以下は、兵庫学習協の07夏期集中講座第3講(6月12日)に配布したものです。
----------------------------------------------------------------------------------
兵庫学習協・07夏期集中講座
講師のつぶやき(2)
2007年6月9日
神戸女学院大学・石川康宏
http://walumono.typepad.jp/
(1)
今日は、空がゴロゴロいっています。これから関東への移動です。伊豆半島の「伊東」への一泊仕事ですが、往復の電車の中で、なんとかこのレジュメをつくりあげたいと思っています。では、前回の「慰安婦」問題と世界構造変化の講義に対する質問・感想からはじめましょう。
質問
○東アジアは成長したから無視できなくなった、なら、日本が成長すれば、発言力は増すのか? ヤスクニ派もイケイケ? そしてその「成長」とは、ルールなき(今の財界の)もうけ路線の上にあるのか。目先の利益だけを追求して働く人間の生活を歴史的に大幅に後退させても「成長」し得るのか?
――戦後日本が一気に世界の第二位になる経済成長がなければ、日本は今日のような 発言権をもたなかったでしょうね。特に政府開発援助(ODA)や資本の進出、アジアの市場としての役割が、政治的発言権を高めていたと思います。ただし「経済成長」の中身は、いつでも、どの国でも同じということではありません。多くはGDPのような「モノをつくる能力」で測られますが、それが国民の豊かさにつながるが、あるいは一握りの金持ちだけの豊かさにつながるかは、GDPではわかりません。今日の日本の政財界は「改革」から「成長」へという言い方で、大企業だけの利益をさらに拡大することを目指しています。実際、日本大企業の利益は史上最高レベルに達しています。ここでもアメリカ型がヨーロッパ型かといった、資本主義のタイプが問題となっているわけです。つまり社会の闘う力の強さが問われているわけです。
○日本の政界はアメリカ・財界の言いなりだと思っていたが‥‥。アメリカが経済第一で動いているのに何故靖国に固執するのか。
――それが「思想」の力とでもいうものなのでしょうね。自分たちが信じたい「伝統と歴史」への固執です。これは単純な「経済決定論」では説明できない事態です。マルクスは社会のあり方については、すべてを経済が決めるのではなく、政治や法律、社会的意識が相対的に独自の役割を果たすと語っていました。とはいえ、現実は何らかの「原理」から解釈するのでなく、現実そのものの分析によって理解されるべきですが。
○アメリカが日本に注文(文句)をつけているという情報の内、幾つかは外務省のでっちあげてあると聞いた事があります。防衛庁(省)との縄張り争い、内閣の中でも威厳を保ちたい為、虎の威を借るキツネ状態になっているというのはあるのでしょうか?
――省庁間の争いというのは、大いにありそうな話です。それは具体的にはどういう情報でしょう? もっとも、情報が明らかであったとしても、私にはそれを確認することはできそうもありません。アメリカから日本への注文については、オープンにされている部分と闇に隠された部分がありますが、外務省や経済産業省、あるいは在日アメリカ大使館などのHPによって、かなりのものを読むことができます。いわゆる「対日改革要望書」は、アメリカ大使館のHPに日本語訳が掲載されています。
○ベネズエラのIMFからの脱却の意義、とそれが可能な経済的基盤の解説。チャペス政権のTV局の放送免許取消しの評価。
――意義としては、アメリカ主導の多国籍金融機関に依存しない国づくりをしていくという決意の表明が第一でしょうか。そして、それが実際に継続できるのであれば、アメリカが「構造調整(改革)」政策を各国に押しつける手段として活用してきたIMFの役割は大きく低下することになっていきます。いずれにせよアメリカ中心の世界経済ルールに対する対案の提示ということですね。経済的基盤としては、対外的な借金の必要ない国づくりができるかどうかにかかります。とりあえず、これまでにかつてのすべての借金(債務)を完済することには成功しています。そして、今後のために、ベネズエラは、南米各国の相互連帯を目的とした南米銀行の創設にかかっています。それがどれほどの力をもつものになるかは、現実の動きを見てみなければわかりません(下に新聞記事あり)。
――放送免許取り消し問題は、チャベス政権へのクーデターに加担した特定のTV局に対して、政権が免許更新を許さなかったという問題です。これの是非が、国際世論も巻き込んで、大きな話題となっています。「否」とする議論は「言論の自由」を根拠としているようです。しかし、クーデターへの加担というのは、主権者が選挙で樹立した政権を軍事力で打倒することへの加担です。これは「言論の自由」以前に、主権在民の民主主義を守る意図があるのかどうかの問題です。この点についての反省がなければ、免許が更新されないことは充分ありうることではないでしょうか。新聞情報のみでの判断ですが(下に新聞記事あり)。
○東アジア経済の影響力が世界経済に拡大していく過程で「市場経済を通じて社会主義へ」の路線がどういう意義をもって来ると考えられますか?
――質問の趣旨が良くわかりません。中国やベトナムのことを念頭されているのでしょうか? 中国は78年から、ベトナムは86年から、それぞれ市場を活用した社会主義への接近を目指すようになり、そして、資本主義大国をこえる高い経済成長を実現してきています。これが資本主義大国なみの個人生活と民主主義の保障にまで到達すれば、「豊かな社会づくりにとって、資本主義と社会主義のどちらが有効だろうか」という議論が、大きく立ち上がることにはなるでしょう。現在のところと「東アジア」で「社会主義」への道をすすむとしている国は、両国以外にはありません。
○日本って米国に頭が上がらないのですか。昔、鬼畜米英、原爆、そして空襲、情けない国ですね。
――戦後の日米関係は「従属」というしかありません。ただし「従属」という原理からいつでも日米関係を決めつけるのでなく、やはり日米関係の実際から現実を見つめる姿勢が大切です。最近の靖国史観問題のように、日本政府の動きがアメリカとの摩擦を深める場合もあるわけですから。なお、アメリカを「鬼畜」と呼んで戦争をた段階から、「アメリカへの追随・従属」という姿勢に政治が転換していく過程については、1945年から52年までにアメリカによる対日軍事占領期の実際を学ぶことが不可欠です。ぜひ、そこを勉強してください。
○安倍が靖国派に主たる基盤をもっているのは、たしかに矛盾だが、具体的に改憲案は、一昨年10月の自民党新憲法案中心に動いて行くのではないか。財界、アメリカの意向に近いうちに収斂すると思うのだが‥‥?
