ベネズエラのチャベスが基幹産業の国有化を開始するという。
報道の限りでは,主として,アメリカの政治的影響力の強さを排除することに眼目があるようにも見える。
詳細は今後に待ちたいが,「社会主義を目指す」ということにかかわって経済面から注目したいことは次の2つ。
1つは,国有化の実態が少数者所有・運営となるのか,あるいは多くの国民の意志が反映されたものとなるのかという点。
とりあえずのポイントは,その企業にはたらく人たちの意志がどれほどに反映された企業運営になるのかということ。
そこが政府の意志の上位下達となってしまえば,自らが否定してきたソ連型への接近になるわけだが,この点で,チャベス政権には,どのような新しい試みが用意されているのか。
これは民主主義の拡充という政治のあり方とも深くかかわるものとなる。
2つは,国有化された企業と市場との関係をどう処理していくのかという問題。
中国の「連想」のように,国有企業でありながら,世界市場のトップにのし上がった企業もある。
そこで大きな役割を果たしたのは,政府が企業の経営効率を重視し,国有国営だからどんな経営でも国家が守るという姿勢をとらなかったこと。
言葉をかえるなら,企業の直接的な運営主体である労働者やその代表としての「経営者」の努力と力量に依拠し,かなりの自由裁量を認めていったこと。
もちろんそれで大切な企業がアッサリつぶれてしまっては困るわけだが,しかし「何でもいいから丸抱え」では企業自身が育たない。
この点で,やはりチャベス政権がどのような新しい試みを用意しているのかという点である。
政治的民主主義,中南米左派政権間の連携,アメリカからの様々な介入や経済的包囲とのかかわりもふくめて,注目をつづけたい。
チャベス「社会主義」加速、通信・電力再び国有化へ(「読売新聞」,07年1月9日)
「8日、カラカスで行われた新閣僚就任式で、ロドリゲス新副大統領(右)とともに声援にこたえるチャベス大統領=AP 【リオデジャネイロ=中島慎一郎】ベネズエラのチャベス大統領は8日、新閣僚の就任式で演説し、いったんは民営化した通信、電力会社を再度国有化する方針を明らかにした。
また、欧米の国際石油資本(メジャー)が進めているオリノコ川流域の超重質油開発についても、「国家資産とすべきだ」との考えを打ち出した。こうした動きに対し、反対派の間からは独裁につながるとの懸念の声が強まっている。
昨年12月の大統領選で圧勝したチャベス大統領が、10日に3期目の就任式を迎えるのを前に、「資源ナショナリズム」の動きをさらに推し進める意向を示したもので、ベネズエラの「社会主義化」に拍車がかかる可能性がある。
チャベス大統領は演説で「我々は社会主義に向かって進んでいる。誰もこれを妨げることはできない」と訴えた。また、「国家は、主権や安全保障、防衛のための戦略的手段として(民営化された)資産を取り返すべきだ」とし、91年に民営化された同国最大の電話通信会社CANTVや、電力会社の国有化などをすすめる一連の法案を近く国会に提出する考えを示した。同国の国会は一院制で、前回選挙を野党がボイコットしたため、大統領派が全議席を占めており、法案が可決されるのは確実だ。
一方、オリノコ川流域の超重質油の開発については、米エクソンモービル社などの石油資本が生産プロジェクトを進めている。チャベス大統領は「国家資産化」の詳細には触れなかったが、国営ベネズエラ石油(PDVSA)が今後、経営面での影響力を強めていくものと見られる。さらに、大統領は中央銀行の独立性を認めない意向も表明した。
中南米では昨年、ニカラグアやエクアドルなどで相次いで左派政権が誕生した。米国主導の経済自由化政策を新自由主義経済(ネオリベラリズム)と批判し、格差を生む元凶とするチャベス大統領にとって、社会主義的な政策を推進するための追い風となっている。
チャベス大統領は、大統領の再選規定を撤廃するための憲法改正も公約に掲げている。また、昨年末には反政府系民放テレビ局の免許更新を拒否するなど権力の強化・長期化を図っており、反大統領派は「キューバ型の一党独裁になりかねない」と危機感をあらわにしている。(2007年1月9日22時46分 読売新聞)
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