兵庫県が、バイオエタノール原料となる「資源用の米」の生産に乗り出している。
減反の押しつけや、価格低下によって生み出されたたくさんの「放棄田」だが、農家にとっては、どれほどの経営改善要素となるのだろう。
放棄田にバイオ燃料米 国が補助金、兵庫など試験栽培(朝日新聞、7月4日)
各地の水田で「資源用」の米の試験栽培が広がっている。自動車の燃料として世界的に利用が拡大している「バイオエタノール」の原料にするためだ。長年の減反政策や農村の高齢化で拡大した耕作放棄地などの解消につながるとして、国は今年から国産バイオ燃料の大幅な生産拡大策に乗り出した。実用化へのハードルは高いが、自治体や農協も相次いで参入している。
兵庫県稲美町の水田で6月15日、地元の森安営農組合が初めて資源用の米の田植えをした。計8反(約8000平方メートル)の水田で、通常の1.5倍の収穫が見込める多収量米を育てる。「資源用だから味は関係ない。手間をかけずに収穫量を増やしたい」と大西佐久央・組合長(67)はいう。
兵庫県が今年度から始めた資源作物の実証栽培で、収穫量やコストを調べるのが狙いだ。「耕作放棄地の解消策の一つとして、資源作物に着目した」と県消費流通課の担当者は説明する。県内には約5000ヘクタールもの耕作放棄地があり、増加傾向だ。資源作物が実用化すれば、潜在的な農地として利用価値が生まれる。
朝日新聞が47都道府県のバイオ燃料関連事業の担当者に聞いたところ、兵庫のほかに青森、新潟、愛知の各県が今年度から試験栽培を始めた。いずれも低コストで多収量の米作りをめざしている。秋田県は05年度からエタノール製造技術の研究に取り組む。愛媛県は今年度、多収量米によるエタノール製造の可能性調査を始める予定だ。
市町村も関心を持っている。愛媛県東温市は6月18日、10アールの水田に初めて多収量米を植えた。収穫量と栽培技術を調べ、将来的には耕作放棄地の有効利用につなげたい考えだ。岩手県奥州市でも今年度から60アールの水田で試験栽培を始めた。「転作田を有効活用し、農家の所得向上につなげる狙い」と担当者はいう。宮城県登米市や、山形県酒田市の「JA庄内みどり」など、米どころでの取り組みが目立つ。
こうした動きの背景には国の方針がある。政府は05年の京都議定書の発効を受けて、バイオ燃料の利用促進を盛り込んだ「バイオマス・ニッポン総合戦略」を昨年3月に閣議決定した。
今年2月には、国産バイオ燃料の大幅な生産拡大の工程表をまとめ、2011年度までに年間5万キロリットルのバイオエタノールの生産をめざすことを決めた。ガソリンに3%混ぜて使うと、四国の登録自動車約160万台分の年間消費量をまかなえる量だという。
目標達成のため、農水省は今年度から補助金を出して、原料調達から製造・販売まで一貫した大規模実証を北海道と新潟県で始める。新潟県ではJA全農が280ヘクタールの水田で多収量米を栽培し、新設プラントで年間1000キロリットルの製造をめざす。県内40カ所のガソリンスタンドで販売する計画だ。
「休耕田が多くなり、コメ余りで田んぼで稲を作れない状況になっている。水田を有効利用して、エネルギーの地産地消を目指したい」(JA全農広報部)。
問題はコスト。1リットル115円くらいを目標にすると、米1キロ20円程度まで原価を抑える必要がある。JA全農広報部によると、新潟県での実証では、1キロ50円を超える見通しだという。「現時点ではコストは度外視。ガソリン税の減免などの条件整備がないと実用化は難しい」と担当者は話している。
〈バイオ燃料〉 ガソリンの代わりになるバイオエタノールと、軽油の代わりになるバイオディーゼル燃料がある。農水省によると、バイオエタノールの世界の生産量は約5千万キロリットルで、米国とブラジルが約7割を占める。日本国内では3%までガソリンに混ぜて使用できるが、生産は政府の実証実験にとどまり、年間約30キロリットル。
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