になった背景の一つに、昨年十一月の「郵政造反」議員の復党があります。古屋氏はじめ「価値観外交」議連メンバーのうち六人(古屋、今村雅弘、江藤拓、武田良太、古川禎久、森山裕の各氏)が「復党組」です。安倍内閣と党の中枢に「日本会議」議連の中心メンバーが入ったために弱まっていた議連活動を、「復党組」が盛り上げているのです。
今年になって復党した衛藤晟一前衆院議員(「日本会議」議連前事務局長)は、日本会議の機関誌『日本の息吹』三月号でこう述べています。
「日本会議の同志の皆様…のご支援をいただき、復党することができました」「志を同じくする安倍さんが首相となり、『美しい国日本』構想を示されました。…私も微力ながらその国づくりの一翼を担いたい」
歴史・女性に照準
「日本会議」議連が策動
古屋氏らの「価値観外交を推進する議員の会」の照準は歴史問題です。
安倍晋三首相は施政方針演説で「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有する国々との連携の強化」を外交方針の第一に掲げ、その国々としてインドやオーストラリアをあげました。「靖国」派では、「(この)価値観こそ、中国に欠落したもので中国に対しては極めて有効な攻めの力となる」(桜井よしこ氏、「産経」一月十一日付)というように、歴史問題で中国に対抗するカードとして位置づけられています。
新議連発足の趣意書でも「一部の国は対外的に覇権拡張の危険な道を進めつつあるという憂慮すべき現実も否定できません」と中国をけん制。古屋氏はあいさつで中国に対し「共通の価値観を持つ国ではない。ほほ笑み外交の裏に隠された一面を直視する必要がある」と語りました。
運動抑圧主張
改憲手続き法で国民の投票運動抑圧の仕組みづくりの先頭に立ったのも「靖国」派でした。
民主党との修正協議の中で、公務員法の政治活動禁止の「適用除外」の方向が合意されると、「日本会議」議連のメンバーは、「自治労、日教組の活動を許していいのか」などといって「適用除外」の「削除」を強硬に主張。与党修正案提出前日、三月二十六日に自民党本部で開かれた特命委員会に、「日本会議」議連メンバーがおしかけました。その結果、急転直下、公務員法の政治活動禁止が「適用」の方向で復活したのです。
五月三日の改憲派集会では、「一時は迷走を続け、憲法改正のための手続き法が、逆に憲法改正を阻止するための法律となりかねないこともあった。しかし、本会会員の努力によって、そのような事態がかろうじて回避された」(新憲法制定促進委員会準備会の「声明」)と自賛しました。
古屋氏が座長の同準備会はこの日、「新憲法大綱案」を発表。伝統的な価値観、国柄を強調して、九条二項削除・自衛軍の保持や「公の秩序」に基づく人権制約を盛り込んだ「靖国」派の「改憲案」を示し、その“普及”に動きだしています。
敵意を燃やし
「靖国」派が最も敵意を燃やすものの一つに女性の地位向上があります。
四月には、「日本会議」系の地方議員らによる「家族の絆(きずな)を守る会」を旗揚げしました。顧問に古屋圭司、稲田朋美、西川京子、萩生田光一各衆院議員ら「靖国」派国会議員が名を連ねました。
この会のもっぱらの関心は、戦前の家族制度の名残を多く引き継ぐ現行民法の改正を、いかに阻止するかです。会発足時のあいさつで、古屋氏は「(民法見直しには)家族の絆や一夫一婦制を解体するグループが介在している」と述べ、「会発足は五週遅れだ」と危機感をあおりました。稲田氏も「(民法改正に賛成する)党内左派とのたたかいも必要だ」と気勢をあげました。
今国会では、「離婚後三百日以内に生まれた子は前夫の子と見なす」という民法七七二条の見直しの動きが、与党内にも起こりました。夫の暴力から逃れて長期に身を隠している間に新しいパートナーとの間に子が生まれたが、前夫の子としてしか出生届が出せないなどの不合理を解決するためです。
しかし、結局与党の動きは、保守派の抵抗で頓挫。長勢甚遠法相は、「離婚前に懐胎された人すべてが許され、救済されるべきだとは思っていない」(四月二十六日)と言い放ち、“結婚した女性は貞操を守るべきだ”との考えをあらわにしました。(坂井希、中祖寅一)
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「日本会議」議連 「日本会議国会議員懇談会」が正式名称。一九九七年五月、自民党、新進党(当時)、太陽党(当時)の国会議員二百人余で設立された議員連盟。
同議連設立の翌日に結成された右翼改憲団体「日本会議」と連携して、「21世紀を展望する国づくり運動を推進する」ことを掲げ、憲法改悪、教育基本法改悪、皇室典範改正反対などの運動を展開してきました。
会長は初代・島村宜伸元農水相、二代目・麻生太郎外相、三代目・平沼赳夫元経産相(現)。中川昭一自民党政調会長が会長代行。安倍晋三首相も二年前まで副幹事長。加盟議員は〇五年六月時点で自民二百九人、民主二十五人、無所属一人。
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