「サービス残業」という名の無償労働に苦しめられているのは,わが卒業生も同じである。
これは明らかに労働基準法違反である。そこで,法律の方をかえてしまい,これを合法化してしまえというのが「ホワイトカラー・エグゼンプション」の制度である。
求めているのは日米の財界・大企業であり,これをしっかと受け止め,来年1月の国会に提出しようとしているのが日本政府・厚生労働省。
まったくもってどうしようもない。
いったい誰のための政府なのか。
しかし,労働側にも新たな反撃の火の手があがっている。連合,全労連,全労協の共同である。これ以上の「奴隷」労働はゆるされない。
社会保障にせよ,医療にせよ,税にせよ,「市民のガマン」は明らかに限界に達しつつある。日本の社会と政治は,ますます流動性を高めている。
毎日の出来事に一喜一憂することなく,しっかりと連帯の輪をひろげ,現状への怒りを声と行動につなげていくことが大切である。
政治はますますおもしろい。
労働時間規制の撤廃 米国企業代表が要求(しんぶん赤旗,12月7日)
「在日米国商工会議所(ACCJ)は六日、厚生労働省に「米国のホワイトカラー・エグゼンプション制度を参考とした労働時間制度」の導入を要請しました。一定の要件を満たした労働者を労働時間規制の対象からはずし、際限ない長時間労働を合法化する制度です。
ACCJは要望書のなかで、現在労働基準法の対象から除外されている「管理監督者」の範囲を拡大して同制度の対象にすることや、いま裁量労働制を適用されている労働者、年収八百万円以上の労働者はすべてホワイトカラー・エグゼンプションの対象にすることを主張しています。
また、「米国の業務要件にならい」、オフィスの運営にかかわる事務職、資格が必要な専門職、コンピューター関連のサービス労働者、外回りの営業職にも同制度の適用を求めています。
「労働時間規制の適用除外者」に対する深夜労働の割増賃金は、「労働コストの上昇を招くだけ」だとして廃止を要求しています。
日本の労働時間規制撤廃を求める理由については、日本の労働市場の「経済生産性」をあげ、日本に投資した米国企業が米国流で労働者を使えることをめざしています。
ACCJには日本で活動する米国企業千四百社の代表が加入しています。」
日本版ホワイトカラー・イグゼンプション サービス残業 青天井(東京新聞,12月5日)
「小泉改革の置き土産が年明けの通常国会に上程されそうだ。労働基準法「改正」の形で出される「ホワイトカラー・イグゼンプション」制の導入だ。「一日八時間労働」の大原則が崩れかねず、わずかな残業代が消える懸念も。日本経団連、米国は導入に固執するが、労働界はこぞって反対。サービス残業が常態化している現在、世間の関心はいまひとつだが、給与、雇用への影響は必至な情勢だ。
「ホワイトカラー・イグゼンプションは私たちの時間を奪う時間泥棒の新たな武器だ。生活を破壊する立法を許してはならない」
五日夕、東京・日比谷野外音楽堂で開かれた集会。連合、全労連、全労協の各団体が垣根を越えて催し、約千五百人が集まった。
厚生労働省労働政策審議会(労政審)の分科会で、労働者委員を務める連合の小山正樹氏は「仕事の自由度はお客さん次第で、自らは決められない。委員二十一人のうち労働側は七人。皆さんの声が必要だ」。
中学校の教師だった夫を十八年前に過労死で失った「東京過労死を考える家族の会」の中野淑子さんは「自由度が高く、具体的指示も受けない教師の労働はホワイトカラー・イグゼンプションのようなもの。夫は家でテストの採点をし、非行の生徒を夜探したり、残業が続いた。私たちの悲しみをこれ以上多くの人にさせたくない」と述べた。
しかし、集会の会場から少し離れた虎ノ門を歩いていたサラリーマンに聞くと「ホワイト? 分かりません」(証券会社に勤める五十七歳男性)といった具合で関心は薄い。
中には「導入されれば、八時間以上働かなくて済むのでは。労働時間は会社が調整してくれるだろう」(IT企業の三十三歳男性)という声もあった。
■経団連の提言は年収400万円以上
あらためて、制度の中身と導入への歩みをみてみよう。厚労省が先月十日、労政審分科会に示した素案は「一定の要件を満たすホワイトカラー労働者について(略)労働時間に関する一律的な規定の適用を除外する」とし、要件には(1)労働時間では成果を適切に評価できない業務(2)重要な権限および責任を相当程度伴う地位(3)年収が相当程度高い-などの点を列挙した。
そもそも、労働時間規制の適用除外は「小泉改革」を進めるため、前首相が設けた「総合規制改革会議」(議長・宮内義彦オリックスグループ最高経営責任者)が二〇〇三年十二月の第三次答申で打ち出した。
そこにあったのは「現行の労働時間規制はブルーカラーを念頭に置いたもので、ホワイトカラーにそのまま適用するには無理がある」という論理だ。
さらに昨年六月、日本経団連が「ホワイトカラー・イグゼンプションに関する提言」を発表。年収四百万円以上のホワイトカラーへの適用を求めた。今年六月発表の「日米投資イニシアチブ報告書」にも、米国からの要請として同制度の導入が明記されている。
