以下は、関西勤労者教育協会「勤労協ニュース」第360号(07年6月10日)に掲載されたものです。
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〈参議院選挙政策争点を考える〉
平和を守り、貧困・格差とたたかう政治をつくりだそう
いっせい地方選挙が終わり、いよいよ参議院選挙が目前です。この選挙では、何が日本の進路をめぐる争点となるのか、その基本点を明らかにしながら、現在の政治の動きや、私たちのたたかいの課題について考えてみたいと思います。
1、それぞれの政党は、どういう政治路線をもっているか
若いみなさんの中には、政治に関心をもつようになって間もない方も多いと思います。私も18才のころには、どの政党が何をいっているかがわからず、いろんな政党の綱領(その党のもっとも基本的な政治路線を示した文書)等をまとめて読んだ記憶があります。
最初に、国会に議席をもつ代表的な政党を、①日本を戦争のできる国にする改憲の動きに賛成なのか反対なのか、②日本をますます弱肉強食の経済にかえていく「構造改革」に賛成なのか反対なのか、この2つの角度から特徴づけてみたいと思います。
まず改憲についてです。自民党はすでに「新憲法草案」を提起している、現在の改憲推進の中心政党となっています。彼らの改憲案には、①かつての戦争を反省しない、②日本を海外で戦争のできる国(攻められなくても攻める国)にかえる、③国民の自由や権利の上に国家をおく、④改憲手続きを簡単にしていくらでも改憲ができるようにする、といった大きな問題点が含まれています。
この自民党の政治を、いっしょに進めているのが公明党です。公明党は「加憲」という方針をもっています。いまある憲法はできるだけそのままにして、そこにいくつかを「加えていけば良い」というものです。また民主党は「創憲」といって、憲法をいちからつくりだそうという方針です。この公明党と民主党の憲法問題での方針は、日本を戦争のできる国につくりかえるという改憲の方向に賛成なのか、反対なのか。こたえは、何の迷いもなく賛成です。そのことは、2006年12月の防衛省法にこの2つの党が賛成したことに、はっきり表れました。
防衛省法は、防衛庁から防衛省に名前をかえるだけではなく、自衛隊の本来任務に海外派兵を加える法律でした。これによって自衛隊は、攻められなくても攻めにいく、そういう新しい任務をもちました。これは何をどう見ても、9条「改正」を先取りしようとするものです。この改憲先取り法の成立に、公明党も民主党も誰一人として反対していません。ここに、これらの政党が、日本と私たちを戦争に巻き込む危険な政党であることが、はっきりと表れています。
社民党は、護憲をいいます。憲法を守ろうという立場です。共産党も護憲です。しかし、社民党は参議院選挙で、地域によっては民主党と選挙協力をするという方針をもっています。憲法改正に賛成なのか反対なのかが重大争点となるこの選挙で、どうして護憲の社民党が、海外派兵賛成の民主党と選挙協力をすることができるのでしょう。「護憲をいうなら、もっときちんと筋を通してほしい」と、私は社民党に注文をつけたいと思います。
こうして見ると、現在の憲法を守る姿勢をきっぱり貫いているのは共産党だけです。「だけです」というと、「自分だけええかっこして」といったねじれた批判をする人がいますが、これは誰にも否定しようのない事実です。
二つ目の「構造改革」についても、政党配置の基本はまったく同じようになっています。自民党は「構造改革」を実際に推進してきた政党です。非正規雇用を大量にうみだすだめに労働法制を崩し、また大企業は減税しながら、国民向けには、財源不足を理由に社会保障を掘り崩してきた張本人です。公明党はそれをしっかり支えてきました。受け身で支えるだけではありません。「100年安心の年金」をいいながら、高齢者の増税を最初に提起して、マスコミでも「増税戦犯」といわれる悪政をリードする役割を果たしている政党です。民主党は、最近「格差是正」を強調しますが、労働法制でも、社会保障でも、税制でも、民主党自身が弱いものいじめを推進してきた政党です。そのことの反省もしないで、選挙前だけ「格差是正」のポーズをとる、こんな政党に信用をおくことができないのは当然です。
社民党は「はたらくものがむくわれる政治」といっています。しかし、そのスローガンと、実際にこの政党がやっていることのあいだには、相当に大きなへだたりがあります。たとえば私の職場のある兵庫県では、社民党は「構造改革」推進の民主党と統一会派「ひょうご県民連合」をつくり、オール与党県政推進の一翼をになってきました。兵庫県は、大企業誘致の補助金に唯一上限のない県ですが、そうした補助金バラマキの一方で、県民には福祉・医療の切り捨てを行い、「県民みどり税」という県独自の税金さえを押しつけています。
