中国や韓国に遅れをとった日本とASEANの経済連携協定(EPA)が、ようやく最終合意にいたった。
財界は、日本大企業の企業内東アジアネットワークの利便性向上の観点から大歓迎。
それだけに日本国内の国民生活を土台とした「国民経済」を守るルールが、ますます大切となってくる。
日・ASEAN、EPA合意 東アジア構想 実現へ一歩 日本 国内農業の展望不可欠(西日本新聞、11月22日)
東南アジア諸国連合(ASEAN)との経済連携協定(EPA)締結に最終合意したことで、日本が提唱する「東アジアEPA構想(ASEANプラス6)」は実現への大きな一歩に近づく。だが、国内農業改革など克服すべき課題は未解決の状態。構想具体化の道は平たんではない。
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「東アジア構想につなぐ上で重要なステップ」(桜井正光・経済同友会代表幹事)「EPAが面展開していくことは望ましい」(佐々木幹夫・日本貿易会会長)‐。
日本の国内総生産(GDP)を1兆2797億円押し上げるとの試算もあるASEANとのEPA。日本にとって初の地域連合体との協定を、経済界は一様に歓迎する。
対ASEANのEPAで、中国と韓国は日本に先行。EPA全般で日本は出遅れが目立っていただけに、経済界からは「ASEANとのEPAを弾みに、巻き返しを」との期待は大きい。
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日本の最重点課題が東アジアEPA(プラス6)だ。ASEANに日本と中韓、インド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた16カ国は、域内人口31億5000万人。域内GDPでも欧州連合(EU)をしのぐ巨大市場となる。
だが、世界の成長センター、東アジアをめぐっては、中国が「ASEANプラス日中韓」(プラス3)の地域経済統合を主導して「プラス6」に先行。米国は、実現困難とみられながらも、環太平洋21カ国・地域の自由貿易圏(FTAAP)を提唱するなど、地域統合の主導権争いは激化している。
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中国が脅威の経済成長を背景に指導力を増すアジア。「地域の将来を考えると、中国に対抗していけるインドなどが参加するEPAが不可欠」。経済産業省首脳は、来年以降の「プラス6」着手に意欲をみせる。
だが、参加国の支持を取り付ける以上に大きな課題が日本国内にある。農業分野だ。価格競争力に乏しい日本の農産品をどれだけ自由化対象から除外するかに力点を置いてきた日本に、交渉相手国の不満は根強い。EPA出遅れの最大の要因もここにある。
「プラス6」以外にも、日本は農業大国オーストラリアや、交渉中断中の韓国などとの難交渉を抱えている。「展望なき守り」では、日本は貿易自由化から取り残されるばかりか、国内農業をも失いかねない。(東京報道部・久永健志)
【社説】EPA 東アジアの希望見えた(中日新聞、11月22日)
シンガポールでの日本・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議で経済連携協定の締結が最終確認された。中国や韓国と連携し、ASEANが目指す経済共同体実現を後押ししていきたい。
統合まで五十年以上かかった欧州連合(EU)のように、アジアにもヒト、モノ、カネが自由に行き交う共同体はできるのだろうか。かつてアジア諸国の統合は「桃源郷を夢見る」と言われたが、経済発展著しいASEANに目をやると実現は夢でなさそうだ。
二十一日の首脳会議で来秋発効を目指すことが決まった経済連携協定(EPA)も発展を後押しする一つといえ、さらなる経済拡大を促すだろう。関税の撤廃・削減が中心の自由貿易協定(FTA)を、投資分野などにも広げたのがEPAである。
ASEAN域内貿易に占める自動車・電子部品など中間財の割合はEUを上回る六割。水平分業、市場統合が劇的に進んでいる証左だ。
協定発効後は日本が輸入品の90%の関税を、ASEANは85%以上を段階的に撤廃する。域内も撤廃され、液晶テレビを例にとるとベトナムで関連部品をつくって半製品化し、マレーシアで日本で生産したパネルを組み込んで完成させる分業を加速させ、各国に利益をもたらす。
協定は日本の農産品の多くを自由化の対象外とした。日本は互いの利益を損なわぬよう農業の競争力を高めて市場開放に努める必要がある。
反共を機軸に域内経済の発展を目指す地域協力機構としてASEANが発足して四十年。ベトナム戦争や一九九〇年代の通貨危機を乗り越え、経済活動は域外協力にまで及んできた。日本との貿易額も二〇〇六年には十七兆円に上っている。
ASEANは人権を守る組織創設などを記した「ASEAN憲章」に署名し、一五年の経済共同体実現へと一歩踏み出した。中、韓とはFTAを締結済みで、ASEANから放射状に延びる協定は、いずれ東アジア全体を包み込むかもしれない。
日韓FTA交渉は歴史問題などが絡んで中断している。中国とは交渉の入り口にも立っていない。シンガポールでの福田康夫首相と中国の温家宝首相、盧武鉉韓国大統領との会談では、三カ国がさまざまなレベルで協議していくことで合意した。信頼関係を築いて放射状に結ぶ点を面にする。その期待がかかっている。
異なる宗教などを乗り越えて共通の価値観を基に緩やかに結合していく。人々がまとまれば、経済的利益ばかりでなく、紛争などの不安定要素を緩和するはずだ。
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