――自民党の改憲案は、すでに公表されている「新憲法草案」です。ただし公明党もふくめた政府案、あるいは民主党との合意をも考慮した政府案の作成は今後の問題となっています。5月3日の靖国派による改憲案は、政府案をさらに右に引っ張るものといっていいでしょう。結局、最終的な改憲案がどのような形にまとまるかについては、政府と国民の衝突を中心とする、さまざまな力の衝突が決めていくことです。とはいえ、どのようにまとまるにせよ日本が「海外で戦争する国」をめざすものとなることは間違いありません。問題の立て方としては、どこに収斂するかの予想以上に、現実にどのようにはたらきかけるかが肝心です。私としては、靖国史観派の強まりが国民とのあいだに、また改憲勢力の内部に新たな矛盾を広げている現実を利用して、なんとか「海外で戦争する国」づくりそのものを頓挫に導きたいと思います。変革の見地から現実をとらえたいということです。
○「日本会議」の顧問は代々最高裁判所長官が努めているが、この点に関してどう考えられるか、憲法には最高裁判事は内閣で選出されることになっているが、このシステムにも問題があるのでは。
――「日本会議」の顧問は、彼らのHPで調べる限りでは、現在「宇野精一 東京大学名誉教授/北白川道久 伊勢神宮大宮司/久邇邦昭 神社本庁統理/白井永二 鶴岡八幡宮名誉宮司/瀬島龍三 伊藤忠商事特別顧問/服部貞弘 岩津天満宮名誉宮司/渡辺恵進 天台座主」で「三好達 元最高裁判所長官」が就いているのは第3代会長(現)ですね。
――該当の憲法の個所は、第6条「2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する」、第79条「最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する」の個所ですね。これらの条項を利用して内閣による司法の反動化が進められています。それが「日本会議」会長という形でもあらわれているわけです。三権分立をどう実態化していくかは重要な課題です。まともな「内閣」であれば、まともな「任命」が可能でしょうが、それを越えるルールを議論することは大いに可能なことだろうと思います。同時に、それは現憲法を守るという今日的な運動課題の重大性を考慮したやり方をする必要もあると思います。
感想
○米国の「本当の」利益というか国益を満たし得るのは、もう自民とか民主のレベルの発想ではないように感じました。むしろアジアにイニシアチブを発揮しているのは共産党が圧倒的なのに。ただ、「従属」だけはしないわけで‥‥。もうそろそろ共依存的に日米が疲弊するよりは、対等に関係し直す時期なのでは‥‥。民商の会員さんとも話したい内容でした。
――戦後の占領状態の法制化を土台に、日米軍事同盟はつくられました。これを軸とした従属の関係を抜け出して、対等平等な日米関係をつくるということは、大いに話題にして良いことです。「自立保守(自立靖国派)」のイデオロギーが一定の影響力をもつ中ですから、とりわけこれは重視されねばなりません。
○慰安婦問題の背景はわかったが、あまりふれられなかったのは‥‥?
○私は第2課のみの受講者なのですが、受講を決意した理由は「慰安婦問題」についての講義を受けたかったからなのです。今回の講義ではあまり慰安婦問題について、自分の希望した内容とは異なっていたので残念でした。しかし、慰安婦問題との結びつきの部分については先見を深めることができました。ありがとうございました。
――「慰安婦」問題の歴史的事実に多くの時間をさかなかったのは当初の予定どおりです。この講座のよびかけ文は、最初から次のようになっています。「第2講では,安倍発言が引き起こした最近の『慰安婦』問題をとっかかりに,現代世界の構造変化を考えてみます。なぜアメリカさえもが『慰安婦』問題の解決を求める動きを強めているのか。その背後にはアジア経済の成長という世界の大きな変化があります」。「慰安婦」問題のそもそも論は、最初から第2講の中心課題ではありません。
○靖国派は財界ともズレがあるのは知りませんでした。
――財界の内部にも靖国派はいるわけですが、財界全体としてはそれでは金が儲からないということですね。
○中曽根の「東アジア共同体評議会」の見解はアメリカを日本の主人と考えた。戦後版の大東亜共栄圏ではないのでしょうか?
――ぜひ「東アジア共同体評議会」のHPで、彼らの見解自身を読んで考えてみてください。根本的には、このような動きが、東アジア経済の成長によって余儀なくされたものであることが重要だと思います。その中で、アメリカの意向も汲みつつ、日本財界の最大限の利益追求を探究しているということだと思います。
○理系の学生で、知識はあまりない状態で聞いたのですが、分かりやすかったです。特に「靖国派」とアメリカ、日本財界とのずれによって改憲勢力が支持基盤を失いつつあるという点は初めて聞く話で、非常に興味深かったです。「平和運動」は平和を愛する感情だけではなく、専門的で総合的な知識によって力を増すものだと感じました。
――「平和の破壊はなぜ起こるのか」。これは十分に、学問的な究明の対象となるものです。そしてその「破壊の力」がどこから生まれるかを見つけださねば、それを抑制する「平和運動」も効果的な取り組みができません。「理系」の力をいかしながら、ぜひ「社会」についても学びを深めていってください。
○共産党の綱領がさらに深く理解できた。世界情勢の変化が綱領を通じて非常に見通しよくなった。
○とても面白かったです。経済の流れは一気に分かりました。(論文ははじめ読んだ時はちょっとむつかしかったです)政治・経済の世界的な動き、変化の中で大きく私たちの運動もとらえる視点が必要だとあらためて認識しました。
○これからの日本が何だか危険な、国際連盟を脱退した時のような世界から孤立した……
○世界の構造変化を具体的に理解するのに役立ちました。
○先生のお話にフウフウ言いながらすがりついた数時間です。
――今回の講座はどの講義でも、学問のかなり最前線的な、したがって問題提起的な内容となっています。ですから、これらに「すがりつく」ことができれば、それだけでかなりの力量があるということです。今後、各地で何度も「すがりつく」ことを体験していけば、いつかそのレベルが「あたりまえ」になるかも知れません。学問の得意・不得意はうまれつきのアタマの善し悪しよりも、圧倒的に訓練の量と質の問題ですから。
(2)
前回のテーマに関連するいくつかの情報を、順不動で以下に紹介しておきます。みなさんの関心の枠の中に入れて見てください。いずれも、私のブログにすでに紹介してあるものです。日々、新しい情報を放り込んでいますので(私自身のノートとして)、みなさんも大いに活用してください。
①インド・ブラジル・南アの「結束」
面白い動きが世界に立ち上がってくるものだ。
インド・ブラジル・南アフリカの3ケ国の「結束」がうたわれ、首脳会議が行われている。
いずれも経済成長が急な国だが、あわせて核保有国のインドをふくめて、期限を区切った核兵器廃絶への交渉も呼びかけている。
一国覇権主義の否定と、国連重視の姿勢も明快である。
印・ブラジルが首脳会談 南ア加えた3カ国協力強調(しんぶん赤旗、6月8日)
インドのシン首相とブラジルのルラ大統領が四日、ニューデリーで首脳会談を行い、両国関係の強化とあわせ、南アフリカを加えた三カ国協力の重要性を強調した「共同宣言」を発表しました。
この三カ国協力は、英語の頭文字をとって「IBSA」と呼ばれています。アジア、アフリカ、ラテンアメリカと地域はばらばらですが、「多元的共存と民主主義を共通の原理として結束した途上国のフォーラム」(共同宣言)と自らを位置づけています。
「多元的共存」(プルラリズム)とは、異なった民族、人種、宗教、政治体制などが同時に平和的に共存することを意味します。IBSAは閣僚によるフォーラムを重ねたうえで、昨年九月にブラジルで初の首脳会議を開きました。今年十月には南アで第二回首脳会議を予定しています。
核廃絶掲げる
第一回IBSA首脳会議では、「世界の多極化と、国連が卓越した役割を担えるよう関与していくことを再確認」しました。一国覇権主義的な国際秩序を拒否し、国連中心の世界平和を重視しています。
また、「核兵器の完全廃絶を目標」に掲げ、そのために「包括的で差別がなく、特別な時間枠をともなった、(廃棄の)立証が可能な方法で、核兵器の完全廃絶に進む段階的計画について交渉を始める必要がある」と強調しました。インドは核保有国ですが、期限を定めた廃絶交渉を主張しています。
貿易4倍化へ
