「社説 『変化』の先の『秩序』は示さず 政治手法」(西日本新聞)。
「首相在任5年4カ月、戦後3番目の長期政権を維持してきた小泉純一郎首相が、あと3週間たらずで退陣する」。
それを総括的に評価していく社説である。小泉政権への一定の評価がある一方,以下のように,多くの不安や問題を指摘するものとなっている。
「首相が得意とするのは、物事を単純化し、『否』か『応』かの二者択一を迫る手法だ。政敵に『抵抗勢力』のレッテルを張り、悪役に仕立ててしまうしたたかさも随所で発揮した」。
「理屈よりも感性に訴える小泉流が、国民の目に分かりやすく、新鮮に映ったのは事実だ。一方で、小泉首相の政治手法が常に危うさをはらんでいたことも、指摘しておかねばならない」。
「その危うさが端的に表れたのは、外交・安全保障政策だ」「日本と中韓両国の関係は最悪の状態に陥っている。要因のひとつは、首相の靖国神社参拝である。にもかかわらず首相は『戦没者慰霊は心の問題だ』と繰り返すばかりで、何の手も打っていない」。
「靖国神社に対する国内外の複雑な感情や、その背景にある歴史的経緯を論理的に分析することもなく、『心の問題』と感情論で片付けようとするところに、小泉流の限界がのぞく」。
「アジア外交の挫折とは対照的に、日米関係は小泉政権のもとで戦後最良の蜜月時代を迎えたとされる。首相とブッシュ米大統領との個人的信頼関係に負うところが大きく、首相の功績と言っていいだろう」。
「だが、首相の対米重視政策は、戦後日本の平和主義的価値観を揺るがしかねない領域にまで踏み込んだ」。
「2003年のイラク戦争では世界に先駆けて米国支持を表明、翌年には国内の根強い反対を押し切って、実質戦地に等しいイラクに「復興支援」の名目で自衛隊を派遣した」「その決断に際し、平和憲法のもとでの自衛隊の役割や、日本の国際貢献のあり方が真剣に論議されることはなかった」。
「この国の針路に関する明確なビジョンと長期戦略を欠いたまま、目先の現実としての『対米配慮』が優先され、自衛隊の活動領域拡大という既成事実だけが残ったともいえる」。
「将来ビジョンが不明確なのは、首相の内政面の金看板とも言える構造改革も同様だ」 「『勝ち組』と『負け組』の格差が社会問題化し、年金保険料や医療費の負担増などに象徴される社会保障水準の切り下げが、社会不安を醸成しつつある」。
「首相は『改革』を叫び続けながら、その先にある社会像を具体的に示すことはなかった」「首相が言う『簡素で効率的な政府』は、弱者にもきちんと目を向けてくれるのか、それとも、今以上に効率と経済合理性が幅を利かすのか」「それが見えないことが、国民の不安を増幅しているのではないだろうか」。
「この国の針路をどこに定め、どんな社会を目指すのか。そのためには何をするべきなのか」「そんな根本的なテーマに関してしっかりしたビジョンをまとめ、国民に示す仕事が、『ポスト小泉』政権の課題となる」。
さて,小泉内閣を官房長官として支え,今もまた小泉首相にもっとも気心の知れた人物といわせしめる安倍晋三氏は,著書『美しい国へ』にも政権公約「美しい国,日本。」にも,日本社会のあるべきビジョンを示すことができていない。
「ポスト小泉」の一番手として,氏はこの問いかけにどのように答えるのか。
あるいは沈黙のまま,「国民の不安の増幅」をますます深めていくだけか。
最近のコメント