「産経」の古森氏が、44年9月作成の資料を紹介し、「慰安婦」について「強制徴用」や「性奴隷」でない認識を、当時の米軍がもっていたと述べている。
だが、「金銭と引き換えに徴募され」「だれも帰国を許されなかった」女性は、また「売り上げの50%」を受け取りながら(軍票だろうか?)「法外な値段」でものを売られることによって、その金さえも経営者に吸い上げられていた女性は、はたして「商業ベースで『契約』に基づき、『雇われて』いた」といえるのだろうか。
また、それらの女性は「慰安婦」になることを了解したうえで「徴募され」ていたのか。さらに、その女性が「移動」を軍に「供与」されたということは、移動が軍によって管理(束縛)されていたということではないのだろうか。
20万人ともいわれる「慰安婦」全体の状況を1つの資料だけから類推することはできず、また米軍やアメリカ政府のこの問題についての認識の変化についても考慮する必要があろうが、しかし、仮にこの1つの資料だけを問題としても、それが「慰安婦」の「性奴隷」であることを否定するものとは思えないのだが。
石原氏の「軍が調達した事実はない」発言だが、軍が「慰安婦」徴募者の人選を行った事実は資料に残されている。また「慰安所」建設の命令を行い、「慰安婦」を物資として輸送したことも。氏のいう「調達」とは、いったいどのようなことなのだろう。
これもまた「従米靖国史観派」という、戦後日本保守の内的矛盾のあらわれといえる。
慰安婦「契約の下で雇用」 米陸軍報告書、大戦時に作成(産経新聞、5月18日)
【ワシントン=古森義久】日本軍の慰安婦に関して戦時中に調査に当たった米国陸軍の報告書に女性たちは民間業者に「一定の契約条件の下に雇用されていた」と明記されていることが判明した。同報告書は「日本軍による女性の組織的な強制徴用」という現在の米側一部の非難とはまったく異なる当時の認識を明示した。
「前線地区での日本軍売春宿」と題された同報告書は米陸軍戦争情報局心理戦争班により第二次大戦中の1944年9月に作成され、米軍の「南東アジア翻訳尋問センター」の同年11月付の尋問報告に盛りこまれていた。73年に解禁され、近年も日米の一部研究者の間で知られてきた。
当時の朝鮮のソウルで金銭と引き換えに徴募され、ビルマ北部のミッチナ(当時の日本側呼称ミイトキーナ)地区の「キョウエイ」という名の慰安所で日本軍将兵に性を提供していた朝鮮人女性20人と同慰安所経営者の41歳の日本人男性が米軍の捕虜となった。同報告書はこの男性の尋問を主に作成されたという。同報告書は「すべての『慰安婦』は以下のような契約条件の下に雇用されていた」と明記し、女性たちが基本的には商業ベースで「契約」に基づき、「雇われて」いたという認識を示している。
同報告書はその契約条件について次のように記していた。
「個々の慰安婦はその総売り上げの50%を受け取り、無料の移動、食糧、医療を与えられた。移動と医療は軍から供与され、食糧は慰安所経営者が軍の支援を得て、購入していた」
「経営者たちは衣類、日常必需品、さらにはぜいたく品を法外な値段で慰安婦たちに売りつけ、利益をあげていた」
「慰安婦の女性がその家族に支払われた金額を利子付きで返済できるようになれば、朝鮮への無料の帰還の便宜を与えられ、自由の身になったとみなされることになっていた。だが戦争の状況のために、このグループの女性はだれも帰国を許されなかった」
「この日本人が経営した慰安所では女性1人の2カ月の総売り上げは最大1500円、最小300円程度だった。個々の女性は経営者に毎月、最低150円は払わねばならなかった」
以上のように、この報告書は慰安婦の「雇用」や「契約条件」を明記するとともに、慰安婦だった女性は一定の借金を返せば、自由の身になれるという仕組みも存在したことを記し、「軍の強制徴用」とか「性的奴隷化」とは異なる認識を当時の米軍当局が有していたことを証している。
従軍慰安婦問題、「軍が調達した事実はない」 石原知事(朝日新聞、5月18日)
ニューヨークでの世界大都市気候変動サミットに参加している石原慎太郎・東京都知事は17日、日米交流団体「ジャパン・ソサエティー」の会合に出席し、従軍慰安婦問題について「軍が調達した事実はない」と述べた。
講演後、報道陣に認識を問われた石原知事は「戦争中に軍がそういう女性たちを調達した事実はまったくありません。ただ、便乗して軍にそういうものを提供することを商売にした人間はいましたな」と答えた。
米国では1月、米下院の与野党議員が首相の公式謝罪を求める決議案を提出、安倍首相が「狭義の強制性」を否定して反発が広がり、首相が従軍慰安婦に「申し訳ない気持ちでいっぱいだ」と述べるなど、関心事になっている。
従軍慰安婦問題では93年、「慰安婦の募集は、軍の要請を受けた業者が主として当たり、官憲等が直接加担したこともあった」と、軍当局の関与を認める河野官房長官談話が発表されている。
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