三カ国はともに経済発展が著しい途上国です。「貿易促進のための行動計画」を決め、経済関係の強化に乗り出しています。三カ国首脳はドイツでの主要国首脳会議(G8サミット)に中国、メキシコ首脳とともに招待され、八日に国際経済や温暖化対策で主要国首脳と協議します。
今回のインドとブラジルの首脳会談では、二〇一〇年までに両国の貿易量を百億ドルへと四倍化することで一致しました。
ルラ大統領のインド訪問には、約百人のブラジル経済界代表が同行し、両国を代表する石油・天然ガス会社が油田開発協力で合意しました。また大企業の最高経営責任者(CEO)による対話フォーラムを立ち上げました。
途上国連携も
IBSAは三カ国間、二国間協力を推進するとともに、途上国間同士の「南南協力」も重視しています。三カ国が最低百万ドルを拠出し、IBSA基金を設立、開発事業を援助しようとしています。
ニューデリー外交筋からは、「今後の影響力は未知数だが、主要新興国が米国とは異なった価値観でユニークな動きをしていることは注目に値する」といった声がでています。(ニューデリー=豊田栄光 写真も)
②アメリカは中国の軍事力にも楽観的
ラムズフェルド前国防長官の中国軍事力増強批判から、ゲーツ現国防長官の米中関係「楽観視」へと、ここでもアメリカの対中政策の転換は非常に明快。
さて、靖国派主流の日本の政府は、これをどのように批判できるか。
“米中関係は楽観的” 国防長官 脅威論転換の姿勢(しんぶん赤旗、6月4日)
【ハノイ=井上歩】ゲーツ米国防長官は二日、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(英国際戦略研究所主催)で講演し、中国の軍事力に関連して「米中関係は楽観視できる」との考えを示し、米国が昨年までの同会議で強く主張してきた中国脅威論を転換させる姿勢を示しました。
ゲーツ長官は、中国の軍事支出と軍近代化計画の「不透明さ」に懸念を示しつつも、「対テロ、大量破壊兵器不拡散、エネルギー安全保障で米中は利益を共有している」「(軍事)能力と(軍事)意図は違うものであり、米中関係には楽観視できる理由がある」とのべました。
ゲーツ氏は「米中はあらゆるレベルで軍と軍との交流を拡大している。両国は大きな経済・貿易関係を築いている」とも強調しました。ラムズフェルド前国防長官は昨年までの同会議で、中国の軍事力増強を強く批判していました。
中国人民解放軍の章沁生副総参謀長は同会議で、中国の平和発展路線を説明し、軍事力の意図は自衛にあることを強調。核兵器については、「中国は最初の一発は絶対に撃たないだろう」と先制攻撃を否定しました。軍事費の透明性への批判には、「国防予算は厳格な法的手順に従ったもので、発表した予算は確かで信用できるものだ」と反論しました。
章副参謀長は米軍側が長く求めてきた「米中軍事ホットライン」について、九月に合意を完成させると言明。ゲーツ長官が将来の「誤算」を避けるため中国とのより詳細な軍事対話を呼びかけたのに応える形となりました。
③リー・クアンユー氏の東アジア共同体論
シンガポールのリー・クアンユー顧問相が、東アジア共同体を論じている。
EUとは異なる多様性を理由に、構築の困難は大きいとするが、他方でそれを乗り越えるためにはASEANが中心になるべきだともいう。
加盟国については、すでに東アジアサミットに加わっているニュージーランドとオーストラリアについては賛成だが、アメリカとロシアについては反対。
15~20年後にアジア全域のFTAを実現し、さらに20~30年後に共同体を構築するとの見通しも示している。
リー・クアンユ―・シンガポール顧問相が御手洗会長を表敬 -東アジア共同体の構築めぐり活発に意見交換(日本経団連タイムス、6月7日)
5月24日、来日中のリー・クアンユー・シンガポール共和国顧問相が東京・大手町の経団連会館に御手洗冨士夫日本経団連会長を表敬訪問し、同席した米倉弘昌副会長を交え、主に東アジア共同体の構築をめぐって活発な意見交換を行った。
リー顧問相は、東アジア共同体形成に向けた動きは今後ますます活発になっていくが、欧州連合(EU)と異なりアジアには共通の文化的基盤がなく、人種、宗教、言語などの面で多様性に富んでいるため、東アジア共同体の構築は、EUに比して困難であるという考えを示した。また、このようなEUでさえ、原加盟国6カ国から12カ国、さらに25カ国へと拡大していく中で、フランスとオランダが東欧諸国やトルコのEU加盟を快く思わず、EU憲法の批准を拒んだことなどを例に、東アジア共同体の構築はより一層困難なものになるとみられることから、「不可能なものを可能であるかのように語るのは慎むべきである」と述べた。また、日中韓が過去の歴史を乗り越え、東アジア共同体を構築する第一歩を踏み出すためには、ASEANを触媒として連携を強化することが妥当であるとし、加盟国の中立性を保つためにも、東アジア共同体の事務局はASEAN域内に置くべきだと主張した。
さらに、リー顧問相は、東アジア共同体の加盟国に関して、原材料や農産品を輸出し、補完的な役割を担っている豪州やニュージーランドが加わることは意義があると発言。また、両国が東アジア共同体に加われば、日中韓を牽制しパワーバランスを保つ役割を果たすとともに、「アジア人と白人の人種間の対峙」という構図を回避でき、歓迎すべきとした。
一方、米国については、世界の平和と安全にとって必須の存在であり、排除すべきでないとしながらも、経済的な観点から必ずしも東アジア共同体に加えることは適切ではないと述べ、また、アジアよりも欧州に関心が強いロシアについても、東アジア共同体に加えることに疑義を呈した。
今後の東アジア統合の道筋については、5~10年でまず韓国、中国、日本、豪州、ニュージーランド、インドとASEANとの関係強化に努め、15~20年後にアジア全域での自由貿易圏を構築した上で、20~30年後を目途に東アジア共同体の形成をめざすべきであるとの展望を明らかにした。
リー顧問相の説明を受け、御手洗会長は「確かに2000年に及ぶ長い歴史を振り返ってみると、アジアには宗教的なものも含め、欧州のような強い結びつきがなく、また実に多様であるため、東アジア共同体を構築することは容易でない。ASEANを触媒とした日中韓FTA(自由貿易協定)形成という考え方は非常にプラクティカルであり、評価できる」と答えた。【国際第二本部アジア担当】
④「慰安婦」問題での政府の動きは、戦争肯定論に直結している
アメリカ議会調査局で、下院議員向けの資料「日本軍慰安婦システム」を作成したラリー・ニクシー氏が、ソウルで講演を行った。
「慰安婦」問題をめぐる日本政府の動きは、かつての戦争を正しかったとするところに核心があり、それを一線を越えるならアメリカの「否定的な反応」は免れない。
靖国派とアメリカとの矛盾であり、それはアメリカが求めた日本の改憲の動きにも新たな矛盾を生み出している。
「日、慰安婦否定は戦争犯罪無効化の下心」米議会調査局研究員(中央日報、5月30日)
「慰安婦問題に日本政府が攻勢的に対応するには20世紀初めから中ごろ、日本がおかした戦争の罪の責任を無効にしようとする意図がある」--。
米国議会調査局研究員ラリー・ニクシュ博士は29日、ソウル北東アジア歴史財団大講堂で財団研究員を対象とし、日本軍慰安婦問題が日米関係に及ぶ影響と20世紀初めから中ごろの日本の歴史に対する認識問題を中心に1時間ほど講演した。
ニクシュ博士は「日本国内の歴史修正主義者たちの目標は第2次世界大戦の中で日本による戦争犯罪の責任を消してしまおうとすること」だと批判し「慰安婦問題のようにこれらが一定の線を超えたら米国内で否定的な反応を起こすだろう」と見通した。
ニクシュ博士は慰安婦問題に対する日本政府の公式謝罪を要求する米議会のホンダ決議案に対して「6月開催予定である米国会外交委員会案件には含まれていないが、トム・ラントス委員長の権限で上程される余地はある」と付け加えた。
ニクシュ博士はまた「ドイツに比べて反省が十分でない日本を肯定的な方向に誘導するためには日本国内の良心的な市民社会団体の活動を激励し、支持していく必要がある」と主張した。続いて「韓国は歴史問題を扱うことにおいて自国中心的な観点に固執している」と指摘し「今年で70周年になる南京大虐殺など他国家の戦争惨禍にも関心を傾ける方が日本にもっと強いメッセージを伝える方法になる」と述べた。
ニクシュ博士は米議会内のアジア問題専門家として通じ、4月、初議会で配付された「日本軍慰安婦システム」という報告書を作成している。
⑤クーデターに加担したTV局の「報道の自由」?
