原武史『昭和天皇』(岩波新書、2008年)を読み終える。
天皇ヒロヒトの生涯を、特に祭祀とのかかわりに注目して描いたもの。
戦前・戦中・戦後の天皇を、政治的役割から明らかにする研究は多い。
だが、ヒロヒトは、戦争の経過を逐次神に報告し、とりわけ日中戦争開始以後は、熱心な必勝祈願を欠かさない。
まわりの期待においても、自身の自覚にあっても、ヒロヒトは政治的権力者であると同時に祭祀王。
「非合理」を理由に研究対象としてはマイナーな地位におかれることの多かった問題だが、「非合理」もまた現実の歴史をつくる大きな要素である。
母親(貞明皇后)の神がかり、植民地や「満州」までの同時刻の宮城遥拝強制、地方視察と宮城前広場での「君民一体」化、そして、神国敗戦と一時の「革命的情勢」にもかからず、戦後も継続する天皇制支持の圧倒的世論。
「大衆」をつかむや物質的な力と化すのは、何も「理論」だけではないのである。
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