チェンマイ・イニシアチブ(2000年)に始まった、東アジアの金融・通貨協力が、さらに新しい段階を迎えようとしている。
かつてAMF構想の実現に動いた榊原氏自身が、それに「非常に近い」というのだから、97年にはできなかったことが、10年後の今日はできるようになっているということだろう。
この10年間に、東アジアがアメリカによる金融的収奪の相手から、生産と消費の両面で育成と安定を必要とする相手に変わったということが変化の原動力か。
これもまた根底には、大国やり放題からの世界構造の変化があるということである。
日中韓ASEAN、外貨融通拡大で合意へ・5日に財務相会議(日経新聞、5月4日)
アジア開発銀行(ADB)は6日から2日間、第40回年次総会を京都市で開く。これに先立ち、4日の日中韓財務相会議を皮切りに一連の国際通貨会議の日程が同市で始まる。5日には東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓(プラス3)が財務相会議を開催、多国間で外貨を融通しあう通貨安定の枠組みづくりなどについて議論する。日本はADB総会で環境保護のための基金設立を表明する見通しだ。
現在の通貨安定策は日本や中国、タイなど8カ国が相互に外貨を交換できる協定を結び、外貨の資金繰り悪化の際などに助け合う枠組み。5日に開くASEANプラス3会議ではこうした複数ある協定をひとつにまとめ、より多くの国で外貨を融通しあう制度の検討で合意する方向だ。
具体的には、各国が外貨準備の一部を1カ所に拠出する方式を模索する。外貨をひとまとめにし融通ルールを一本化することで、為替の大幅な変動など不測の事態に素早く対応できるようになる。
ASEAN+3 通貨危機防止で外貨融資制度検討へ(朝日新聞、5月2日)
10年前に起きたアジア通貨危機の再発防止を目的に、東南アジア諸国連合と日中韓(ASEAN+3)が多国間の協定を結び、外貨を融通し合う新しい仕組みが動き出す。各国が外貨準備として持つ米ドルなどの一部を拠出して1カ所に集めておき、域内国の通貨が急落したときの買い支えを支援する制度の導入を目指す。5日に京都市で開かれる財務相会議で、制度の検討を始めることに合意する見通しだ。
現在、アジア各国の通貨協定は2国間で個別に16件ある。97年のアジア通貨危機を受け、00年に日本主導でASEAN+3で合意した「チェンマイ・イニシアチブ」構想に基づく。外資が急激に資金を引き揚げるなどして通貨が急落した国に対し、買い支えに使う米ドルを始めとする外貨を、その国の通貨を担保に貸し出す仕組みだ。通貨交換枠は現在、計約9兆円にのぼる。
しかし、2国間協定では、融資は関係国に個別に頼まなければならない。多国間協定にすれば、一度の要請で多くの関係国が迅速に通貨を融通できる。
今回の会議では、拠出金制度の新設を打ち出す方向で、各国の調整が進んでいる。あらかじめ各国が外貨準備の中から一定額を拠出しておくことで、万が一の場合に確実に融通できるようにしておく。総額や制度の詳細は今後詰める。
通貨危機後、日本は国際通貨基金(IMF)とは別に、独自の通貨安定の枠組み「アジア通貨基金」(AMF)構想を提唱したが、米国などが日本の影響力拡大を警戒して反対し、実現しなかった。今回はあくまでも「IMFの補完」との位置づけだが、AMF実現への第一歩となる可能性も秘める。
通貨危機10年 アジアの金融協力、新段階 地域経済統合の布石(FujiSankei Business i. 5月2日)
■外貨一括拠出を討議
アジアが通貨危機に見舞われてから10年。アジア経済は急ピッチで回復し混乱の痕跡を見つけるのは難しい。京都市で5日開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓による「ASEAN+3」の財務相会議では、危機の再発を予防する新体制の方向性を討議する。アジアの金融協力は持続的成長に向け、新たな段階に入る。
「10年前よりアジア経済は強く、通貨危機の再来はない」。アジア開発銀行(ADB)の黒田東彦総裁はこう明言する。1997年にタイから外貨が大量流出しバーツが暴落。通貨下落はインドネシアや韓国などに次々と波及し、「アジアの奇跡」と称賛された高成長は一気に失速した。
しかし、2006年のアジア開発途上国の成長率は8・3%を達成し今年の見通しも7%台。「貯金」に相当する外貨準備高もASEANと日中韓13カ国で計2兆5000億ドル超と10年前の約5倍に膨らんだ。
ASEANと日中韓の13カ国は通貨危機を教訓に、二国間の外貨融通協定「チェンマイ・イニシアチブ」(CMI)を00年に導入した。現在は域内8カ国がCMIを相互に締結、資金規模は総額790億ドルに達し、ヘッジファンドからの攻撃を牽制(けんせい)している。
ただ、CMIは二国間の約束で、有事の際にそれぞれの相手国と交渉するのに時間がかかる。今回の財務相会合では二国間から全域内国が参加する一つの協定に改め、支援国が外貨を一括拠出できる「次世代CMI」を議論する。各国が外貨準備の一部を共同で融資資金として預け、「ボタン一つで発動できる協力体制を目指す」(財務省幹部)。
通貨危機が起きた97年、日本は国際通貨基金(IMF)のアジア版とも言えるアジア通貨基金(AMF)構想を提唱した。米国などの反対で実現しなかったが、迅速に外貨を供与し危機の拡大を防ぐ次世代CMIの狙いは「AMFの考えに非常に近い」(榊原英資元財務官)とされる。
次世代CMIでは実効性のある外貨融通の仕組みと、危機の芽を事前に摘むための経済・金融政策の相互監視の両立が課題になる。
アジアではASEANが15年の経済共同体創設を目指すなど、地域経済統合の機運が高まっている。新たな金融協力関係の構築は将来の経済統合の布石となるだけに、日本も財政再建や構造改革の一層の推進など、地域経済の安定につながる成長への取り組みが求められている。
アジアの安定成長は日本にも不可欠。アジア地域最大の経済国として日本が果たすべき役割は依然大きい。
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