クーデターに加担し、捏造報道を繰り返したRCTVの放送免許を、ベネズエラ政府が更新しなかったという。
クーデターへの加担とは、選挙でつくられた政権を軍事的に転覆する動きに加わったということであり、それは「報道の自由」によって容認できる性質の問題ではないだろう。
それにもかかわらず、なぜ、こんなに内外世論の評価の相違が大きいのだろう?
RCTVの放送免許更新せず クーデター加担が理由 賛成・反対両派がデモ ベネズエラ(しんぶん赤旗、5月28日)
南米ベネズエラで、クーデターに加担した民間テレビ局RCTVの放送免許を政府が更新しなかった問題をめぐって、賛成派と反対派の対立が激しくなっています。免許の期限切れとなる二十七日には、首都カラカスで賛成派が集会を開催し、全国的キャンペーンの実施を確認。反対派は、「表現の自由」を掲げてデモ行進しました。(メキシコ市=松島良尚)
ねつ造報道で
RCTVを含む民間テレビ四局は、反政府派による二〇〇二年四月のチャベス大統領追放クーデターの際、反チャベス派のデモへの参加を大々的に呼びかけ、チャベス派の狙撃兵による反チャベス派への銃撃事件を繰り返し報道しました。これはのちにねつ造と判明しました。
RCTVのグラニエル最高責任者は、クーデター派のこの陰謀に直接、加担していました。同局は、クーデターが未遂に終わった後、同年末の「石油スト」でも政府転覆をねらったサボタージュ奨励のキャンペーンをはりました。一連の報道は「メディア・クーデター」と呼ばれ国際的にも批判を浴びました。
こうした経緯を踏まえて政府は昨年末、今年期限切れになる同局の放送免許は更新しない方針を明らかにしていました。その後も、政府は、「RCTVの免許を更新するかどうかは政府の権限」だと強調。「政治的報復だというRCTV側の非難は同局がクーデターなどに加担してきた現実に照らして説得力がなく、現政権が歴代政権のようにメディアを弾圧したことはない」(ランヘル前副大統領)と主張してきました。
二〇〇〇年に発効した通信組織法第一〇八条は、「国家の安全保障に関して重大な状況が生じ、大統領が不適切と判断する」場合、免許は授与されないと規定しています。ララ通信情報相は、RCTVがこの通信組織法とラジオ・テレビ社会責任法に違反していると強調しています。
これに対しRCTVのグラニエル最高責任者は、「報道の自由への侵害だ」として法廷で争う構えです。
表現の自由は
政府の措置についてマスコミ関係者や周辺国からはさまざまな議論が出ています。米州新聞協会「報道の自由委員会」のマロキン委員長は、「他のテレビ局も同様の問題を抱えるのではないか」と懸念を表明しました。米州機構(OAS)のインスルサ事務総長は声明で、今回のような措置は「民主主義のこの数十年のなかで前代未聞」と述べ、チャベス大統領に再考を促しました。
表現の自由をうたう国際組織であるジャーナリスト保護委員会の代表団が調査のためにベネズエラを訪問し、政府やメディアの関係者と懇談しました。ラウリア報道担当者はその結論として、「政府の決定が法の厳密な適用に基づいて行われたということを確認できなかった」と述べています。
一方、報道の民主主義化などを掲げる中南米ジャーナリスト連盟の元議長で、ベネズエラの中立系紙ウルティマス・ノティシアスのディアス編集長は、「政府の措置は法に基づいている。RCTVがクーデターや石油ストの際に行動に出ず、批判路線を持っているだけなら問題にならなかっただろう」との立場を示しています。
⑥コスタリカ 警察官のアメリカ派遣中止へ
中南米によるアメリカ離れの、さらに新たな動きである。
従属から離れた対米関係づくりというのは、まったく同じことが日本に求められてもいるわけである。
軍幹部養成 派遣中止へ 米での訓練 中南米で4国目 コスタリカ(しんぶん赤旗、5月28日)
コスタリカ政府はこのほど、米国のラテンアメリカ軍幹部養成機関への訓練生派遣を今後は中止すると発表しました。
この機関「西半球安全保障協力研究所」(WHINSEC)は、前身である「スクール・オブ・アメリカス」(SOA)時代を含め、六万人をこえる卒業生を送り出し、各国軍部内に親米派を組織する役割をになってきました。コスタリカの派遣中止決定は、ベネズエラ(〇一年)、アルゼンチン(〇六年)、ウルグアイ(〇六年)についで四カ国目。
コスタリカは現政権下でも、経済、安全保障分野では米国と現在も緊密な関係をもっており、今回の決定は、いわゆる「親米国」にも広がる「米国離れ」として、とくに注目されます。
今回の決定は、五月十六日、WHINSECとSOAの人権侵害を追及し、機関の閉鎖を求めている民間団体「SOAウオッチ」の代表と会見した同国のオスカル・アリアス大統領が表明したものです。
「SOAウオッチ」の代表として同席したリサ・サリバン氏によると、アリアス大統領は、「この学校(WHINSEC)を閉鎖するためには何をしなければならないのか」と質問。サリバン氏が、コスタリカが訓練生を派遣しなければ、非常に積極的な影響を与えるだろう、と説明したのにたいし、大統領は「そうするだろう」と応じました。
コスタリカは「軍隊」がないため、実際に、WHINSECに派遣されるのは警察官です。「SOAウオッチ」によれば、これまでにSOAやWHINSECを卒業した警官は約二千六百人。現在は、三人の警官が在籍中です。アリアス大統領は、「三人の警官の(訓練)コースが終われば、われわれはそれ以上人を派遣するつもりはない」とのべました。
サリバン氏らは、ここ数年、ラテンアメリカ各国の大統領らと会見して、訓練生派遣中止を申し入れてきました。同氏は、メキシコ紙ホルナダとのインタビュー(五月十日付)で、中止には至らない国の中にも、派遣訓練生の数を減らした(チリ)、派遣の勧告をやめた(ボリビア)などの動きがあることを紹介。今日、ラテンアメリカには以前とは異なる条件が生まれている、「私たちは、国々の主権、尊厳、統合が優先され、従属から離れて、米国との新しい関係(otra relacion)をめざす動きが始まっている時を目の当たりにしている」とコメントしています。
なお、米議会では、人権団体の要請を受けた民主党議員らによって、WHINSEC予算の削除や内部調査を要求する法案が提出されています。(党国際局 菅原啓)
--------------------------------------------------------------------------------
西半球安全保障協力研究所(WHINSEC)
ラテンアメリカ諸国の軍幹部を招いて、訓練を施すという名目で二〇〇一年一月、米ジョージア州フォートベニングに開設されました。前身の「スクール・オブ・アメリカス」(SOA)はもともとパナマの米軍基地内にあり、左翼「ゲリラ」対策の拷問の方法なども伝授し、その卒業生たちは、各国でクーデターや軍事政権の中心人物となった歴史があります。WHINSECも基本的には、この「伝統」を受け継ぐもので、人権団体は、閉鎖を要求しています。
⑦サミットの中のドイツとアメリカ
6月に開催されるサミットだが、BRICsもまじえて、いよいよ先進国だけの首脳会議ではなくなってきている。
議長国のドイツは、温暖化、アフリカ支援、ヘッジファンド規制を主要議題にかかげるという。
いずれもアメリカの姿勢との一定の対立が避けられない問題である。
G8首脳会議へ独首相 温暖化対策・アフリカ支援など議題に(しんぶん赤旗、5月26日)
【ベルリン=中村美弥子】ドイツのメルケル首相は二十四日、連邦議会下院で演説し、地球温暖化対策、アフリカ支援、ヘッジファンド規制が、来月六日から八日まで北部ハイリゲンダムで開かれる主要八カ国(G8)首脳会議の主要議題となると述べました。
