アメリカ下院本会議は、日本政府に公式謝罪を要求する「慰安婦」決議を可決した。
出席議員から異議はひとつも出なかったという。
これを受けた安倍首相は、採択されたことを「残念」だと語る。
他方で、決議は日米同盟の重要性を強調しており、さらに下院外交委員会は、テロとの闘いについての日本への感謝決議をあげるという。
下院の「人権」問題重視が、アメリカの外交戦略の制約をもっているということの表われでもある。
慰安婦決議案を可決 米下院本会議 日本に公式謝罪要求(西日本新聞、7月31日)
【ワシントン30日田端良成】米下院本会議は30日午後(日本時間31日早朝)、旧日本軍の従軍慰安婦問題で日本政府に責任を認めて公式謝罪するよう求める決議案を賛成多数で可決した。ただ、決議に法的拘束力はなく、31日には慰安婦問題を審議した下院外交委員会が日米関係に配慮する形で「テロとの戦いに対する日本の貢献に感謝する決議案」を可決する見通しであることなどから、慰安婦決議が両国関係に与える影響は最小限にとどまりそうだ。
慰安婦問題をめぐる決議案は2001年以降これまでに4回提出されたが、本会議で可決されたのは今回が初めて。3分の2以上の議員の賛成が見込まれたことから、採決は本会議に出席した議員が賛成、反対を声で表明する「ボイス・ボート」(発声投票)で行われ、出席議員からは異議は出なかった。
決議は「従軍慰安婦制度は軍用の強制的な売春で、旧日本軍は女性を性的奴隷にした」などと指摘し、安倍晋三首相に謝罪声明を出すよう求める内容。日本政府はこれまで「1993年の河野官房長官談話で既に謝罪している」などと訴えてきたが、安倍首相が3月、「強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実ではないか」と発言したことなどが反発を招き、同外交委員会は6月末、39対2の大差で慰安婦決議案を可決していた。
ただ、民主党指導部は決議が日本の政局に与える影響を考慮し採決を参院選終了後まで先送り。日本への「感謝決議案」には、慰安婦決議案を提出した日系のホンダ議員(民主党)も共同提案者に名を連ねており、米議会が「反日」に傾いていないことを印象付ける狙いがあるとみられる。
【ワシントン30日共同】米下院本会議で30日可決された従軍慰安婦決議の要旨は次の通り。
一、従軍慰安婦制度は日本政府が第2次大戦中にアジア太平洋地域を支配した時代に行った軍用の強制的な売春で、20世紀最大の人身売買の1つ。
一、現在の日本にはこの問題を軽視しようとする教科書もある。公職にある者が、慰安婦問題で謝罪した1993年の河野洋平官房長官談話を軽視、否定したがっている。
一、日本政府が歴史的責任を認め、公式声明で首相が謝罪すれば、今後この問題が再燃するのを防げるだろう。
一、日本政府は、旧日本軍のために女性を性的奴隷にしたり人身売買が行われたことはないとの主張を容認してはならない。
一、日本政府は現在および将来の世代にこの恐ろしい犯罪を伝え、元慰安婦に対する国際社会の声に耳を傾けるべきだ。
一、日米同盟はアジア太平洋地域の平和と安定の要であり、政治的、経済的自由の促進、人権、民主主義の尊重という価値観の共有に基づいた同盟であり続ける。
慰安婦決議の要旨=米下院(時事通信、7月31日)
【ワシントン26日時事】米下院が30日に採択した対日謝罪要求決議の要旨は次の通り。
1、日本政府は1930年代および第二次大戦中、帝国軍の性的奴隷とする目的で若い女性を手に入れるよう正式に指示した。
1、その残忍性・重大性において前例がないと思われる慰安婦制度は20世紀最大の人身売買事件の一つである。
1、日本の教科書の一部は慰安婦の悲劇や他の戦争犯罪を軽視しようとしている。
1、日本の官民双方の関係者は最近、93年の河野官房長官談話を弱めようとの意思を表明した。
1、日本帝国軍がアジア・太平洋の島々で性的奴隷となるよう若い女性に強制したことに対し、日本政府は明確かつあいまいさの残らない形で公式に事実を認め、謝罪し、歴史的な責任を受け入れるべきである。
1、首相が公の声明として謝罪すれば、これまでの声明の誠意に関して繰り返される疑問の解決に役立つだろう。
1、日本政府は性的奴隷・慰安婦の売買の存在を否定するいかなる主張に対しても明確かつ公に反論しなければならない。
1、日本政府は慰安婦に関する国際社会の勧告に従いながら、現在と未来の世代を教育しなければならない。
1、日米同盟はアジア太平洋地域の平和と安定の礎だ。
首相「残念」 慰安婦決議採択でコメント(産経新聞、7月31日)
安倍晋三首相は31日、首相官邸で記者団に対し、米下院本会議が慰安婦問題をめぐる対日非難決議を採択したことについて、「(4月に)訪米した際、私の考え、政府の対応については説明してきた。こうした決議をされたことは残念だ」と述べた。
首相は「20世紀は人権が侵害された世紀だった。21世紀は人権侵害がない、世界の人々にとって明るい時代にしていくことが大切だ。これからもよく説明していくことが大切だ」と述べ、引き続き米国側に事実関係と日本の対応について説明していく考えを示した。
慰安婦問題をめぐっては、首相が4月末に訪米した際、ペロシ下院議長ら議会指導者との会談で、「人間として首相として心から同情している。そういう状況に置かれたことに申し訳ない思いだ」と語っている。
塩崎恭久官房長官も同日の記者会見で、「決議案が採択されたことは残念だ」と述べた。
日米同盟の重要性確認へ決議案=両国関係に配慮-下院外交委(時事通信、7月31日)
【ワシントン30日時事】戦時中の旧日本軍従軍慰安婦問題で対日謝罪要求決議を採択した米下院外交委員会が31日、日米同盟の重要性を宣言する超党派決議案を採決に付すことが30日分かった。
共和党のサックストン議員が提出した決議案には、慰安婦決議提出者である日系のホンダ議員(民主)や日本の保守勢力批判の急先鋒(せんぽう)となったラントス下院外交委員長(同)らも共同提案者として名を連ねており、慰安婦決議採択による対日関係への影響に配慮する米議会のバランス感覚を示す形となっている。
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