以下、映画「時の行路」の推薦文の下書きです。
チラシに掲載されるのは、この4分の1の量となりましたので、以下全文公開です。
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労働組合運動再興のきっかけに
青森県八戸の家を離れ、静岡県三島ではたらきながら家族に送金していた五味洋介は、リーマンショックを口実とした「派遣切り」に遭遇する。日比谷公園に「年越し派遣村」がつくられた2008年末のことである。
「業績不振」を建前に「予定どおりの経費削減」を行ったのは大手自動車メーカーのMIKADOで、不当にも契約期間中の解雇を労働者にのみ込ませたのは派遣会社のニュースタイル。両者は、派遣や期間工は「消耗品」、必要になればいつでも「補給」できると笑いあう。
「ゴミのように捨てられたらたまんないからな」。しばらく考えた後、洋介は労働組合・全金労連に加入する。工場の正門前で初めてマイクを握り、原稿を風でとばされたことから心の声が爆発する。
「私たちの給料は物件費なんです」「人件費ではないんです」「知らないでしょ」「同じ仕事をしてるのに、いらなくなったらポイはねえんじゃねえんですか」「くやしいし、激しい怒りを覚えます」。
キャバクラなどへの酒の配達を新しい仕事にしながら、洋介は大企業MIKADOを訴えて、仲間と裁判を開始する。送金は減り、妻・夏美は無理をして体調を崩し、息子・涼一は決まっていた大学をあきらめる。
涼一が夜行バスと電車を乗り継いで、1人で洋介を説得に来る。「組合やめて帰ってこいよ。家族一緒にくらすべ」「んだな。けど、平気ではたらく人のクビを切れるなんてことさなったら、おめえたちの未来だってねえんだぞ」「そんな先のことより今のことだろ」・・・「いま帰るわけにはいかねんだ」。
洋介の部屋に泊まらず帰った涼一は漁師になり、翌年、夏美はガンで亡くなる。臨終に間に合わなかった洋介に「裁判はかあちゃんより大事なの?」と娘・綾香の声が刺さる。
東京地裁で敗訴。3年後、高裁での控訴人陳述で洋介は訴えた。「まじめに、一生懸命にはたらいてきた人間がモノ扱いをされて簡単に切り捨てられる。そんな理不尽がまかりとおる世の中であってはならないのではないでしょうか」。傍聴席には、母の遺影を抱いた涼一と綾香の姿もあった。
しかし、控訴は棄却、最高裁への上告も棄却され、クビ切りから足かけ9年の闘いは敗訴の確定で一区切りとなる。
八戸で墓参りをすませた洋介は、亡き妻の父に「すまねえが、いましばらく涼一と綾香、夏美の位牌を頼みます」とあたまを下げ、「ここまでのことを無駄にしねえように」と深夜バスの中で涙を流しながら東京にもどっていく。
ハッピーエンドではまるでない。はたらくものの置かれた厳しく、あまりにも理不尽な現実がありのままに描かれている。
洋介が訴えるように、こんな世の中であっていいわけがない。そして、いま闘わなければ未来はますます暗くなっていく。「ゴミのように捨てられたらたまんないからな」。そう思っている人はまわりにいくらでもいるはずだ。
この映画の上映を広い対話の運動と結びつけ、労働組合運動の再興に向けた大きな波をつくっていかねばならない。
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