同じ大学で、沖縄を中心に東アジア近世の歴史を研究されている真栄平先生の文章を、許可をいただいてアップします。
これは、もともとは、たくさんの方に向けて、10月5日付のメールで送信されたものでした。
メールの件名は「書き換えられた『歴史教科書』」となっています。
メールの冒頭に、次の文章を含む短い前文がそえられていたことも紹介しておきたいと思います。
「『集団自決』があった渡嘉敷島は、高校時代の夏休みにキャンプをしたり、海で泳いだ懐かしい想い出の島でもあります。
そのようなサンゴ礁の島で起こった、戦争の歴史の意味を、わたしたちは若い世代に語り継いでいくことが求められていると思います。」
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「歴史は誰のものか-沖縄戦の真実」
真栄平 房昭(神戸女学院大学)
過去に起こった事実を無かったことにする、「歴史の歪曲」が問題となっている。
戦後62年、戦争体験の記憶がしだいに薄れてきた状況に乗じて、歴史的事実をねじ曲げ、記憶の改変をはかる動きである。
文部科学省による教科書検定で、沖縄戦の「集団自決」(強制集団死)から「日本軍の関与・強制」という記述が削除された。
「集団自決」は住民の意思によって行われた自発的な死であり、国に殉じた「美しい死」であると子供たちに教えていこうというのだ。
こうした復古的な価値観は、靖国神社への参拝問題や憲法改正の動き、「戦後レジームからの脱却」といった主張とも無縁ではない。
戦争を美化し、国民を再び戦争に動員するために、軍隊に対する国民の警戒心を取り除くことが狙いで、軍隊が住民を死に追いやったという事実を歪曲し、歴史から消し去ろうとしているのだ。
こうした歴史の歪曲は、「戦死者への冒涜」である。
これに対し、県民の怒りが沸騰し、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」が9月29日に宜野湾市で開かれ、予想をはるかに上回る11万人が参加した。
沖縄戦で日本軍による住民虐殺、スパイ狩り、集団自決、壕追い出し、食糧強奪などが実際に起こったことは、多くの住民の体験から明らかだ。
渡嘉敷島の集団自決で奇跡的に生き残り、両親や弟妹を失って孤児となった16歳の少年は、のちに牧師として「歴史の証言台」に立った(金城重明『集団自決を心に刻んでー沖縄キリスト者の絶望からの精神史』高文研、1995年)。
「平和」の創造こそ人間が生きる核心の課題と見定め、自らの生々しい体験と、平和への思いを綴ったこの本は、戦争体験者の貴重な証言として、多くの人に語り継いでいかなければならない重みをもっている。
いかなる歴史であれ、これを消しゴムで消すように安易に消去することは許されない。
今回の県民大会では、国レベルの教科書検定で危うく消されようとした「歴史の記憶」を自分たちの手で取り戻そう、という切実な願いが強く感じられた。
戦争の記憶を若い世代へと継承していくなかで、私たちは沖縄戦の意味を深く受けとめ、その歴史を未来に語り継ぐ責任があると思う。
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