結局、この「構造改革」の問題でも、弱い立場、つらい立場におかれた人たちの生活の大変さに心を寄せて、誰もが人間らしく生きることのできる社会を目指しているのは共産党だけです。実際、この政党は、雇用、社会保障、税制などの分野で、多くの市民と手をつなぎ、各地での自治体交渉など、具体的な貧困との闘いをすすめています。共産党は「確かな野党」というスローガンをかかげていますが、それは自民党と手を組むような野党では、国民生活が守れないということを端的に語っているものです。
2、いっせい地方選挙の結果をどうみるか
次に、4月に行われたいっせい地方選挙の結果について、述べておきます。私なりに要約すると、この選挙の結果には、次のような特徴があらわれました。
1つは自民党が大敗したということです。そこには、地方政治だけではなく、現在の国政のあり方に対する国民の不満や不安があらわれています。
2つには、この自民党の後退分を民主党がかなり多く吸収しました。マスコミを動員した「2大政党制」づくりの力が、ここにも大きく作用しました。東京都知事選の「石原か、浅野か」という意図的な対決の構図づくりが典型です。
3つ目に、自民・公明政権の一翼を担う公明党が、前回選挙より得票数を減らしています。これは今回選挙の重要な特徴の一つです。ここにも現在の政治に対する国民の批判が表れているといっていいでしょう。
4つ目に、共産党は、道府県議選挙で後退しましたが、政令市議選挙、首長選挙、一般市区町村議選挙では重要な前進をなし遂げました。「自民か民主か」というマスコミによる枠組みづくりのなかで、改憲や「構造改革」ともたたかう共産党が一定の前進を勝ち取ったことは、この国の未来にとってきわめて重要な事柄です。
5つ目に、社民党はマスコミが「衰退」という言葉をつかうほどに大きく後退しました。先にふれた兵庫の県議会でも、社民党は議席を完全に失ってしまいました。
6つ目は、無所属・諸派が大きく減少したということです。これは選挙が、政党間の闘い、組織と組織が力をはげしくぶつけあうものになってきているということです。
全体を、もう一度、短くまとめていうと、①改憲と「構造改革」の政治を推進している自民党が大幅に後退し、公明党が停滞する一方、②「2大政党制」づくりの大合唱の中で、民主党はかなりの前進を見せ、③その流れに飲み込まれることなく、改憲にも「構造改革」にも反対する共産党が善戦・健闘し、そして、④足腰の弱い政党やグループはかなりの後退をよぎなくされた、これが今回の選挙の特徴です。共産党の貴重な善戦・健闘を実現するうえで、大阪は全国的にも注目される大変に大きな役割を果たしました。
同時に、いっせい地方選挙の結果から導かれる参院選の課題ですが、少なくない有権者が、「自民党ノー」の立場に立ちながら、そこからの政治の転換の期待を「民主党」にかけてしまっている状況があります。ここを乗り越えることが必要です。一言でいえば「2大政党制」論との闘いです。この課題を見事に達成できるかどうかが、参議院選挙の結果を大きく左右します。「自民か、民主か」という枠組みづくりの攻撃に、「民主は自民と同じ流れ」「改憲、『構造改革』と闘うことのできる確かな野党を」、こういう世論をつくって対抗していく必要があります。そのためにも、民主党の現実の政治的役割を、具体的な事例をあげて多くの人に知らせていく取り組みが大切です。
3、安倍靖国派内閣がひろげる改憲派内部の矛盾
さて、ここまで各政党の基本的な政治路線と役割を、①海外で戦争する国づくりをめざす改憲問題と、②「構造改革」への態度という2つの角度から見てきました。じつは、今回の参議院選挙の中心争点は、他ならぬこの2つの事柄そのものです。
この5月に、自民党と公明党は、9条「改正」に直結する改憲手続き法の採択を強行しました。参議院では公聴会さえ行わないという実にデタラメな審議の方法でしたが、民主党は自民党と公明党が用意したその審議日程づくりに賛成し、改憲派としての役割を大いに発揮しました。この法律が成立したことにより、3年後の2010年には憲法審査会が改憲案を作成することができるようになりました。自民党は、それにもとづいて、2011年に改憲案の国会発議、同じ年のうちに国民投票というスケジュールをたくらんでいるようです。いよいよはっきりとたたかいの舞台が見えてきたわけです。
安倍首相は「改憲を参議院選挙の争点にする」と、繰り返し語ってきました。この選挙で自民党が勝てば、「改憲への国民の同意は得られた」と、一直線に突っ走っていくという意思表示です。今回の選挙で自民党に勝利をゆるすわけにはいきません。