首相は、G8首脳会議のスローガンは「成長と責任」だと発言。「社会と環境規範の順守を導くものとなる」と述べました。
地球温暖化対策について、京都議定書の最初の削減期限が切れる二〇一三年以降の取り組みで共通の認識を持つ必要性に触れ、「気候変動とのたたかいで変化を生むために先進国が先陣を切らなければならない」と強調。この問題で、独政府は、消極姿勢を取る米国に協力を迫る意向を示してきました。
メルケル首相は、国際金融市場の管理と透明性向上が課題となっていると指摘。「自由市場経済にも一定の規制が必要だ」と述べ、ヘッジファンドの監視強化を打ち出したG8財務相会合の結果を歓迎しました。
G8首脳会議には、中国、インド、メキシコ、ブラジル、南アフリカの新興諸国も参加します。また、アルジェリア、エジプトなどアフリカ諸国の首脳も招かれ、アフリカの開発支援に関する協議に参加します。
⑧米中経済対話 圧力で事は決しない
年2回制度的に開催されている米中経済対話だが、日米対話とまるで異なり、独立国同士らしい話し合いが行われているようだ。
元切り上げの大きな動きが確認されなかったことに、アメリカ議会は強い苛立ちをもっている。
しかし、アメリカが圧力をかけさえすれば相手が必ず折れるという現代世界ではすでにない。
同時に、世界の市場経済ルールは、アメリカだけに決定権があるわけでもない。
アメリカ議会と政府は、大局的には、そのことについての学習の過程にあるようだ。
米中対話閉幕、米議会から相次ぎ不満(日経新聞、5月24日)
【ワシントン=藤井一明】23日に閉幕した閣僚級の米中戦略経済対話について、米議会から早くも厳しい声が相次いでいる。特に人民元改革に踏み込み不足を指摘する意見が目立つ。金融や航空の市場開放で一定の前進がみられた戦略対話も、米議会の対中強硬論の勢いを和らげるのには不十分だったようだ。
民主党のボーカス上院財政委員長は23日、声明を発表し、戦略対話を通じて中国の牛肉輸入の制限と人民元の過小評価の問題が「解決されなかったのは極めて残念だ」と強調した。
米中戦略経済対話、幾つかの点で合意・為替問題は進展なし(日経BP、5月24日)
[ワシントン 23日 ロイター] 2日間の日程で開かれた第2回米中戦略経済対話は23日、終了した。中国への航空便乗り入れ拡大や、米企業が中国金融セクターに参入する際の障壁緩和などでは合意したが、争点となっている人民元改革の加速については進展がなかった。
ポールソン米財務長官は対話後の会見で「具体的な成果」があったと言明。一方、中国の呉儀副首相(通商担当)は、両国間関係は「複雑」で、慎重な対応が必要だとの認識を示した。
副首相は「中米の経済・通商関係は、現在の世界で最も複雑な関係の1つだ」と指摘。「脅威や制裁に安易に訴えるかわりに、米中の直接協議や対話が求められる」と語った。
ポールソン長官には、過去最高に達している米貿易赤字の削減に向け、中国により積極的な為替改革を促すよう各方面から圧力が掛かっている。長官は、中国当局も自国の利益のためそうする必要があることを認識していると指摘した。
15人の閣僚を率いて対話に臨んだ呉儀副首相は、対話終了後、米議会に向かった。米議員らは、中国が人民元を上昇させなければ中国からの輸入に関税を課すという内容の法案を計画している。
人民元の対米ドルでの上昇率は、2005年7月の切り上げ以降6%にとどまっており、元の過小評価のため中国製品が不当に安くなっていると主張する米議員の不満を買っている。
ポールソン長官は、対話終了後の記者会見で「中国は明らかに人民元柔軟性拡大の必要性を認識しており、方針を表明している」と語った。
証券市場開放などで合意 米中対話、人民元進展せず(北海道新聞、5月24日)
【ワシントン23日共同】米国と中国が貿易不均衡是正などを話し合うためワシントンで開いた2回目の米中戦略経済対話が23日午前(日本時間同日深夜)閉幕し、双方は中国の証券市場の対外開放拡大や米中間の航空便倍増などで合意した。しかし焦点の人民元相場の弾力化では大きな進展はなく、米議会から早くも不満や失望の声が上がった。
発表によると両国は、外資系証券会社の中国市場への参入規制撤廃や業務範囲の拡大で合意。中国政府が国内株への投資を認めている適格海外機関投資家の投資枠を、100億ドルから300億ドル(約3兆6000億円)に拡大することで一致した。
米国から中国への旅客航空便を2012年までに倍増することでも合意。エネルギー分野では、温室効果ガス削減に向けた炭鉱のメタンガス利用などでの協力も確認した。次回会合は12月に北京で開催の予定。
米国のWTO提訴を批判=人民元相場、不均衡の主因でない-中国副首相(時事通信、5月25日)
【ワシントン24日時事】米中戦略経済対話のため訪米している中国の呉儀副首相は24日夜、米経済界が主催した夕食会で講演し、米国が知的財産権問題で中国を世界貿易機関(WTO)に提訴したことについて、経済問題を対話で解決するという戦略対話の精神に反し、両国関係に悪影響を与えると強く批判した。
同副首相は、今回の会合を「両国の理解が深まり成功だった」と評価する一方、「中国はまだ途上国」であり、サービス貿易などで「米国とは違いがある」と強調した。人民元相場についても、2005年7月の通貨バスケット制移行以来、対米ドルで8%以上切り上げられたと指摘、「安定的な改革を続けていく」として、米側の切り上げ加速要求を退けた。さらに「人民元相場が米貿易赤字の主因ではない」と述べ、米中貿易の不均衡には構造的な要因があるとの見方を示した。
人民元改革 進展なし 米中対話閉幕 米議会から不満噴出(読売新聞、5月25日)
【ワシントン=矢田俊彦】米中両国が経済問題を包括的に話し合う「米中戦略経済対話」の第2回会合は23日、米中間の航空便増便や中国の金融市場の開放などで合意し、閉幕した。しかし、米側が焦点としていた人民元相場の柔軟化については具体的な進展がなく、訪中70回以上の「中国通」ヘンリー・ポールソン米財務長官の手腕を見守る姿勢をとってきた米議会はしびれを切らせている。12月に北京で開かれる予定の次回会合までがひとつのヤマ場となりそうだ。
「中国の為替市場での大量で継続的な介入に強い懸念を表明する」。チャールズ・ランゲル下院歳入委員長(民主党)は、米中戦略経済対話終了後に会談した中国の呉儀副首相に対し、人民元相場に不満を表明した書簡を手渡した。マックス・ボーカス上院財政委員長(民主党)も「人民元の過小評価の問題が解決されなかったことは大いに不満だ」との声明を発表、米中対話に対し米議会から不満が噴出した。
米政府高官によると、米中対話で、中国側は先週発表した人民元と対ドル為替レートの変動幅拡大について説明した。これに対し、ポールソン長官らは「人民元相場が改革の象徴だ。スピードを加速させるべきだ」と述べたという。
米議会から批判の風を受け始めたポールソン長官は「今回の米中対話は意図的に米議会開会中に設定した」としている。呉儀副首相らを有力議員らと直接会談させることで、米議会の雰囲気を肌で感じさせる狙いもあったようだ。
一定の進歩あった 米大統領
【ワシントン=矢田俊彦】ブッシュ米大統領は24日、ホワイトハウスで記者会見し、「米中戦略経済対話」について、「一定の進歩があった」と述べ、米航空会社の中国便増便などで合意したことを評価した。一方、「対中貿易赤字(の縮小)は取り組まなければならない問題」と指摘し、その解決策の一つとして、為替相場の問題をあげ、「中国が人民元を切り上げるかどうか注視している」と述べた。
米中が戦略経済対話 貿易不均衡など協議 双方から閣僚級25人出席(しんぶん赤旗、5月24日)
