死んでしまったけれど、「モデルケース」であり「対応に問題はなかった」。
これが担当の保護課長の言葉だというから驚きである。
「問題はなかった」とすべてを本人責任に帰する前に、なぜ「行政にできることはなかったのか」を点検しようとしないのか。
人の心をもたない、生活保護切り捨て至上のマニュアル行政というしかない。
日記に「おにぎり食べたい」 生活保護「辞退」男性死亡(朝日新聞、7月11日)
北九州市小倉北区の独り暮らしの男性(52)が自宅で亡くなり、死後約1カ月たったとみられる状態で10日に見つかった。男性は昨年末から一時、生活保護を受けていたが、4月に「受給廃止」となっていた。市によると、福祉事務所の勧めで男性が「働きます」と受給の辞退届を出した。だが、男性が残していた日記には、そうした対応への不満がつづられ、6月上旬の日付で「おにぎり食べたい」などと空腹や窮状を訴える言葉も残されていたという。
市などによると、10日、男性宅の異変に気づいた住民らから小倉北福祉事務所を通じて福岡県警小倉北署に通報があり、駆けつけた署員が部屋の中で、一部ミイラ化した遺体を発見した。目立った外傷はなく、事件の可能性は低いという。11日にも解剖して死因を調べる。
男性は肝臓を害し、治療のために病院に通っていた。市によると、昨年12月7日、福祉事務所に「病気で働けない」と生活保護を申請。事務所からは「働けるが、手持ち金がなく、生活も窮迫している」と判断され、同月26日から生活保護を受けることになった。
だが、今春、事務所が病気の調査をしたうえで男性と面談し、「そろそろ働いてはどうか」などと勧めた。これに対し男性は「では、働きます」と応じ、生活保護の辞退届を提出。この結果、受給は4月10日付で打ち切られた。この対応について男性は日記に「働けないのに働けと言われた」などと記していたという。
ところが、その後も男性は働いていない様子だった。1カ月ほど前に男性に会った周辺の住民によると、男性はやせ細って、「肝硬変になり、内臓にも潰瘍(かいよう)が見つかってつらい」と話していたという。
小倉北区役所の常藤秀輝・保護1課長は「辞退届は本人が自発的に出したもの。男性は生活保護制度を活用して再出発したモデルケースで、対応に問題はなかったが、亡くなったことは非常に残念」と話している。
同市では05年1月、八幡東区で、介護保険の要介護認定を受けていた独り暮らしの男性(当時68)が生活保護を認められずに孤独死していた。06年5月には門司区で身体障害者の男性(当時56)がミイラ化した遺体で見つかった。この男性は2回にわたって生活保護を求めたが、申請書すらもらえなかった。
こうした市の対応への批判が高まり、市は今年5月、法律家や有識者らによる生活保護行政の検証委員会を設置し、改善策を検討している。
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関連して、以下は総合社会福祉研究所のメーリングリストに流れた転載可の情報である。
これもまた北九州市の問題である。
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北九州市当局の門司餓死事件報告書に改ざん疑い発覚! 保健師は「男性の健康に問題」と報告(第四回検証委員会第一報)
7月10日に行われた第四回北九州市生活保護検討委員会では、門司餓死事件につき餓死した男性の生活保護申請を受けなかった面接主査(係長)と、ケースワーカーに同行して初期の緊急訪問を行った保健師(係長)の聞き取り調査が行われました。
保健師に対する聞き取り調査の際、委員からの緊急訪問時の男性の健康状態の質問に対して、保健師が、国家資格として「栄養状態や不整脈等から健康に問題がある」と判断し、上司と保護課に伝えていたと回答。しかし市が作成した報告書では「やせて栄養不測の状態だが、親族と交流があり、身体的に問題がある状態ではないと判断した」と記載されており、市の公式見解と実際に餓死した男性を観察した保健師との意見が相反していることが明るみになりました。
非公開審議後の記者会見では、記者からの「改ざんではないのか」との問いに稲垣委員長は、「時間をかけて調査して報告する」と、健康記録の改ざん疑い問題につき、個別に検証することを約束し、マスコミ各社は九州全域規模での報道を行いました(読売、西日本、NHK、FBSなど)。
なお「改ざん」の疑いがある文書は、北九州市当局が2006年6月に厚生労働省に事件検証のために提出した資料であり、厚生労働省の「申請権の侵害はなかった(2006年12月27日報告)」との検証結果の基となったものです。
そうなると北九州市当局は、国家資格である保健師の観察結果を「改ざん」して、国会議員の質問に対して検証を約束した厚生労働大臣(2006年6月参議院)をも騙したことにもつながり得ます。
検証委員会による徹底した真相解明が求められています。
なお第四回検証委員会では、門司餓死事件の他に八幡東餓死事件(2006年1月発生)の検証も行われ、さまざまな問題が明らかになっています。その点については来週第二報としてお伝えします。
孤独死男性「健康に問題」保健師報告 北九州市の報告書と食い違い(2007年7月1日 読売新聞・西部版 社会面)
北九州市門司区の市営団地で2006年5月、生活保護を求めた男性(当時56歳)が孤独死しているのが見つかった問題で、男性が保護を求めた05年9月の健康状態について、担当した同区生活支援課の女性保健師が10日、検証委員会(委員長=稲垣忠・北九州市立大学特任教授)の聴取に対し、「健康状態に問題があると上司に報告した」と証言した。同課は当時、「問題ない」と判断し、男性は保護を受けられなかった。市は「事実関係を調査したい」としている。
この日行われた検証委員会で、保健師は「男性は栄養失調気味で不整脈があった」と述べた。
一方、男性の死亡が発覚した06年5月23日付で同課が作成した報告書には「やせて栄養不測の状態だが、親族と交流があり、身体的に問題がある状態ではないと判断した」と記載。同課は厚生労働省にも同様の報告を行った。
保健師は「なぜ食い違いが生じたのか分らない」としている。
門司区・孤独死 「健康に問題と報告」 生活保護委保健師発言 区の見解と食い違い(2007年7月11日、西日本新聞・社会面)
北九州市門司区の男性(当時56)が生活保護を受給できずに孤独死した問題で、男性の困窮状態を確認していた同市職員の女性保健師が、10日開かれた生活保護行政を検証する第三者委員会で「当時、男性の健康には問題があると報告した」と発言。同区役所は男性の健康状態について「身体的に問題がなかった」とする報告書をまとめており、食い違いが表面化した。
保健師は第三者委の非公開の聞き取り調査で発言。同委によると、保健師は2005年9月30日に男性を緊急訪問した際、上司に「男性には不整脈もあり、健康状態には問題がある」などと報告していたという。
ところが、死亡した男性が発見された直後の06年5月下旬、門司区生活支援課がまとめた市への訪問経過の報告書では「栄養不足ではあるが、身体的問題はなかった」などとされていた。保健師は同委で「見解が異なる」と訴えたという。
食い違いについて、市は「関係者が異動するなどし、直ちに報告書作成の経緯を確認できない。調査して発表する」としている。
藤藪貴治(ふじやぶたかはる)
福岡自治労連公共一般(北九州市立大学非常勤講師)
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