米下院本会議における「慰安婦」決議採択に関連した記事。
安倍氏等による靖国派外交路線が、世界に通じるものでないことは、あまりにも明らか。
アメリカ政府の思惑は様々だろうが、それがこのような形であらわれずにおれないことの根底には、「慰安婦」問題に限らず、戦時性暴力への裁きをすすめる国際社会の動きがある。
米下院が「慰安婦」決議 日本政府に謝罪要求 本会議初採択 「歴史の責任認めよ」(しんぶん赤旗、8月1日)
【ワシントン=鎌塚由美】米議会下院本会議は三十日、アジア太平洋戦争中に日本軍によって性奴隷にされた元「慰安婦」たちに対し日本政府が公式な謝罪を行うよう求める決議を採択しました。「慰安婦」問題での米下院本会議決議は初めてです。
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本会議で三十分にわたる討論の後、声や拍手で賛意を示す発声投票にかけられ、反対なしで可決されました。傍聴席では、二月の公聴会で証言した元「慰安婦」の李容洙さんらが静かに見守りました。
決議には、民主、共和両党の百六十七人の議員が共同提案者として名を連ねました。
決議は、日本軍が女性たちを「慰安婦」という性奴隷にしたことを「(日本政府が)十分に認め、謝罪し、明確であいまいでないやり方で歴史の責任を受け入れよ」と迫り、首相が公式に謝罪をするなら、「これまでの諸声明の誠実さとその地位をめぐり繰り返されてきた問題を解くことに貢献する」と述べています。
本会議の討論で、ラントス外交委員長は「非人道的な振る舞いについて全面的に認め、真実のすべてに光が当てられなければならない。このことは国家間の和解に不可欠だ」と語りました。さらに、「靖国」派国会議員による「慰安婦」強制を否定したワシントン・ポスト紙への全面広告に改めて言及し、「すべての『慰安婦』は喜んで強制され合意の上だったと断じる者は、『レイプ』という言葉の意味を理解していないだけだ」と厳しく非難しました。
ペロシ下院議長は採択後に声明を発表し、「決議は、『慰安婦』たちの真実と認知を求めるたたかいを米議会が支持するという強いシグナル」だと指摘し、日本政府の行動を促しました。
傍聴のために訪米した元「慰安婦」の李容洙さんは、「採決は、米市民社会と世界の良識の勝利だ」と喜び、「今こそ日本政府は、国際社会の呼びかけにこたえ公式な謝罪と法的な補償を行うときだ」と訴えました。
主張 「慰安婦」決議 安倍外交では米国からも孤立(しんぶん赤旗、8月1日)
米下院本会議が、「従軍慰安婦」問題で、日本の首相に公式の謝罪と歴史的責任の受け入れを求めた決議を異論のでないほぼ満場一致で採択しました。下院外交委員会につづき本会議としてはじめての決議です。
法的拘束力はないとはいえ、政治的意味は重大です。下院定数の三分の一を超える百六十七人が共同提案者となり、ほぼ満場一致で決議を採択したことは、安倍外交にとっても大きな衝撃です。「政府の立場は変わらない」(塩崎恭久内閣官房長官)とこれまでと同じように無視し続けるのでは、日米関係にも大きな影響をおよぼし、アメリカからも孤立する事態になりかねません。
米議会への「脅迫」
下院本会議が決議を採択したのは、日本の「官民の関係者」が、「謝罪と反省を表明した一九九三年の河野洋平内閣官房長官の慰安婦にかんする声明を薄め、無効にしようとする願望を示している」からです。安倍首相らは「慰安婦」問題は「もともとなかった」「河野談話は間違っている」などといっています。こうした侵略戦争を正当化する「靖国」派勢力の、河野談話を空文化する策動に米下院が危機感をもち決議を採択したのはあきらかです。安倍首相がこの決議の意味をしっかり受け止めないと米議会との矛盾をいっそう大きくするばかりです。
委員会段階よりも共同提案者が大幅に増え、本会議がほぼ満場一致で決議を採択したのは、安倍首相が日本軍の「強制性」を否定し続けていることへの反発の大きさを示しています。
決議がいう「日本政府による強制的な軍の売春」という事実は戦後国際社会が再出発にあたって確定済みの問題です。それは侵略戦争と植民地支配を二度と許さないという政治原則の土台になっています。安倍首相ら「靖国」派が「日本軍の強制はなかった」というのは、戦後政治の土台をくつがえすことです。国際社会の一員として存在しようとする限り、歴史の歯車を逆にまわすようなことはすべきではありません。
