37本の社説・論説の整理だそうである。
世の中、そんな便利なものもあるのであったか。
事態が「円高」であるよりも「ドル安」であること、内需主導型経済への構造の転換が必要であることなど、大局的に重要な指摘がふくまれている。
一方的「ドル安」ということは、やはりドルの基軸通貨としての地位が揺らぎ始めているということである。
そして世界経済が大きな過渡期にあるからこそ、安定した内需が必要だという議論はまったく正論。
他方、「円高」を輸出・輸入両面から見る必要があるのは当然だが、個別の「円高」被害には対処が必要である。
また日本の公的資金投入が金融機関からの「借り手」の利益にまるで無頓着であったことにも注意がいる。
同じ手法をアメリカに勧めることで、アメリカ経済が根本から改善されるとは到底思えない。
紙面展望(2008年) 3月25日付 米一極支配に揺らぎ 1㌦=100円突破をめぐる社説 日本企業への打撃懸念(日本新聞協会「新聞協会報」2008年3月25日)
円相場が十三日、十二年ぶりに一㌦=一〇〇円の大台を突破した。米国景気の後退懸念を背景に東京外国為替市場ではドル売り円買いが加速し、その後、九五円台まで急騰した。サブプライムローン問題に端を発した金融市場の混乱は深刻化しており、円高ドル安の流れは止まっていない。十三日の一〇〇円突破を三十七本の社説・論説が取り上げた。
サブプライム対策後手に
〈ドル安〉高知「ユーロ経済圏の拡大、中国などアジア諸国の台頭で、政治面も含め米国の立場は絶対的ではなくなっている。それが通貨の実力に投影されているとすれば、今回のドル安は米一極支配の揺らぎを象徴している」、日経「昨今の動きは円の価値が再評価されたというよりは、ドルが世界的に売られているという意味で『ドル安』である。(略)長い目で見た場合、ドルは最盛期を過ぎつつあるのかもしれない。もし米国がドルの信認を取り戻そうとするなら基軸通貨国の特権にあぐらをかくことなく、貯蓄率の引き上げや財政赤字の圧縮など構造的な問題の解消に地道に取り組む必要があろう」、信毎「問題の根っこは米国にある。米政府やFRBはサブプライム問題が表面化して以来、さまざまな対策を打ってはいるものの、『遅すぎる』『小規模すぎる』などと批判されている。(略)財政収支と経常収支の赤字を抱えながら、投資を呼び込んで経済を拡大してきた米国流のあり方が問われているともいえる」。
〈景気の行方〉新潟「円高の進行は海外需要に依存してきた日本の企業業績に大きな打撃を与えずにおかない。(略)減速基調にある景気動向に冷や水を浴びせられたといえる」、読売「日本経済は今後、一段と厳しい局面を迎えそうだ。これまでは、好調な米国経済や円安を追い風に、自動車、電機などの輸出産業が景気を牽引(けんいん)してきた。しかし、米景気の減速と円高のダブルパンチは、輸出企業の収益を直撃しよう。企業業績のもたつきは個人の懐にも響き、消費の足を引っ張りかねない」、北海道「円高が進めば高騰を続ける原油や穀物などの価格低下につながるだけでなく、原材料の輸入比率が高い素材産業などにも恩恵が及ぶ。為替の変動が経済に与える影響はプラス、マイナス両面を考えなければならない。円高を前向きにとらえる発想の転換もほしい」、毎日「急速な円高が経済のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)からかけ離れていることは、2月の月例経済報告で景気の基調判断が下方修正されたことでも明らかだ。米政府が抜本的なサブプライム対策を出せない中、世界を駆け巡っている投機的資金が円を買っているのだ。注意は必要だが過度の不安にとらわれることはない。今は相場を冷静にみることが何よりも重要だ」。
〈米国に求める〉産経「いまの米国の状況はバブル崩壊後の日本の金融危機と似ている。米国がドルに対する信認を回復するには、問題の根っこを取り除く抜本策を取る以外にないだろう。(略)ここは日本の経験が参考になる。バブル崩壊後の金融危機と長期不況という日本の苦い教訓はサブプライム問題の危機打開に生かせるはずだ」、西日本「金融緩和策で問題が片付くとは思えない。いまこそ、サブプライム問題の抜本的な解決につながる荒療治が必要だ。(略)損失を拡大している金融機関の資本を根本から立て直すことが必要である。米政府は自助努力を求めているが、日本が不良債権処理で実施した公的資金の注入を検討すべきではないか」。
内需主導型へ転換目指せ
〈政府に求める〉静岡・長崎など「この円高は、内需主導の経済体質に向けて日本に構造改革を促す『市場の声』でもある。(略)構造改革を着実に進めて内需を拡大する以外に、日本経済が安定的に成長するための有効な手段はないというメッセージを送っている」、神戸「景気の支えを輸出だけに求めるような経済構造のままでは心許ない。円高が国内にもたらすプラスを生かしながら、個人消費など内需が主導する日本経済に改めていくことが欠かせない。政府や日銀は、今後の経済運営にあたって、そうした視点を忘れずに取り組んでもらいたい」、中日・東京「残念ながら、政策対応は期待できそうにない。ガソリン税の暫定税率問題で与野党が対立し、新年度予算の見通しが立たないうえ、次の日銀総裁も決まっていないのだ。(略)このまま『政策無策』が続けば、景気後退が進んで不況へと転落しかねない。経済運営に、政治の責任こそが重く問われる局面である」、朝日「経済の状況によっては、機敏な金融政策やG7としての対応が迫られることもありうる。その時に日銀総裁が不在とあっては、国の利益にかかわりかねない。(略)局面を打開するための勇気と決断を首相に求めたい」。 (審査室)
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