【ワシントン=鎌塚由美】米中の主要な経済閣僚が両国の経済や貿易問題を協議する第二回米中戦略経済対話が二十二、二十三日、ワシントンで行われました。米側からはポールソン財務長官、中国からは経済担当の呉儀副首相を筆頭に、双方から閣僚級の二十五人が出席。二日間にわたり経済・投資、エネルギー・環境、貿易不均衡是正の三つのセッションで意見交換しました。
米側議長を務めるポールソン長官は開幕あいさつで、「中国からこれだけ多くの閣僚が米国の一都市に集まるのは、歴史的にもかつてない」と歓迎。それは「長期的な経済関係を正しく方向づけることがいかに決定的かを両国が認識している」からだと表明しました。
同時に、両国内で「保護主義や貿易とグローバル化の利点への疑念」があり、相互不信が「永続的な貿易・金融不均衡」によって増幅されていると指摘し、米国内での「反中感情」に言及して米議会などの対中懸念を示唆しました。「われわれは忍耐強くない」とも述べ、貿易摩擦解消へ中国側の速やかな行動を求めました。
これに対し中国の呉儀副首相は「建設的協力関係」を強調。「通商問題の政治化は避けなければならない」として、対中圧力をけん制しました。「両国の貿易不均衡に対処するため米国とともに効果的な措置をとる」とも語りました。
今年は、両国関係の断絶終了を確認した上海コミュニケ調印から三十五周年であることから、当時の国務長官だったキッシンジャー氏が特別講演しました。
戦略経済対話は年二回の開催予定。第一回は昨年十二月に北京で開かれました。
--------------------------------------------------------------------------------
米中戦略経済対話
米中戦略経済対話の実施は、ブッシュ米大統領と胡錦濤中国国家主席との間で合意され、昨年十二月に始まりました。
両国間の経済関係は拡大し、米国にとって中国は第三位の貿易相手国、中国にとって米国は第一位の貿易相手国となっています。
それに伴い生じている二国間の経済問題やエネルギーなど世界的な経済問題について閣僚レベルで意見交換するのが、「対話」の目的です。このような機構が両国間で設置されるのは初めてです。
対中貿易赤字は昨年、二千三百億ドル(約二十八兆円)と過去最高に達しています。昨年秋の米中間選挙を契機に、こうした状況への批判や対中経済制裁を求める声が米国で高まっています。
四月には米通商代表部(USTR)が、海賊版のDVDやCDが横行するなど知的財産権保護の法制度が不十分だとして、中国を世界貿易機関(WTO)に提訴しました。
米中経済対話 航空便倍増で合意 証券参入の障壁緩和も(しんぶん赤旗、5月25日)
【ワシントン=鎌塚由美】米中の主要な経済閣僚がワシントンで一堂に会し、両国の経済課題を協議した米中戦略経済対話が二十三日、閉幕しました。二日間の日程で、金融サービス、エネルギー・環境、貿易不均衡などを協議。民間航空分野で、両国間の航空便を倍増するほか、米国の証券会社の中国市場への参入の障壁緩和でも合意しました。
米側の議長を務めたポールソン財務長官は、閉幕にあたり発表した声明で、中国側と「緊張関係にあっても、ひんぱんな連絡と差違の解消、バランスの取れた経済関係を保つことの重要性」を確認したと述べ、「相互利益をもたらすとき、われわれの関係は最良であり、それは成長と均衡、より強力な世界経済へと導く」と語りました。
中国の呉儀副首相は、米中の経済関係は「現在の世界でもっとも複雑な関係の一つ」とし、その前向きな発展には、「ウィン・ウィン(ともに勝利する)の原則で誠実に対話と交流を行うことが必要」だと強調。米側との「対話」を通し、両国の経済関係と建設的協力関係の「全面的な促進」を、と希望しました。
「対話」の閉幕にあたり、両国は、民間航空分野での新たな取り決めに合意したと発表しました。米中間の旅客航空便数を二〇一二年までに現在の一日十便から二十三便にすることとし、貨物輸送でも障壁をほぼ完全撤廃することで合意しました。米国のピーターズ運輸長官は閉幕後の記者会見で、合意は、「戦略経済対話の重要性を示す具体的な証し」だと述べ、昨年十二月の「対話」以来の協議による成果を強調しました。
このほか、金融サービス分野では、外国証券会社の中国市場参入への障壁緩和などで合意しました。米側が求める人民元改革の加速については、具体的な進展はありませんでした。
⑨南米銀行・南米基金
南米6ケ国が、南米銀行と南米基金の設立で合意した。
アメリカン・グローバリゼーションの押しつけを融資の取引材料とするのでない、新しい多国籍金融機関の創設である。
他方、南米基金は、経済危機の勃発時に、集中的に支援を行うための原資ということらしい。
実際に、どれほどの原資が集まることになっていくのか。
南米銀行 年内にも開設/6カ国確認 IMFに代わり融資(しんぶん赤旗、5月5日)
【メキシコ市=松島良尚】エクアドルとアルゼンチン、パラグアイ、ベネズエラ、ボリビア、ブラジルの南米六カ国による経済・金融相会議が三日、エクアドルで開かれ、南米銀行と、エクアドルのコレア大統領が提案した南米基金の設立を推進していくことを確認しました。南米銀行は六月末に設立議定書調印、年内に開設する見通しです。
南米銀行は、規制緩和など構造調整政策を融資条件とする国際通貨基金(IMF)などに代わって域内諸国が協力して資金を融通しようという狙いから、ベネズエラのチャベス大統領が提案したもの。しかし、同銀行の権限や、原資に各国の外貨準備金をあてることなどをめぐって不一致があったといわれます。
ロイター通信によると、「新しい金融構造」として提案された南米基金の設立構想が各国間の不一致を和らげました。ブラジルの動向が注目されていましたが、同国のマンテガ財務相は「地域統合を強化する方向は重要だ」と述べ、南米銀行設立に参加する意向を明確にしました。
南米銀行は外貨準備金以外の財源を原資とし、インフラ整備などのために融資する「開発銀行」的な役割を持つといわれます。
一方の南米基金は外貨準備基金の一部を原資にして共同運用し、参加国が経済危機などに直面したときに対応します。同基金の設立日程はまだ定められておらず、会議では同基金憲章の作成にとりくむことが確認されました。
引き続く南米の改革
南米の改革だが,ベネズエラが世銀への債務を完済し,エクアドルはIMFへの債務を完済したという。
またベネズエラは,アルゼンチンの債務を一部肩代わりしたともあり,さらにアメリカの意向が強く反映する国際金融機関とは別に,共同で南米銀行をつくる話が進んでいる。
他方,エクアドルでは新自由主義推進型の憲法を変更するための制憲議会の設置に,国民投票で多数の支持があったという。
この大陸の変化は実に目ざましい。
ベネズエラ債務完済 チャベス大統領 「自由になった」(しんぶん赤旗,4月16日)
【メキシコ市=松島良尚】ベネズエラのチャベス大統領は十三日、世界銀行に対する債務を十二日に完済したと発表しました。米国が関与したとされる二〇〇二年のクーデター計画を国民の力ではねかえしたことを記念する五周年式典で述べました。
チャベス大統領は「ベネズエラは国際金融機関に手を縛られていた。いまや国際通貨基金(IMF)にも世銀にもいっさい債務はない。これらの機関からベネズエラを自由にした」と強調。また、ベネズエラがアルゼンチンの債務の一部を肩代わりしたことが同国のIMF債務完済に役立ったとして、ベネズエラが「他国を支援する金融センターになった」と述べました。
脱IMFの動きが加速する南米では、域内諸国が資金を出し合って南米銀行を設立する構想の具体化が進んでいます。
IMFや世銀は、融資条件として民営化や規制緩和など新自由主義政策を各国に強要してきました。ベネズエラでは一九八九年二月、当時のペレス政権が受け入れたIMFの構造調整政策による公共料金やガソリンの値上げがきっかけとなり、首都で大規模な暴動が発生しました
