茂木健一郎『思考の補助線』(ちくま新書、2008年)を読み終える。
なるほどこの人は、自然科学者ではなく「自然哲学者」だったのだ。
こちらとは用いる言葉にズレがあるので、そこを「翻訳」して読む必要がある。
だが、そうしてみると、特に、物質世界と意識の関係について、気持ちがいいほど共鳴できる。
それが最新の脳科学への具体的な知見にもとづくだけに、教えられるところも多く、説得力も深い。
他方、それと明示されずに散りばめられた、靖国派の言行に対する批判も鋭い。
そこには、もとになる文章が書かれた時代の政治が反映している。
具体的な知識の総和としては誰にも総括など不可能になった科学の専門化のなかで、いかにして全体把握への道筋をつけていくのか。
その問題に正面から挑む姿もすがすがしい。
スラスラ読める本ではないし、立てられた問いへの答えがすべて示されるわけでもない。
だが、著者が懸命につかみとろうとする何かを、こちらも一緒につかみにいってみたくなる。
そういう若々しい精神の躍動を刺激してくれる本である。
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