厚労省の労政審の分科会では、使用者側と労働側の各委員が対立しているが、政府は今月中にも最終報告をまとめ、来年一月からの通常国会に同制度を明記した労基法改正案の提出を目指している。
これに対し、労働界は猛反発している。日本労働弁護団の棗(なつめ)一郎弁護士は「一番問題なのは一日八時間、週四十時間という労働時間規制を撤廃する点。一日二十四時間働かせても合法で、残業代を払わなくてよい。健康上の問題が生じるのも必至。使用者が時間管理の責任を負わなくなるので倒れても追及できない」と指摘する。
新制度導入後のシミュレーションを発表した全労連系のシンクタンク・労働運動総合研究所の藤吉信博事務局長も「導入されれば業績を上げるために長時間労働を余儀なくされ、生活も苦しくなる。過労死やメンタルヘルス問題は悪化し、少子化も深刻化しかねない」と懸念する。
厚労省の監督課は「経団連が(要請で)四百万円以上としたことで一部に過剰な反応があった。適用除外の対象は相当程度年収の高い人とし、平均的な年収の人は含まない」と強調するが、具体的な対象年収額については未決定という。
同省は労働時間の適用除外と同時に、解雇の金銭解決を認める労働契約法案もセットで国会に提出予定だ。労働界では「ホワイトカラー・イグゼンプション制で一人当たりの労働量を過重にし、余った労働力を切り捨てる狙い」とみる。
全国一般労組の大木寿中央執行委員長は「現行の労働法規も最低限の規制。それも取り払われれば、労使交渉も困難になる。労働者にとって要求の根拠がなくなってしまう」と語る。
■残業代不払い「今でも4割」
そもそも、残業代自体が現行法通りに支払われていない実態がある。厚労省が先月行った電話相談では、賃金不払い残業が千二十二件(昨年度八百五十二件)あり、四割以上が賃金をまったく支払われていなかった。一カ月で百時間以上残業したケースが百三十五件もあり、サービス残業のまん延は明らか。東京労働局労働時間課は「自己申告制の職場では五十時間残業しても、評価が落ちるので三十時間としか書かないことも。タイムカードなど客観的な方法を指導しているのですが…」と話す。
さらに総務省の調査では労働時間も一九九三年度には、週三十五時間未満が18・2%、週六十時間以上が10・6%だったのが、二〇〇四年度にはそれぞれ5・4ポイント、1・6ポイントずつ増加している。
さぼることと裏腹の「ぶらぶら残業」では、と経営者側は疑いがちだが、労働時間の長期化などは健康状態にも影を落とし、社会経済生産性本部の調査では「この三年間に心の病が増えた」という企業が、〇二年の48・9%から〇六年は61・5%に増えた。大半はうつ病と神経症だという。
棗弁護士は「今ですら労働基準法は守られていないのだから、ホワイトカラー・イグゼンプションを導入してもいいというあきらめ論もあるが違う。使用者は労働基準監督署の手が入るのをすごく恐れている。隠れてコソコソやっているのが大手を振ってできるようになれば、歯止めが利かなくなる」と警戒する。
経済アナリストの森永卓郎氏は「今でも残業代は四割くらいしか払われていないのに、経団連が(全労働者の約半数の)『年収四百万円以上』としているのは残業代を抑制し、ゼロにする目的がある。これではサービス残業が増えるに決まっている」と批判する。
「導入するなら週休二日制の完全実施、誰からも命令を受けないといった条件を前提に、対象は少なくとも年収が二千万円はある人にすべきだ。でも、そうした人は労働者全体の1%いるかいないか。そうでない人たちにまで対象を広げるのは間違いだ」
棗弁護士はこの制度は格差社会を助長すると指摘しこう憤る。「(新制度導入なら)二極分化が進み低所得者層が増えるだろう。おとしめながら再チャレンジを奨励する。何を言っているんだという感じだ」
<メモ>米国のホワイトカラー・イグゼンプション制度 年収や雇用形態など一定の要件を満たしていれば、公正労働基準法(日本の労基法に該当)が定める週40時間の時間規制を超え、深夜業であっても残業代が支払われない。名称は規制から除外(イグゼンプト)される意味。
労働基準法三二条(1) 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。(2) 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
同三七条(1) 使用者が(略)労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては(略)通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内で(略)割増賃金を支払わなければならない。
<デスクメモ> その昔の学生時代「IT革命」だとかがはしりで、技術の進歩でやがて労働時間はより短く、通勤の必要もなくなりそうなバラ色の未来が描かれていた。ところがどっこい、である。先人は言った。甘い話には裏があると。小泉氏は「痛み」は告げてたが、報酬は約束しなかった。教訓は生かさねばならない。(牧) 」
コメント