〔付録〕出生率上昇も一時的
06年の出生率が上昇したが、長期的な少子化傾向に変化はないというのが大方の見方であるらしい。
根本の経済事情に好転がないのだから、妥当な見方といえるだろう。
出生率1.32 上昇、6年ぶり 結婚増背景に(東京新聞、6月7日)
一人の女性が生涯に産む子供の推定人数を示す合計特殊出生率が、二〇〇六年は六年ぶりに上昇し、一・三二となったことが六日、厚生労働省の人口動態統計(概数)で分かった。過去最低だった〇五年の一・二六から〇・〇六の大幅上昇で、一・三台に回復したのは四年ぶり。
〇六年に国内で生まれた日本人の赤ちゃんは、前年比三万百三十二人増の百九万二千六百六十二人だった。
厚労省は、景気回復などの影響で結婚するカップルが増え、第二、第三子をもうける夫婦も増えたことが背景にあると分析。ただ「長期的な少子化傾向は変わっていない」としている。専門家からは「〇五年に予想以上に低下した反動による一時的な上昇」との見方も出ている。
出生率は〇五年まで五年連続で過去最低を更新。〇六年は上昇したとはいえ、産む世代の女性人口が減少している影響で赤ちゃんの出生数は〇五年に次いで過去二番目に少なく、政府は抜本的な少子化対策を急ぐ方針だ。
統計によると、〇・〇六の出生率上昇は、丙午(ひのえうま)だった一九六六年の翌年の〇・六五に次ぐ上げ幅。二十-四十四歳でいずれも前年を上回り、特に二十代後半は十二年ぶり、二十代前半も五年ぶりに上昇した。第一子だけでなく、第二子や第三子以降の出生率も前年を上回った。
三十三都道府県で〇五年より上昇。最高は沖縄の一・七四で、宮崎一・五五、島根一・五三の順。最低は東京の一・〇二で、北海道一・一八、京都一・一九と続いた。
結婚したカップルも五年ぶりに増加。一万六千七百八組増の七十三万九百七十三組となった。
厚労省付属の国立社会保障・人口問題研究所が昨年十二月に公表した「日本の将来推計人口」では、〇六年は一・二九と予測。今回はこれを上回ったが、推計では〇七年以降は再び下降するとされている。
(3)
以下、第3講の内容を補足するメモです。『資本論』第1部の内容から、労働者階級全体の「団結」に向かう論理にかかわるものを抜き出してみます。第1部では、その内容を直接深く掘り下げた個所はありませんでした(ページ数は新日本出版社・上製版)。
①「(18)高度な労働と単純な労働、「“熟練労働”」と「“不熟練労働”」とのあいだの区別は、一部分は単なる幻想にもとづくか、または少なくとも、実在することをとうにやめていていまや伝統的慣行において残存しているにすぎない区別にもとづいており、また一部分は、労働者階級のある階層がよりいっそう孤立無援な状態にあり、そのため、これらの階層が自分たちの労働力の価値をたたかいとる力を他の階層よりも弱めている、ということにもとづいている。この区別にあっては、偶然的な事情が大きな役割を演じている……」(338、第5章・労働過程と価値増殖過程))
②「このように、まったく弾力的な諸制限を度外視すれば、商品交換そのものの本性からは、労働日の限界、したがって剰余労働の限界はなんら生じないことがわかる。資本家が労働日をできる限り延長し、できることなら一労働日を二労働日にしようとする場合には、彼は、買い手としての彼の権利を主張する。他方、売られた商品の独特な本性は、買い手がこの商品を消費することへのある制限を含んでいるのであって、労働者が、労働日を一定の標準的な大きさに制限しようとする場合には、彼は売り手としての彼の権利を主張する。したがって、ここでは、どちらも等しく商品交換の法則によって確認された権利対権利という一つの二律背反が生じる。同等な権利と権利とのあいだでは強力がことを決する。こうして、資本主義的生産の歴史においては、労働日の標準化は、労働日の諸制限をめぐる闘争――総資本家すなわち資本家階級と、総労働者すなわち労働者階級とのあいだの一闘争――として現われる」(399~400、第8章・労働日)。
③「第二に――孤立した労働者、自分の労働力の『自由な』販売者としての労働者が、資本主義的生産がある一定の成熟段階に達すると抵抗できずに屈伏するということは、若干の生産諸様式においては労働日の規制の歴史によって、他の生産諸様式においてはいまなお続いているこの規則をめぐる闘争によって、実に明白に証明される。それゆえ、標準労働日の創造は、資本家階級と労働者階級とのあいだの、長期にわたる、多かれ少なかれ隠されている内乱の産物なのである」(517~518、第8章・労働日)。
④「わが労働者は生産過程にはいったときとは違うものとなって、そこから出てくるということをわれわれは認めなければならない。市場では、彼は『労働力』商品の所有者として他の商品所有者たちと相対したのであり、商品所有者が商品所有者と相対したのである。労働者が自分の労働力を資本家に売るときに結んだ契約は、彼が自分自身を自由に処分するものであることを、いわば白い紙に黒い文字で書きとめたようにはっきりと証明した。取り引きが終わった後になって、彼は『なんら自由な行為者ではなかった』こと、彼が自分の労働力を自由に売る時間は、彼がそれを売ることを強制されている時間であること、実際に、彼の吸収者は『一片の筋肉、一本の腱、一滴の血でもなお搾取することかできる限り』(『 』内はエンゲルス「イギリスの10時間法案」・石川)手放しはしないことが暴露される。自分たちを悩ます蛇にたいする『防衛』のために、労働者たちは結集し、階級として一つの国法を、資本との自由意志的契約によって自分たちとその同族とを売って死と奴隷状態とにおとしいれることを彼らみずから阻止する強力な社会的防止手段を、奪取しなければならない。『譲ることのできない人権』のはでな目録に代わって、法律によって制限された労働日というつつましい“大憲章”が登場する」(523、第8章・労働日)。
⑤「全体労働者のさまざまな機能は、簡単なものや複雑なもの、低級なものや高級なものがあるので、その諸器官すなわち個別的諸労働力は、まったく程度の違う訓練を必要とし、それゆえ、まったく違う価値をもつ。したがってマニュファクチュアは、諸労働力の等級制を発展させ、それに労賃の等級が対応する」(606~607、第12章・分業とマニュファクチュア)。
⑥「それゆえ、マニュファクチュアはそれがとらえるどの手工業においても、手工業経営がきびしく排除したいわゆる不熟練労働者の一階層を生み出す。マニュファクチュアが全体的な労働能力を犠牲にして、まったく一面化された専門を優れた技能にまで発達させるとすれば、それはまた、あらゆる発達の欠如をさえも、一つの専門とすることに手をつける。等級制的区分とならんで、労働者が熟練労働者と不熟練労働者とに単純に区分される。後者にとっては修業費はまったく不要になり、前者にとっては、機能の単純化により、手工業の場合に比べて修業費は減少する。どちらの場合にも、労働力の価値は低下する」(607~608、第12章・分業とマニュファクチュア)。
⑦「(労働日の日価値/与えられた時間数の労働日)による労働価格の規定は、もしなんの補償もなければ、労働日の単なる延長は、労働価格を低下させるとうい結果を生む。しかし、長いあいだには労働日を延長することを資本家に可能にする同じ事情が、資本家に、この増加した時間数の総価格したがって日賃金または週賃金が低下するまで、労働価格を名目的にも引き下げることを、はじめは可能にし、ついには余儀なくするのである。ここでは、二つの事情を指摘するだけで十分である。もし一人が一人半分または二人分の仕事をするならば、たとえ市場にある労働力の供給が不変であっても、労働の供給は増大する。こうして労働者のあいだに引き起こされる競争が、資本家に、労働の価格を切り下げることを可能にするのであり、他方では、また逆に、この労働の価格の下落が、資本家に、労働時間をさらにいっそう引き延ばすことを、可能にする」(934~935、第18章・時間賃金)。
