歴史的大敗以後の自民党・公明党をめぐるあれこれである。
自民党内部には「構造改革」路線の評価をめぐる対立が大きくなっている。
巨大な集票組織であった日本医師会も、「構造改革」による医療制度解体路線に対する厳しい批判の前に、票をそろえることができなくなっている。
それにもかかわらず、自民党内の安倍下ろしの動きはストップしており、国民からは辞めろといわれている首相を、引き続きかついで進むしかない状態。
公明党内部にも荒れが出てきている。
結局、「構造改革」をめぐっては「財界・アメリカいいなり」路線に対する国民の怒りが、選挙結果の根底にある。
そのことが直視できるかどうかの問題である。
自民の参院選総括 「構造改革」路線への批判相次ぐ(しんぶん赤旗、8月17日)
自民党は、参院選での大敗を受けて参院選総括委員会(委員長・谷津義男選対総局長)を設置し、党所属国会議員や地方県連幹部などから意見の聴取を進めています。八月中に最終報告書をとりまとめる計画です。
意見聴取では、地方への公共事業拡大や「構造改革」路線の見直しを求める声が相次いでいるのが、一つの特徴です。
七日に開かれた委員会の席上では、野田毅元自治相が「自民党(執行部)は公共事業性悪説で、田舎の気持ちを分かっていない」と批判。衛藤征士郎元防衛庁長官は「(敗北は)地方への手当てができなかった結果で、小泉政権以来の路線の修正を含め考えるべきだ」と述べました。
太田誠一元総務庁長官はホームページで「(改革には)マイナス面がある」が、「そういうことを考えないで、改革でありさえすればよいというふうに言ってきたことによって、しっぺ返しを受け」たと敗因を分析。加藤紘一元幹事長も、「今回の逆風は、ここ五―六年続いた市場原理主義、民間の利益追求こそが正しい政策であると言ってきたことに原因があるのではないか」とホームページで指摘しています。
身内からもこうした声があがっているにもかかわらず、安倍晋三首相は「基本路線は多くの国民に理解されている」という認識を示しています。十日の閣議で了承した来年度予算の概算要求基準にも、小泉内閣以来の「構造改革」路線がそのまま反映。社会保障の二千二百億円抑制や、公共投資の3%削減、「消費税を含む税体系の抜本的改革」など、財界の要求がすべて盛り込まれました。
小野次郎氏、猪口邦子氏ら当選一回の議員有志四人が十日、「改革の歩みを止めることなく、安倍総理に引き続き継続・実行して頂きたい」などとする「緊急アピール」を安倍首相に提出。首相は「さらに改革にまい進していく」と述べたといいます。
「改革か、逆行か」と叫んだ選挙で大敗北を喫しながら「構造改革」路線に固執し、「人心一新」をいいながら自らは対象としない安倍首相。有権者はもとより、党内でも「安倍総裁のもとで党の再生再建が本当にできるのかどうか」(逢沢一郎衆院議員)などの声がくすぶり続けるもようです。
安倍首相 ひとりよがりの内閣改造 世論は「首相続投反対」(しんぶん赤旗、8月18日)
安倍晋三首相は十七日から二日間の短い「夏休み」に入りました。「来週は海外出張がありますし、選挙の結果を受けて、国民の声をどう政策に反映させていくかということも、この時期にじっくり考えたい」(十六日付配信の「安倍内閣メールマガジン」)と、二十七日に予定する内閣改造・自民党役員人事の構想を練る構え。参院選大敗で退陣を突きつけられた安倍首相の内閣改造はひとりよがりの感を否めません。
「私一人で決めないといけない」。安倍首相は十三日、内閣改造・党役員人事を記者団に問われ、自らの判断で行う考えを強調しました。森喜朗元首相が福田康夫元官房長官らの処遇を求めていることについても「私自身、熟慮して断行する」(同)と安倍カラーを捨て去る姿勢はありません。
しかし、「人心一新が必要」と内閣改造を打ち上げながら、自らは早々と続投を宣言した安倍首相に注がれる国民の目線は厳しいものがあります。NHKの世論調査(八月十日~十二日実施)では、安倍首相の続投に40%が「反対」で「賛成」の25%を大きく上回り、内閣改造についても「期待しない」は53%と半数を超えます。
参院選の与党大敗の根本に「自公政治の内政、外交の深刻なゆきづまりと、それへの国民の深い批判と怒りがある」(日本共産党の志位和夫委員長)もとで、首をすげかえる小手先の内閣改造では国民は納得できないことを示しています。それも分からず、「一人で決める」と内閣改造に固執する安倍首相の姿勢はまったくひとりよがりです。
一方、内閣改造を前に自民党内では参院選直後にあった首相退陣論は消えうせ、「安倍首相が(続投を)発言してしまった以上、とやかくいう段階ではない」(額賀福志郎元防衛庁長官)、「首相がいばらの道を歩むと言っている時に、党内で駆け引きは適当ではない」(伊吹文明文部科学相)と各派閥幹部は「挙党態勢」を強調。「上手に人を使って、トータルとしてうまくいくようにすることが最高のリーダーシップだ。それが自民党の伝統的手法だ」(野田毅元自治相)と、派閥の均衡や有力者の処遇を重視した古い自民党の姿があらわれつつあります。