安倍首相は四月の日米首脳会談で、ブッシュ大統領や議会指導者に「河野談話」の継承と「おわび」を表明してみせながらも、「強制性を裏付ける証拠はなかった」という肝心の発言を撤回していません。六月の下院外交委員会の「慰安婦」決議もこの立場で無視を決め込みました。一方で「靖国」派は、自民、民主両党議員が決議阻止の意見広告を米紙に掲載し、日本会議国会議員懇談会の会長である平沼赳夫氏と自民、民主両党有志議員は河野談話を「歴史事実に基づかない」として「歴史的検証」を求める声明までだしています。
そのうえ安倍首相は、加藤良三駐米大使に「決議が採択されれば永続的で有害な影響を与える」と書いた書簡をペロシ下院議長ら下院の中心メンバーに送付させました。こうした脅迫的手段に訴えるやり方が反発を買ったのは当然です。「靖国」派の安倍政権に正常な外交を期待することができないのはあきらかです。
歴史的責任を認めよ
戦前の天皇制政府と軍部が侵略と植民地支配を進めるなかで、海外の女性を日本軍の性的奴隷にしたことは政府の調査資料であきらかになっている事実です。海外で再び戦争する道を進むために、旧日本軍の行動を正当化するなど言語道断です。
日本軍の強制があった歴史的事実を認め、安倍政権が公的に謝罪してこそ、日本は国際社会とまともな付き合いができることになります。
米「慰安婦」決議 参院選に続き 安倍内閣に痛打(しんぶん赤旗、8月1日)
米下院本会議が「従軍慰安婦」問題で日本政府に謝罪を求める決議を採択したことは、参院選での歴史的大敗に続いて、安倍内閣にとって二重の痛打となりました。
世論調査でも
参院選での敗北も、単に年金問題や閣僚の失言、不祥事が重なったからだけではなく、安倍首相の掲げる「戦後レジーム(体制)からの脱却」路線が国民から拒否されたからでした。JNN(TBS系)の世論調査では、この「脱却」スローガンに“共感できない”が過半数を占めました。
「従軍慰安婦」問題での首相の対応も、まさに「戦後レジームからの脱却」と一体でした。“日本の戦争は正しかった”と正当化する立場から、アジアやヨーロッパの女性を性奴隷とした「従軍慰安婦」問題など消し去りたいという心情がにじみ出ていました。だからこそ首相自身が「従軍慰安婦」の強制性を否定してみせ、「靖国」派の同志である下村博文官房副長官は「従軍慰安婦などいなかった」と存在そのものを否定しようとしました。
これが、国際的にも通用しない歴史のわい曲であることは、日米軍事同盟を強化・推進する米政府の側からも「同盟関係に破壊的影響が出る」(シーファー米駐日大使)などと批判と懸念が相次いだことで示されました。
日米同盟を評価するラントス米下院外交委員長も三十日、「日本の一部の人々によって、歴史をゆがめ、否定したり、犠牲者を非難するゲームが続けられていることは吐き気を催させる」として、自民・民主の「靖国」派国会議員によるワシントン・ポスト紙への広告を非難しました。
首相は、今回の米下院本会議での決議採択について「先般の訪米でわたしの考えは説明してきた。こうした決議がなされたことは残念だ」と述べ、「二十世紀は人権が侵害された時代だった。二十一世紀は人権侵害のない、世界の人々にとって明るい時代にしていきたい」と強調してみせました。しかし、訪米時に首相がとった態度は元「慰安婦」への「同情」の表明だけでした。旧日本軍が関与した戦争犯罪に「第三者」のような態度をとることは許されないことでした。まして、自らの負の歴史に目をそむけて「明るい時代」にしていくことなどできないことも明らかです。
「戦前回帰か」
作家の保阪正康氏は参院選結果に関連して、「『戦後レジームからの脱却』を繰り返すだけでは『戦前レジーム』への回帰を望んでいるようにしか聞こえない」「首相自身の政治家としての資質や歴史認識が問われた選挙だったからこそ、ここまで負けたのだ」(「毎日」三十日付夕刊)と指摘しました。いま、国内的にも国際的にも批判にさらされている「靖国」派の路線には未来がないことを米下院の決議はあらためて示しました。(藤田健)
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