国の進路が国民投票によって決められたことは評価さるべきで、投票の結果をチャベス大統領が尊重するとするのも、当然のことながら評価されるべき。
チャベス氏は「おそらく公然と社会主義プロジェクトを開始するほどわれわれは成熟していないということだ」と語っている。
それはそのとおりなのだろうが、同時に改憲案に「社会主義」とは異質なものが入り込んでいたとはいえないだろうか。
大統領自身が50年の在任希望を語り、これを制度的に保障する改憲案を提起することは、はたしてこの国の民主主義を促進するものといえたのか。
「社会主義」をめざす現実の取り組みにおいて、依然として、民主主義をめぐる問題は重要な関門の1つとなっているらしい。
ベネズエラ 改憲案を小差否決 大統領 「結果受け入れる」 “現憲法内で社会主義めざす”(しんぶん赤旗、12月4日)
【カラカス=松島良尚】ベネズエラで二日、チャベス大統領が「二十一世紀の社会主義」への前進を掲げて提案した憲法改正案の賛否を問う国民投票が実施され、中間集計で反対票が小差で過半数を占めました。開票が進んでも賛否の逆転はないとされ、チャベス大統領は改憲案否決の結果を受け入れると語りました。
全国選挙評議会の三日未明の発表によれば、開票率88%の段階で、反対は50・70%、賛成49・29%。投票率は約56%でした。賛否の票差は実数で十二万票とみられます。
チャベス大統領は敗北を認めた会見で、過去に選挙不正などが繰りかえされたことにふれながら、自分たちが結果を受け入れたことに示される今日の同国の「民主主義の前進」を強調しました。
大統領は、投票や集計活動にたずさわった関係者や賛成票を投じた支持者だけでなく、反対票を投じた人にも明確に意思を示してくれたとして謝意を表明しました。同時に、「49%の人が社会主義に投票したのは政治的躍進だ」と述べ、現行憲法の枠内で社会主義をめざすたたかいを続けると強調。今回の提案は生きており、いっそう深めていくと述べました。
反対派、わい曲宣伝
ベネズエラの国民投票では、反対派が、改正案に「社会主義」の文言があることを取りあげて、「破綻(はたん)したキューバ型国家にされる」「所有権が奪われる」と攻撃を加えて、国民の不安をあおりました。
米国からの資金援助を得て政府批判を続けている市民団体「スマテ」は、「家も車も商店も取られる」という内容の各種ビラを配布。民放テレビ局グロボビジョンも「キューバ型への投票」と改革の内容をねじ曲げる宣伝を連日流しました。
カトリック教会の大司教は十一月十九日、「社会主義者でないものはベネズエラ国民でなくなり、迫害される」と語り、恐怖心をあおりました。
国際的にも、米ホワイトハウス報道官が投票が公正に実施されるかどうかに懸念を表明したほか、米共和党議員からは「ベネズエラでの自由の終焉(しゅうえん)を許すな」などの干渉的発言が相次ぎました。スペインのアスナール右派政権下で内相を務めたマヨール・オレハ氏は十一月十六日、ベネズエラ紙で、反対票を投じるよう公然と呼びかけました。
政府と賛成派は、憲法改正を解説した小冊子を活用して反撃。国民の私的所有権や市民的自由は引き続き保障されると説明。改正の目的は、国の富のより公正な配分にあり、「国民が人間として必要とする要求にこたえる社会を描く」ことだと訴えました。(島田峰隆)
ベネズエラ “もっと成熟が必要” 大統領 社会主義、今後も探求(しんぶん赤旗、12月5日)
【カラカス=松島良尚】ベネズエラのチャベス大統領は三日の国営テレビの電話インタビューで、自身が提案した憲法改正案が前日の国民投票で否決されたことについて、「われわれは何も失っていない。責任の追及はしない。おそらく公然と社会主義プロジェクトを開始するほどわれわれは成熟していないということだ」と述べました。
同時に、「もっと成熟し、自分たちの社会主義を建設し続けなければならない」と語り、今後も社会主義へのプロセスを探求していく姿勢を明確にしました。
また、国民投票の結果を分析、教訓化する重要性も強調。反対派が昨年の大統領選で得た四百三十万の野党候補票を維持したのに対し、賛成派は当時のチャベス票より三百万票減らしたと指摘しました。大統領は、国民投票の結果判明後にアルゼンチン、エクアドル、キューバ、ニカラグアの各首脳から激励の電話を受けたことを明らかにしました。
チャベス大統領の国民向け演説(要旨)
ベネズエラのチャベス大統領が三日、国民投票の結果を受けて行った国民向け演説の要旨は以下の通りです。
私の提案に賛成票を投じた人々、反対票を投じた人々に、私は感謝するし、彼らを称賛したい。