⑧「この場合には、労働の質と強度が労賃の形態そのものによって規制されているので、この労賃の形態は大部分の労務監督を不用とする。それゆえ、この労賃の形態は、前述した近代的家内労働の基礎をなすとともに、等級的に編制された搾取および抑圧の制度の基礎をなす。この後者の制度には、二つの基本形態がある。出来高賃金は、一方では、資本家と賃労働者とのあいだへの寄生者の介入、仕事の下請けを容易にする。介在者たちの利得は、もっぱら、資本家の支払う労働価格と、この価格のうち介在者が労働者に現実に手渡す部分との差額から生じる。この制度は、イギリスではその特徴を表現して「苦汗制度」と呼ばれている。他方では出来高賃金は、資本家に、班長労働者と――マニュファクチュアでは組長と、鉱山では採炭夫などと、工場では本来的機械労働者と――一個あたりいくらというある価格で契約を結ぶことを可能にし、班長労働者自身がその価格で自分の補助労働者の募集と支払いを引き受ける。この場合には、資本による労働者の搾取は、労働者による労働者の搾取を介して実現される」(942~943、第19章・出来高賃金)。
⑨「時間賃金では、ほとんど例外なく、同一の機能にたいする同一の労賃が支配しているが、出来高賃金では、労働時間の価格は、確かに一定分量の生産物によってはかられるとはいえ、日賃金または週賃金は、労働者の個人的な相違によって変動する――そのなかのある者は、与えられた時間内に最小限の生産物だけを生産し、他の者は平均の生産物を、第三の者は平均以上の生産物を生産する。したがってこの場合には、実際の収入については、労働者個人の熟練、力、精力、持久力などの相違に応じて、大きな差が生じてくる。もちろんこのことは、資本と賃労働とのあいだの一般的関係をなにも変えはしない。第一に、個人的な相違は、全作業場にとっては総裁され、その結果、全作業場は、一定の労働時間内に平均生産物を提供し、その支払われる総賃金は、その事業部門の平均賃金であろう。第二に、個々の労働者によって個人的に提供される剰余価値の総量は、その労働者の個人的賃金に対応しているから、労賃と剰余価値との比率は、依然として変化しない。しかし、出来高賃金が個性にまかせるより大きな活動の余地は、一方では、労働者たちの個性、したがって自由感、自立性、および自制を発展させる傾向があり、他方では、彼ら相互の競争を発展させることになる。それゆえ出来高賃金は、個人の労賃を平均水準以上に引き上げる一方で、この水準そのものを低下させる傾向をもつ」(945、第19章・出来高賃金)。
⑩「こうした収奪は、資本主義的生産そのものの内在的諸法則の作用によって、諸資本の集中によって、なしとげられる。一人ずつの資本家が多くの資本家を打ち滅ぼす。この集中、すなわち少数の資本家による多数の資本家の収奪と相ならんで、ますます増大する規模での労働過程の協業的形態、科学の意識的な技術的応用、土地の計画的利用、共同的にのみ使用されうる労働手段への労働手段の転化、結合された社会的な労働の生産手段としてのその使用によるすべての生産手段の節約、世界市場の網のなかへのすべての国民の編入、したがってまた資本主義体制の国際的性格が、発展する。この転化過程のいっさいの利益を横奪し独占する大資本家の数が絶えず減少していくにつれて、貧困、抑圧、隷属、堕落、搾取の総量は増大するが、しかしまた、絶えず膨張するところの、資本主義的生産過程そのものの機構によって訓練され結合され組織される労働者階級の反抗もまた増大する。資本独占は、それとともにまたそれのもとで開花したこの生産様式の桎梏となる。生産手段の集中と労働の社会化とは、それらの資本主義的な外被とは調和しえなくなる一点に到達する。この外被は粉砕される。資本主義的私的所有の弔鐘が鳴る。収奪者が収奪される(252)」(1300~1301、第24章・いわゆる本源的蓄積)。
⑪「(252)ブルジョアジーをその無意志、無抵抗な担い手とする産業の進歩は、競争による労働者の孤立化の代わりに、結社による労働者の革命的団結をもたらす。したがって、大工業が発展するにつれて、ブルジョアジーが生産を行ない生産物を取得する基礎そのものが、ブルジョアジーの足もとから取り去られる。ブルジョアジーはなによりもまず自分自身の墓掘り人を生産する。ブルジョアジーの没落とプロレタリアートの勝利とは、どちらも不可避である。……こんにちブルジョアジーに対立しているすべての諸階級のうち、プロレタリアートのみが現実的に革命的な階級である。その他の諸階級は、大工業が発展するにつれて衰微し、没落するが、プロレタリアートは大工業のもっとも固有な産物である。中間諸身分、すなわち小工業者、小商人、手工業者、農民、彼らはみな中間諸身分としての自分の存在を没落から守るために、ブルジョアジーとたたかう。……彼らは反動的である。というのは、彼らは歴史の車輪を逆に回そうとするからである」(『共産党宣言』)。
「伊東」との往復の限りで、たどりつくことができたのは、上の範囲にとどまりました。まだまだ今後に課題が残ったようです。
〔追加配布資料〕
兵庫学習協・07夏期集中講座第2講追加資料
労働者間の競争を排除、制限するための「労働組合」
2007年6月12日
神戸女学院大学・石川康宏
http://walumono.typepad.jp/
マルクス「ストライキと労働者の団結」(『哲学の貧困』1846~7年)より
「互いに結束するための労働者たちの最初の試みは、常にさまざまな団結体という形をとる。
……競争が、彼らの利害関係によって彼らを分裂させるが、賃金の維持、雇い主たちに対して彼らがもつこの共通の利害が、抵抗という一個同一の考え、すなわち、団結体に、彼らを結合する。したがって、団結体というものは、常に、二重の目的をもっている。すなわち、労働者間の競争を止めること、そうすることによって、資本家に対する〔労働者の〕全面的対抗を遂行できるようにする、という目的をもつ」。
マルクス「草稿・賃金」(1847年12月の講義の下書き)より
「人口理論の主要な動機の一つは、それによって労働者間の競争を緩和させよう、ということにあった。これに反して、労働者組合は、労働者間の競争を終結させること、そして、労働者間の競争に代えて、労働者間の団結を据えることを、目的とする」。
マルクス「労働組合。その過去、現在、未来」(1866年)より
(その過去)「労働者がもつ唯一の社会的な力は、その数の力であるが、数の力は不団結によって挫かれる。労働者たちの不団結は、彼ら自身のあいだの不可避的な競争によって生み出され、持続される。
職別組合は、当初は、労働者を、少なくとも、まったくの奴隷状態を上回る状態に引き上げるような契約条件を闘いとるため、そうした競争を排除するか、少なくとも制限することをめざした、労働者の自然発生的な努力から生まれた」。
(その未来)「全労働者階級の闘士および代表者を自認し、そうしたものとして行動している以上、労働組合は、非組合員を組合に獲得することに成功しなければならない。労働組合は、以上に不利な環境によって、無力化されている(仏語版では「組織的抵抗ができない」)農業労働者のような、最悪の支払いを受けている職業の利益に注意深く配慮しなければならない。労働組合は、労働組合の努力が、狭量な、利己的なものとは無縁であり、ふみにじられた幾百万大衆の解放を目標とするものであることを、世界中の人々に確信させなければならない」。
最近のコメント