『美しい国へ』では,経済政策不在を示した安倍晋三氏だが,それでも財界やアメリカからの「改革」要望はつづいている。
他方,格差と貧困の広まりの中で,言葉だけでも「再チャレンジ」をいわずにおれない現実もある。
その中で新閣僚の顔ぶれについては,商工族中心の成長重視布陣という評価が多い。とはいえ,重視される「成長」の中味や手法は定かでなく,経済政策全体の見通しはやはりきわめて悪い。
法人税減税に意欲的で,消費税増税も時期の相違はあっても実施するとの判断に変わりはない。その点で,一部の黒字大企業の「成長」重視は明快なのだが。
経済政策決定の重心が本当に経済財政諮問会議から自民党へずれて来ているとの評価もあるが,はたしてそれがどれほどの政策の相違となってあらわれるのか。
省庁間の調整の中心に立つと見られる中川幹事長が「歳出削減」「規制緩和」の徹底を主張している以上,既定の「改革」路線に大きな変化はなさそうである。
すでに世帯所得の低下を余儀なくされている一般市民にとって,どうやら良いことは何も見えて来そうもない。
「116円台半ばでもみ合い 新政権に市場反応薄」(東京新聞,9月26日)。
「26日の東京外国為替市場の円相場は、安倍新政権誕生への反応は薄く、1ドル=116円台半ばでのもみ合いとなった」。
「午前中は、輸出企業によるドル売りの動きなども見られたが、方向感を欠く中で売り買いが交錯する展開。安倍新政権の組閣をめぐっては『小泉政権とは異なり、経済政策の方向性が見えにくい』(為替ディーラー)との声が聞かれた」。
「安倍内閣「成長シフト」鮮明に 財政再建重視派は閣外へ」(東京新聞,9月27日)。
「安倍内閣の発足で、一新した経済閣僚の顔ぶれは、経済界や市場関係者から『経済成長路線を優先した布陣』(熊野英生・第一生命経済研主席エコノミスト)と受け止められている。安倍首相はみずから掲げる成長路線の推進役として、自民党の商工族議員を財務相や経済産業相の重要ポストに起用した。一方で財政再建重視派の多くは閣外に去り、消費税率引き上げの論議は来夏の参院選後への先送りが濃厚だ」。
■財政「『研究開発投資を促進するような税制は長い目でみれば税収がプラスになる』。尾身幸次財務相は就任会見で、財政再建の重要性に触れつつも、法人減税に意欲を示した。尾身氏は旧通産省出身。自民党税制調査会副会長としても、毎年末の税制改正論議で企業の税負担軽減による競争力強化や中小企業活性化を唱えてきた。今年末の税制改正では、数千億円規模の法人減税に踏み切るかどうかが焦点になる」。
「尾身氏は消費税率の引き上げについては『本格的な議論は来年の秋以降』と発言。『骨太の方針』で『06年度内をめどに結論を得る』とした抜本的な税制改正論議は先送りされる見通しだ」。
「甘利明経産相も自民党商工部会長などを歴任した商工族。経産省は『予算編成や税制改正に向け、味方を得た』(幹部)と歓迎ムードだ」。
「道路特定財源見直しをめぐっては、余剰金を財政再建に回す『一般財源化』が既定路線だが、公明党から入閣した冬柴鉄三国土交通相は就任会見で『納税者の意思を尊重しなければならない』と発言。減税にも理解を示し、一般財源化に慎重な姿勢をみせた」。
「大田弘子経済財政相は民間から起用され、経済財政諮問会議を所管する。かつて内閣府で『骨太の方針』の作成にも携わった経験を買われた。ただ最近の政策決定の主導権は諮問会議から与党に移りつつあり、自民党の中川秀直幹事長、中川昭一政調会長らを相手に、どこまで存在感を発揮できるかが問われる」。
■金融行政 「山本有二金融・再チャレンジ相は財務副大臣の経験はあるが、金融行政の手腕は未知数だ。臨時国会では貸金業規制法の改正法案の審議を控え、『再チャレンジに最も障害になっている多重債務者の問題を解決したい』と意欲を見せた」。
「ただ、再チャレンジ相との兼任を不安視する声もある。再チャレンジ支援では安倍首相が金融機関に不動産担保や個人保証に偏重しない融資などを求めた経緯があり、金融機関の健全性を考える金融行政と食い違う場面も予想される」。
「一方、成長率引き上げのため、日銀に対しては金融緩和要請が高まりそうだ。日銀に理解を示し、量的緩和解除やゼロ金利解除に一役買った与謝野・前経済財政相が閣外に去ったことも大きい。追加利上げの時期をにらむ日銀は、微妙な立場に立たされる可能性もある」。
「安倍政権始動 商工族を続々登用 『上げ潮政策』路線鮮明に」(北海道新聞,9月28日)。
「本格始動した安倍晋三政権では、閣僚や自民党役員に経済産業政策に詳しい『商工族』を続々登用、自民党の中川秀直幹事長が提唱する経済成長重視の『上げ潮政策』路線を鮮明にした。財政再建に向け、法人減税などで経済活性化を優先して自然増収を図り、国民の反発が予想される消費税増税を先延ばしする狙いだが、一方で高成長による長期金利上昇で国債の利払いが膨張するおそれもはらんでいる。(東京政経部 加藤雅毅) 」
「名目で4%の成長を目指す『上げ潮政策』は中川幹事長が政調会長だった二月に提唱した。徹底した歳出削減や規制緩和などの構造改革で経済活性化を図り、企業の業績向上に伴う自然増収を生み出して消費税率引き上げを急がない考え方だ」。
「小泉純一郎政権下で『上げ潮路線』を『楽観的に過ぎる』と批判し、早期の消費税率上げによる堅実な財政再建を主張した谷垣禎一前財務相や、それに理解を示した与謝野馨前経済財政相は、今回の組閣で切り捨てられた」。
「代わって登用されたのが商工族。通産官僚出身で自民党税制調査会などで法人減税を主張してきた尾身幸次財務相は、二十六日の記者会見でも企業の国際競争力強化のための法人減税の重要性に言及。消費税の増税論議本格化を来秋以降とする自身の方針と、早期引き上げを狙う財務省との食い違いには『次官がなんと言ったか知らないが、私はそれが適切だと思う』と言い放ち、居並ぶ財務官僚を凍りつかせた」。
「甘利明経済産業相は通産政務次官を務め、政調会長代理として中川秀直政調会長(当時)を支えた関係だ。また自民党内では中川昭一政調会長、二階俊博国対委員長がともに経産相経験者。官邸で党や省庁との調整にあたる根本匠首相補佐官(経済財政担当)は衆院経済産業常任委員長を経験しており、経産省は『経産省ラインが完成した』(中堅幹部)と歓迎ムードだ」。
「民間から起用され、就任会見で歳出・歳入一体改革の工程表づくりに意欲を示した大田弘子経財相も、中川幹事長と足並みをそろえて『上げ潮政策』を主導した竹中平蔵前総務相の側近。経済界には『省庁間の調整は中川幹事長が行うだろう』(経済団体首脳)と期待感が高まっている」。
「ただ、成長路線を突き進んで長期金利が上昇すれば国債の利払いが膨張、自然増収の効果が薄れる可能性もあり、財政再建を目指す上で『もろ刃の剣』ともいえそうだ」。
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