兵庫県の「高度化資金」の不良債権額が、全国最多になっているという。
不良債権を少なくすることはもちろん必要なことだが、解決に向けた根本の政策は、県内の消費力の向上である。
それをせずに貸し付け基準の厳格化などをすすめるだけでは、結局、経済は一握りの大企業だけのものとなっていく。
中小企業融資の不良債権化、兵庫は最多257億(神戸新聞、7月20日)
複数の中小企業が組合をつくり、商店街のアーケードなどを整備する地域活性化事業に対し、経済産業省所管の独立行政法人、中小企業基盤整備機構(中小機構)と都道府県が共同融資する「高度化資金」の不良債権額が二〇〇六年度末で、融資残高の四割に当たる約二千三百四十五億円(中小機構、都道府県分の合計)に上ることが十九日、共同通信社の調査で分かった。同資金の不良債権の総額が明らかになるのは初めて。
不良債権比率が高いのは和歌山(92%)を筆頭に、山形(83%)、沖縄(80%)など。不良債権額の最多は兵庫の二百五十七億円。
政府の行政改革推進本部は昨年十二月、二〇一〇年度末までの不良債権半減を決定。これを受け、都道府県は今年二月以降、中小機構分を含む回収不能債権の分類を始めたが、既に終えた十二県分で計約百億円に達することが判明。全体では数百億円規模とみられる。十二県のうち回収不能額ゼロの二県を除く宮城など十県は本年度以降、最大で全額の約百億円を債権放棄する見通し。
背景には中小企業の経営不振だけでなく、都道府県の債権管理態勢の不備があるとみられ、制度の存廃も含めた見直し論議が起きそうだ。
高度化資金は、組合が地域活性化事業を行う際、事業費の八割を融資する制度。都道府県が窓口となり組合の申請を受けて審査した上で、融資額の三分の一を貸し付ける。残り三分の二は中小機構が都道府県を通じて融資。税金が原資で債権回収は都道府県が行う。
調査によると、「非公表」と回答した北海道を除く四十六都府県の〇六年度末の融資残高は約六千二十六億円。不良債権約二千三百四十五億円の内訳は、返済が遅れている延滞債権が約八百五十三億円、返済期限の延長などを行った債権が約千四百九十二億円。愛知など三県は一部非公表のため、実際の不良債権額はさらに膨らむもようだ。
■焦げ付き分公開を 林宏昭・関西大経済学部教授(地方財政論)の話
バブル崩壊後の不良債権拡大で金融機関に余力がなくなり、リスクが地方も含めた行政に集中し過ぎた感がある。回収不能な高度化資金はコストとして認めざるを得ない面があるが、情報公開は必要だ。現状では自治体のバランスシートに資産として計上されるが、焦げ付いたものは明確化するべきだ。今後は、政府が検討する地方版の産業再生機構のようなものを活用し、再生可能企業の債権を放棄し活性化することも一つの方向だ。
高度化資金 複数の中小企業が共同で実施する事業に融資する制度。工業団地への集団移転、商店街のアーケード整備、メーカーの下請け業者による共同工場建設などが代表例。経営基盤を強化し、雇用増など地域活性化を狙う。融資額は事業費の8割で、限度額はない。3分の2を負担する中小企業基盤整備機構の原資は政府出資金。返済期間は最大20年、無利子か1%程度の低利で税制上の優遇措置もある。中小機構の前身「中小企業振興事業団」が設立された1967年以降、約4兆4千億円の融資実績がある。
兵庫県の「高度化資金」の不良債権額が約二百五十七億円に上ることが十九日分かったが、県は、これらがいずれも延滞や返済期間が変更された債権であると説明。一方で、これとは別に回収不能となった「不納欠損」が現時点で約十四億円あることも明らかにした。
県によると、高度化資金の債権残高は二〇〇六年度末で約千四百億円。完済分を除いた債権残高は約五百五十三億円。
このうちの五割近くが不良債権とされるが、期限が過ぎても返済のない「延滞債権」が約四十七億円、返済期限を延長するなどした「条件変更債権」が約二百九億円-との内訳といい、「細々ながら返済が続いている債権が含まれている」ともしている。
約十四億円の回収不能債権が発生したのは、融資先の経営破たんなどが要因。背景には、不況や阪神・淡路大震災の影響がある。被災を免れたが、周辺人口が震災前の水準に戻らず、業績不振に陥った例もあったという。
商店街などの小売業関連では、大型店の出店を原則自由化した二〇〇〇年の大店立地法施行で競争が激化し、経営環境が急速に悪化したケースが少なくなかった。県は「延滞や条件変更をした融資先には返済を促している。今後も担保処分などによる債権回収に努める」としている。(小林由佳)
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