2月下旬にアメリカ政府の説得にでかけた世耕氏が,河野談話の継承をあらためて語っている。
河野談話は「慰安婦」の「募集」について「甘言,強圧による等,本人の意思に反して集められた事例が数多くあり」「官憲等が直接これに加担したこともあった」と述べている。
これを継承することと,「狭義の強制性」とやらを否定することとはどのように両立するのだろう。そこの説明はまったくない。これでは「反論」ではなく「いいわけ」だろう。
この点については,安倍首相もまったく同じ。
産経の記事は,「慰安婦」謝罪の全否定ととられる発言をすると,米下院内部の決議反対派を賛成派にまわしてしまうことになると懸念を表明する。
とりあえず決議を可決させないための「緻密な配慮」が優先されるとの立場である。
なお,この記事からは,米下院の決議反対派が,いずれも日米同盟重視を「慰安婦」問題解決に優先させる立場であることが良くわかる。
安倍氏は強制性の広義,狭義を区別したがるが,それを区別することで,この国の罪がどう軽くなるといいたいのだろう。
結局は,軍と政府には強制性をめぐる罪がないといいたいようだが,それこそ証拠は一体どこにあるのだろう。
首相は河野談話を継承/世耕氏、米韓警戒に反論(四国新聞,3月4日)
世耕弘成首相補佐官(広報担当)は4日のテレビ朝日番組で、従軍慰安婦の動員をめぐる旧日本軍の強制性に関する1日の安倍晋三首相の発言について「首相就任直後の国会答弁通り。強制性の定義は広義、狭義といろいろあるが、(従軍慰安婦におわびと反省の気持ちを表明した1993年の)河野官房長官談話を引き継ぐことは変わっていない」と強調した。
韓国や米国で首相発言を河野談話見直しの動きと警戒する見方が出ているため、それに反論した。政府関係者によると、首相官邸は韓国政府や米国メディアなどに首相の真意を説明する必要があるか検討している。
首相は河野談話継承を明言した昨年10月の衆院予算委員会で「狭義の強制性」を「家に乗り込んで強引に連れて行った」、「広義の強制性」を「行きたくないが、結果としてそうなった」と説明した上で「狭義の強制性については事実を裏付けるものは出てきていない」と答弁した。
米議会、慰安婦決議案 米メディア「安倍首相 全否定」報道(産経新聞,3月5日)
【ワシントン=古森義久】「慰安婦」問題で日本に謝罪を求める決議案が出ている米国議会で、最近の安倍晋三首相の言明の報道が、同決議案への反対派を混乱させるという屈折した現象が起きている。反対派は河野談話などを基に「日本がすでに非を認めて十分に謝罪した」という立場をとり、決議案推進派の動きを「日本の民主主義を無視している」と批判してきたが、安倍首相が慰安婦問題への日本の責任を全否定するかのように報じられたからだ。
反対派の議員が困惑
下院本会議に出された「慰安婦」非難決議案に対し、議会内に反対勢力が厳存することは日本側ではあまり伝えられていない。だが2月15日の下院外交委員会アジア太平洋小委員会が開いた公聴会でも共和党のデーナ・ローラバッカー議員は(1)日本の首相や閣僚は慰安婦問題について1993年以来、何度も謝罪してきた(2)現在の日本国民を二世代前の先人がした行為を理由に懲罰することは不当だ(3)世界のどの国も過去には罪を犯してきたが、米国を含めてそれほど謝罪はしていない(4)決議案はいまの日本が米国の同盟国として人道主義を推進し、世界的にも重要な民主主義の旗手であることを無視するに等しい-などと述べて、決議案への反対を明言した。
共和党のスティーブ・チャボット議員も「第二次大戦で苦痛を経た日本、韓国、フィリピンなどはみな今、米国の同盟国であり、戦後の困難な状況でも米国を支援してきた」と述べて、決議案を批判した。
公聴会では議員側の出席は議長を除いて冒頭でも4人だけで、そのうち発言した3人のうちの2人が決議案への反対や難色を表明したことになる。賛成論の発言は議長以外では決議案提出者の民主党マイク・ホンダ議員だけだった。
しかし、日本側の立場を結果として擁護する反対派の議員たちも2日、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストにより安倍首相の言明が「首相が性的奴隷への日本軍の役割を否定」とか「首相は女性が戦時の売春宿に強制徴用されたことを否定」という表現で報道されたことで、動揺を示した。
共和党のある議員補佐官は「わが議員も決議案に反対だが、もし日本当局の慰安婦へのかかわりや従来の謝罪がすべて否定されるとなると、賛成に回らざるをえない」と述べた。だが、現実には安倍首相は1日、記者団の質問に「当初、定義されていた強制性を裏づける証拠はなかった」と述べ、日本軍による女性の組織的な強制連行はなかったことを強調しただけだとされている。
日本側は今回、米国議会に対し「日本政府はいわゆる従軍慰安婦問題に関する責任を明確に認め、政府最高レベルで正式なおわびを表明してきた」(加藤良三駐米大使の声明)という見解を同公聴会の開催前に積極的に伝達してきた。この声明は、河野談話を踏まえた形になっており、米側とすれば、日本政府がすでに慰安婦問題への軍の関与を認め、そのうえですでに謝罪をしたという認識だといえる。
ところが首相の新たな言明が、河野談話や従来の責任自認、謝罪などの一切を否定するような印象で米紙で報じられるとなると、決議案反対の米側議員も反対の根拠を否定されたような受け止め方になる。この点でも日本側の対応には緻密(ちみつ)な配慮が求められることとなる。
河野談話の「基本的継承」首相改めて表明…参院予算委(読売新聞,3月5日)
2007年度予算案の参院での質疑が5日午前、予算委員会で始まった。
安倍首相は、いわゆる従軍慰安婦問題に関連し、元慰安婦への「おわびと反省」を表明した1993年の河野洋平官房長官談話を、「基本的に継承していく」と改めて表明した。
その上で首相は、「狭義の意味での強制性を裏付ける証言はなかった。官憲が人さらいのごとく連れて行くという強制性はなかった。いわば『慰安婦狩り』のような強制連行的なものがあったということを証明する証言はない」と述べ、旧日本軍や官憲による強制連行を示す証拠はないとの見解を改めて示した。
また、「そのときの経済状況もあった。本人が進んでそういう道に進もうと思った方はおそらくいない。間に入った業者が事実上強制していたケースもあった。広義の解釈では強制性があった」と述べた。
慰安婦問題で日本政府に謝罪を求める米下院の決議案に関しては、「決議があったからといって我々は謝罪することはない。決議案は客観的な事実に基づいていない。引き続き理解を得るための努力を行っている」と語った。
小川敏夫氏(民主)の質問に答えた。
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