憲法記念日に前後して行われた多くの世論調査を見ると、国民の多くが改憲には賛成だが、9条「改正」には反対である、また安倍内閣のもとでの改憲には反対だという意向をもっていることがわかります。9条「改正」に反対なのに、改憲には賛成というこの世論のある種のねじれは、現在の改憲策動が何より9条「改正」を目的にしているという、その事実が充分知られていないことの表れです。他方で、同じ世論調査は、この数年で改憲反対の世論が強くなっていることも示しています。改憲策動の中心目的が9条の「改正」であり、海外で戦争をする国づくりであることを大いに知らせ、憲法「改正」反対の声をさらに大きくしていくことが必要です。
改憲動向とのかかわりで、新たに注目しておきたいのは、大臣や首相側近を靖国派でかためた「オール靖国」の安倍内閣が、露骨な靖国思想のために、逆に、改憲派内部に新たな矛盾を広げているという問題です。自民党の「新憲法草案」には、かつての戦争を反省しない国づくりが含まれましたが、この5月に超党派の靖国派議員25名でつくる「新憲法制定促進委員会準備会」が発表した「新憲法大綱草案」は、さらに露骨な靖国改憲案となっています。それは「防衛軍」の海外派兵にとどまらず、天皇を「元首」にすえるなど、戦前・戦中型の「おそろしい国」を「美しい国」だとして、そこへ、日本の歴史を逆転させるねらいをもつものです。
しかし、これは第一に、東アジアとの経済交流を深め、そこで大きな利益をあげたいとする財界との矛盾を深めるものとなっています。靖国史観を表看板にかかげたのでは、中国や韓国、東南アジアの国々との交流を深めることなどできません。つまりそれは、9条「改正」を求める財界にとっても困ったことになるわけです。
第二に、これは日本に改憲を求めるアメリカ政府とのあいだにも新たな矛盾を生みだします。4月27日の日米首脳会談で、ブッシュ大統領は、安倍首相に「河野談話」から後退してはいけないというクギを刺しました。これは実は「慰安婦」問題に限られたものではなく、日本の政治における靖国史観の強まりそのものに対する警戒心でした。
すでにブッシュ大統領は、06年6月の首脳会談で、小泉首相に靖国参拝の中止を求めています。こうした動きの背後には、アメリカ支配層の利益にかかわる次のような問題があります。一つは、東アジアサミットやASEANの共同など、新しい秩序づくりがすすむ東アジアに、アメリカ大企業の儲けに有利な秩序をつくりたい、そのために日本にはアメリカの子分として大いに力を発揮してほしいということです。東アジアに影響力をもたない日本では、アメリカにとって何の役にも立たない。そこで、その影響力をただちに回復するために靖国問題をのりこえろというわけです。
もう一つは、靖国史観が日米同盟をあやうくしかねないことへのアメリカの警戒心です。靖国史観は、かつてのアメリカとの戦争についてもアメリカ側に責任があるという立場です。したがって、この考え方が日本政府のなかで強くなっていけば、日本がアメリカに逆らい、それによって日米同盟そのものに亀裂が入る可能性がある。それをアメリカは警戒しているということです。いまのアメリカ政府にとっても、9条「改正」さえできれば、それがどんな思想の内閣によるでもいいということにはならないのです。
先にもふれた世論調査は、国民の多くが安倍内閣のもとでの憲法「改正」に反対の姿勢をもっていることを示しています。安倍内閣が靖国史観にとりつかれた改憲内閣であるという危険性を知らせることは、参議院選挙で自民党を敗北に追い込み、改憲派に大きな打撃を与えるためにも大いに重視されるべきです。
4、「貧困と格差」との闘い
参議院選挙のもうひとつの重大争点は、貧困と格差を広げる「構造改革」を「成長戦略」という新しい名前で――実態は国民を犠牲にして大企業だけを「成長」させるというものです――さらに継続するのか、それとも経済政策の姿勢を変えて、貧困と格差の打開に正面から取り組むのかという問題です。
「ネットカフェ難民」がマスコミに注目され、5・20青年雇用集会が大きな注目をあびたように、貧困と格差の克服は大きな社会問題となっています。それは「グローバリゼーションだから仕方がない」「中国などの低賃金国があるから仕方がない」などとあきらめるべき問題などではありません。EU諸国も同じグローバリゼーションの中におり、またEUは中国にとってアメリカに次ぐ第二の貿易相手であり、その量は第三位の日本の上に位置しています。それにもかかわらず、EUには日本やアメリカのような「なんでも競争」型の資本主義ではなく、「連帯の上での競争」という一定のルールある資本主義がつくられています。「仕方がない」論は、新自由主義を押し進めようとする人達が、意図的にふりまいているものです。日本でも、ただちに次のようなことが可能です。
