パキスタンの憲法停止事態だが、根本は国内のイスラム勢力との対話・協調の不足ということか。
それは、何よりアメリカとパキスタンとの関係をめぐってのことであるらしい。
パキスタン「司法が政府機能阻害」 大統領、非常事態の正当性主張(中日新聞、11月5日)
【バンコク=林浩樹】パキスタンに非常事態を宣言、暫定憲法命令を発令したムシャラフ大統領は三日深夜(日本時間四日未明)、テレビ演説を行い、テロと過激派の脅威に加えて「司法の政治干渉によって、政府機能が半ばまひの状態に陥った」と述べ、非常事態宣言の正当性を主張した。国内全土では反政府勢力の取り締まりが本格化。アジズ首相は四日の会見で、野党幹部ら四百-五百人を拘束したと発表し、事実上の戒厳令の様相が強まっている。
演説の中でムシャラフ大統領は、最高裁がテロ容疑者六十一人の保釈命令を出したことなどを挙げ「政府機能は裁判所によって阻害されている」と批判。今後は暫定憲法の下、司法権限が大幅縮小される可能性もある。
また、大統領は「テロとの戦い」で同盟関係を築く欧米諸国に対し「パキスタンにおける自殺行為を避けるため、行動を起こさなければならなかった。時間を貸してほしい」と要望。政府や国会、地方議会の機能維持を約束し「民主化は完遂する」と強調した。
一方、アジズ首相は会見で、非常事態を「できるだけ早く解除したい」としながらも、「必要な間は続く」と述べた。さらに来年一月に予定される総選挙に関しても、最大で一年延期する可能性に言及した。
解任されたチョードリー最高裁長官に代わって新長官に任命されたドガル氏は、非常事態宣言の要因ともなったムシャラフ氏の大統領選立候補資格をめぐる審理を中止する意向を示した。
インド首相と外相、緊急会談でパキスタン情勢を協議(読売新聞、11月4日)
【ニューデリー=永田和男】インドのシン首相とムカジー外相は3日夜、緊急会談を行い、パキスタン情勢を協議した。
印政府は、2004年以来続く和平プロセスのパートナーであるムシャラフ政権の継続を望む立場から、非常事態宣言については批判を避け、事態の推移を慎重に注視している。
インド外務省は3日、「パキスタンが直面する困難な時期を遺憾に思う」との報道官談話を発表。シャルマ外務副大臣も「パキスタンの安定を望む。同国とインドは相互の関係改善と理解促進に向け、有意義な行動を続けてきた」と記者団に語り、非常事態宣言の是非を論じるのではなく、印パ関係改善のためにもパキスタン国内の安定回復を支持することが重要との立場を鮮明にした。
インド政府と世論は、ムシャラフ政権発足後も、1999年のジャム・カシミール州カーギル地区での大規模紛争や、パキスタン軍情報機関が支援すると見られる組織のテロ活動がインド国内で相次ぐこともあって、同大統領に全幅の信頼を置くわけではない。
しかし、4年近く続く和平プロセスを通じて軍事衝突回避の仕組みが整いつつあることや、ムシャラフ政権が倒れればパキスタン国内のイスラム原理主義勢力台頭を抑えられなくなる懸念が強いことから、「より良い代替勢力が見当たらない以上、現政権を支持するほかない」(元外務省高官)という消極的支持を続けている。
原理主義勢力がパキスタンで勢力を伸長すれば、大量の住民が越境し、インド国内でイスラム教徒の多い州に流入するとの懸念は強い。インド軍は3日から、ジャム・カシミール州はじめ国境沿いの各州で、イスラム過激派流入などを想定した厳戒態勢に入っている。
欧米、強権発動に失望感・パキスタン、過激派の動きに懸念(日経新聞、11月5日)
パキスタンのムシャラフ大統領による非常事態宣言に欧米は失望感を示している。同大統領を支えてきたブッシュ米政権は行き過ぎた強権発動が過激思想をあおると懸念。ライス国務長官は4日、訪問先のイスラエルで「迅速に憲法の過程に戻り、議会選挙の実施を確約するべきだ」と遺憾の意を示した。パキスタンに対して実施している数十億ドル規模の援助の一部停止の検討も示唆、ムシャラフ政権への圧力を強める方針だ。
ロイター通信によると、米国はパキスタンに2001年以降、テロ対策費などとして合計約100億ドルを援助している。
英国のミリバンド外相は「非常事態宣言は安定と発展に逆行する」と指摘。欧州連合(EU)のソラナ共通外交・安全保障上級代表も4日の声明で、「民主化からの逸脱は問題解決にならない」と懸念を表明した。(00:42)
パキスタン 憲法停止 最高裁長官解任、首都に軍(しんぶん赤旗、11月5日)
【ニューデリー=豊田栄光】パキスタンのムシャラフ大統領は三日夜、「非常事態宣言」を全土に発令し、憲法を停止しました。発令理由として同大統領は、自爆攻撃やテロを含む反政府イスラム武装勢力の攻勢と、司法の権限を逸脱したとする最高裁判事の行政府への介入をあげました。
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治安部隊は最高裁を包囲し、チョードリー最高裁長官は解任され、警察によって自宅に連れ戻されました。後任にはドガール判事が任命され、三日のうちに宣誓、就任しました。首都イスラマバードの主要道路には軍隊が展開、携帯電話など通信網は一時使用不能となりました。
ムシャラフ大統領はメディア規制令も発令し、政府や軍の批判を事実上禁止。軍は放送局にも乗り込み、民放テレビ局では令状なしに機材を押収しました。放送も一時中断しました。
ムシャラフ大統領は同日深夜、国営テレビで国民向け演説を行い、「テロと過激主義が頂点に達している」「国を自滅させることはできない。八年間続けてきた民主化への移行を維持するため、このような行動をとらなければならなかった」と語りました。
ムシャラフ氏は一九九九年、軍事クーデターで政権を掌握。大統領信任国民投票、総選挙、州議会選挙を実施し、女性に不利なイスラム法を破棄し、新たに女性保護法を制定するなど世俗的な民主化にも取り組んできました。
しかし、米国の「テロとのたたかい」で協力していることへの反発から、イスラム過激派が台頭し、武力攻撃も増えてきました。特に治安部隊が強行突入した首都のモスク(イスラム礼拝所)立てこもり事件(七月)以後は、国内各地で自爆攻撃が起き、アフガニスタン国境付近では軍隊と武装勢力の戦闘が激化しています。
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