政治的に成熟しよう。われわれは民主主義のなかで生きているという民主主義的な確信を持って今後の過程に向き合おう。ベネズエラ国民は全面的な自由、憲法が保障する自由を享受している。
私は、今回の提案のコンマ一つたりとも撤回しないということを知ってほしい。この提案は生き続けるし、死んではいない。
(投票結果で)前進が止められたわけではまったくない。投票者の49%が社会主義の建設に賛成したという事実は、巨大な政治的飛躍だ。私を信じる人は自信を持ってほしい。私にとっては、まったく敗北ではない。「さしあたりの」敗北だ。
一九九九年の憲法が認めている施策の中で、政治的枠組みを築きながらたたかいを続けよう。
私は常に国民の声を聞いてきたし、ベネズエラ・ボリバル共和国の建設を続けるために、これからもすべての国民の考えに常に耳を傾け続けるだろう。
この革命の提案は強化され続けるだろう。困難な時期、厳しい時期にも問題に取り組むことができる。別の機会には明らかな敗北を道徳的な勝利へと転換させたことがあるし、その道徳的な勝利は、後に政治的勝利になったのだ。
『チャベス改憲』拒否 国民投票 小差で否決 ベネズエラ(東京新聞、12月4日)
【カラカス=石川保典】南米ベネズエラで二日投開票された憲法改正の国民投票で、選挙管理当局は三日未明(日本時間三日午後)、暫定集計(開票率88%)を公表。反対票が50・70%と、賛成票の49・29%をわずかに上回り、過半数を占めた。改憲案が否決されるのが確実になったことを受け、チャベス大統領は「これ以上開票しても変わらない。結果を尊重する」と敗北を認めた。
チャベス氏が掲げる「二十一世紀の社会主義」国家の建設を国民が否定したことになり、同氏の政権運営に影響が出る可能性もある。一九九八年の初当選以来、チャベス氏が選挙や信任、国民投票などで敗北したのは初めて。
選管によると反対票は約四百五十万、賛成票は約四百三十万。急進的な改憲案にチャベス氏支持者の多くが反発し、44%が棄権した。しかし、同氏は「社会主義建設の戦いは続く。長い年月をかけてやる」と将来再び改憲を目指す考えを示した。
六十九項目に及ぶ改憲案は、ベネズエラの社会経済体制を「社会主義」と明記。集団経営企業の創設や大土地所有禁止、労働者や農民らで組織する「人民権力」機関を創設し自治体権限を委譲するなど、社会主義体制への移行を目指す一方、大統領に権限を集中。連続二期までの再選制限を撤廃し、チャベス氏の大統領無制限選出を可能にさせ、中央銀行の自主性をはく奪して金融政策を大統領職務とするなどの内容だった。
現憲法は、チャベス氏主導で国民投票を経て九九年に制定されていた。
国民投票でチャベス大統領が敗北 ベネズエラ(MSN産経ニュース、12月3日)
【ロサンゼルス=松尾理也】ベネズエラで2日に実施された憲法改正をめぐる国民投票で、同国中央選管は3日未明、反対票が51%と賛成をわずかに上回り、提案が否決されたと発表した。大統領権限の大幅強化をめざしたチャベス大統領にとって、1998年の初当選以来、初めての政治的な敗北。強硬な反米姿勢と同時に石油価格の高止まりを主張し、挑発的な外交でも知られるチャベス氏に今後、どのような変化が起きるか、注目される。
チャベス氏は発表直後の演説で「僅差ではあるが、敗北を認める」と述べ、支持者に向かって平静を保つよう呼びかけた。同時に、「社会主義建設の戦いは続く」「(少なくとも)今は憲法改正はできない」とも述べ、遠回しながら今後再び改正をめざす意向をにじませた。
国民投票を前に、接戦を予想する世論調査が相次いだことから、チャベス氏は「国民投票への反対は国家への裏切りとみなす」「反対票は、ブッシュ米大統領への投票と同じだ」などと、独特の二者択一式な言い回しを激化させていた。しかし、この日は開票前から「結果はどうあれ、示された民意に従う」と述べるなど、敗北を計算したかのような慎重な態度に転じていた。
チャベス氏が、投票で敗北を喫したことによるダメージは小さくない。米紙マイアミ・ヘラルドは、今回さほど投票率が伸びなかったにもかかわらず反対票が伸びたのは、従来の支持層が反対に回ったからだと分析。その上で、政権は遠からず、国会の解散などで民意を問う局面に追い込まれる可能性が高まったとの見通しを示した。
今回の否決で、チャベス氏は2013年1月に大統領を退任することになる。大統領の再選を無制限に認めるなど69項目からなる今回の憲法改正案が可決されれば、チャベス氏は自身が95歳となる50年までの在任をめざすと公言していた。
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