税制については、富んだ者(企業)にやさしく、貧しい者にきびしいという逆立ち税制の転換が可能です。これは政府の意思の問題です。6月の住民税大増税に引き続き、選挙が終わった後に安倍内閣は、消費税増税の本格的な議論を開始するとしています。もともと戦後日本の税制は、個人も企業も所得や利益に応じて支払うという累進課税の原則にしたがうものでした。しかし、消費税はこの原則に反して、それぞれの所得に対する配慮をまったく配慮しない、誰にも一律に課税する悪法です。その税率をさらに引き上げたときに、もっとも苦しい思いをするのは、もっとも所得の少ない人達です。それは貧困と格差を新たに広げる政策でしかありません。
社会保障や医療については、緊急の拡充が必要です。公立病院の統廃合による「命の格差」にストップをかけること、健康保険証の取り上げをやめて「患者になれない病人」をつくらないようにすること、年金の最低保障制度をつくること、介護保険料や利用料を引き下げること、子どもの医療費無料化をまずは就学前段階まで引き上げること、障害者自立支援法の応益負担を撤廃することなど、これらもまた政治の決断しだいでただちに実効が可能なことです。
さらに働くルールの問題です。がんばって働けば、誰でも人間らしい暮らしができる、そういうルールを再建し、充実していくという問題です。サービス残業や偽装請負は、法律に反する行為です。これは行政が先頭に立って、ただちに根絶せねばならないものです。また、サービス残業を合法化するものとして大問題になったホワイトカラー・エクゼンプションの導入は、きっぱりと断念されるべきです。パートや派遣など非正規雇用者への不当な差別をなくすべきです。男女の賃金差別をなくすべきです。また最低賃金を時給1000円に引き上げることは、ナショナルセンターの相違をこえた、広範な労働者の共通要求となっています。さらに「ネットカフェ難民」からの脱出を支援するためには、臨時の住宅費補助も必要です。
また、こうした施策を実施するのに必要な財源をつくるためには、大企業や高所得者に応分の負担を求めるとともに、税金の無駄づかいの総点検をしていくことが必要です。使い道のないスーパー中枢港湾に、需要予測を上積みしてつくられる各地の空港、さらに道路特定財源を温存して建設をつづける高速道路など、公共事業の無駄はまだまだたくさん残っています。軍事費についても、見直しが必要です。旧ソ連への対抗を名目にいまだに買い続けている自衛隊の90式戦車や、グアムの米軍基地強化のための支出などはその典型です。どうして海外にある米軍基地を強化するために、日本国民の税金を使わねばならないのでしょう。無駄づかいを野放しにしながら、国民の生存権をむしばんでいく、そんな政治が許されてよいわけがありません。
このように、貧困と格差の問題についても、やろうと思えばただちにできることがたくさんあります。必要なことは、そのような政策を実行に移す意思をもった政治を、国民が選び出し、つくり出していくことです。そのためには、各政党がどのような経済運営の方針をもっているのか、その内容を国民の誰もが良く知っているという状況をつくっていくことが必要です。
5、学びながら闘い、闘いながら学ぶ
すでに繰り返し述べてきたように、今回の選挙で改憲派――日本を戦争をする国につくりかえようとする政党や、「構造改革」派――貧困と格差をさらに拡大しようとする政党に、勝利を握らせるわけにはいきません。どうしても護憲派、国民生活擁護派が前進を勝ち取っていかねばなりません。選挙本番になれば、音の出る宣伝、ビラまき、電話かけ、対話など様々な取り組みが必要となりますが、そのどれにあっても大切なのは、一人一人の語りの力、説得力の深さです。
憲法問題にせよ、貧困の問題にせよ、闘いのなかでそれぞれが良く学び、柔軟で深みのある語りの力を身につけることが必要です。私たちのそれぞれが、前回の選挙と同じ力しかもたずに闘えば、全体としての結果もやはり前回と同じようなものにしかなりません。そこに新しい変化をつくりだしていくためには、どんなに忙しくても学びの取り組みを手放さない、そういう強い意志が必要です。ここに書いたようなテーマに直結するものとして、私は5月の終わりに、『いまこそ、憲法どおりの日本をつくろう!』(日本機関紙出版センター)という小さな本を出しました。教育・平和・経済・税制などに焦点をあてた、わかりやすい講演調の本となっています。ぜひ職場や地域での学習会や、通勤時間、寝る前時間の独習の素材として活用していただきたいと思います。
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