内閣改造・党役員人事では麻生太郎外相らの名がとりざたされるなど、日本の過去の戦争を正しかったとする「靖国」派で通じる「お友だち内閣」ぶりもなくなっていません。
自民・武見氏落選 医師会に衝撃 会員4割 さじ投げた 小泉「構造改革」への反発(しんぶん赤旗、8月19日)
自民党の強力な支持基盤を誇った日本医師会(約十六万四千人)が揺れています。日医の政治団体・日本医師連盟(委員長・唐澤祥人日本医師会会長)が、参院比例区で推薦した自民党の武見敬三氏(厚生労働副大臣)が落選。この「まさか」(西日本の前県医師会長)の事態がなぜ起きたのか。選挙戦の中心を担った医師会幹部たちの話から見えてきたのは、小泉政権以来の医療切り捨て政策にたいする怒りの深さです。(内藤真己子)
今回の参院選挙で日医連は百万票の得票目標を掲げ、武見氏の後援会員獲得にあたって「従来の単なる後援会会員の獲得にとどまらず……第一線に立ち、先兵として活動し得る会員の獲得を」と全国に指示。会員数は八十五万六千人余にもなりました。ところがフタを開けてみれば、得票数はその二割程度の約十八万七千票でした。三年前の参院選で推薦した比例候補の得票より、六万票以上の後退です。この結果について日医連の唐澤委員長は、年金問題、閣僚の不適切発言、事務所費問題による自民党への逆風と、日医連の足並みの乱れが原因とのべました。
自民に対する考え方が変化
しかし選挙戦の最前線で指揮をとった幹部たちは、敗北の最大の要因が「小泉『構造改革』への反発にある」と口をそろえます。
「今回の選挙は医師会の四割の先生がさじを投げた。私は執行部の一員として一生懸命やったが、面と向かって『今回は(選挙運動を)やらないよ』という人が何人もいた。だからこの結果は当然だ」。同連盟のある執行委員の実感です。
「国民は小泉『構造改革』の負の遺産で苦しめられている。東京一極集中、大企業中心の政策の誤りを肌で感じている。医師も安心・安全の医療ができず、医師不足で地方の病院・診療所の閉鎖が相次いでいる。そこへ(与党は)また診療報酬を引き下げ、医療制度改革法を強行採決した。武見氏は同法に付帯決議を付けたり、産科の無過失補償制度の創設へ動くなどしたが、それくらいの実績ではとても間に合わない」。自公政府の一連のやり方が今回の事態を招いたと分析します。
日医連の常任執行委員の一人も言います。「政府・与党は昨年の『骨太の方針』で、社会保障予算の一兆六千億円の削減を決めている。これではどうしても医療費が下がり医療は崩壊する。このことへの不満が会員にあった。この種をまいたのは小泉(前首相)さんだが、安倍(首相)さんも共通する政策だ」。そのうえで「自民党に対する会員の考え方が変わってきている。医師会の三分の二はそっぽを向いている。どこに入れたのか聞いてみたいくらいだ」と語りました。
東日本の県医師会長も務めた日医連の役員は「小泉政権を引き継いだ安倍さんは格差是正もしないし、いろんな問題が起きた」とのべ、「(武見氏の支持を求め)私もかなりがんばって相当話したけど、自民党へのアレルギー、反発があった」と、お手上げ状態だったことを明かしました。
日医連内に足並みの乱れ
また小泉「構造改革」への対応をめぐる日本医師会内の対立も影響しました。昨年四月の日本医師会会長選挙に、小泉「改革」路線に反対し、政権と距離を置く前植松治雄会長に対抗し、現唐澤会長が「自民党との関係回復」を訴え立候補。武見氏が強力に支援した唐澤氏が当選しました。その対立が尾を引き、大阪の医師政治連盟が武見氏の推薦を見送るなど、近畿の足並みは大きく乱れました。
日本医師会の元最高幹部は、今回の事態について「自民党は心を入れ替えよ、というのが国民の声。しかし自民党は分からないと思う。安倍さんにそんな力はないでしょう。実際、来年度予算編成でも社会保障予算削減の方針は変えていない」と語ります。
年間十七億円を超える資金を集め、組織とカネで自民党を支えてきた日医連。今回の推薦候補の落選は「自民、組織票に衰え」といわれる「象徴」(「朝日」十一日付)ともなっています。
関東地方のある県の元医師会長は、選挙結果を振り返り、日本医師会が自民党の支援団体の枠から抜けることを提言します。「いまはもう昔のようなやり方は通用しない。今後の医師会は、患者である国民とひざを交えて議論しながら政策をまとめ、どの党に向けても発信していくべきだ」
大敗の余波収まらず 公明 月内に選挙総括(しんぶん赤旗、8月21日)
過去最低の九議席にとどまった参院選結果を受け、公明党は二十二日に全国県代表者会議を開き、今月中にも総括を取りまとめることにしています。しかし、九日の中央幹事会では選挙区で落選した議員から、「なぜ安倍晋三首相に厳しいことが言えないのか。支えていていいのか」と党執行部をなじる声が上がるなど、歴史的大敗の余波は収まりそうにありません。
公明党にとって今度の参院選は、太田昭宏代表、北側一雄幹事長という新体制に移行して初の国政選挙。公明党と政教一体の創価学会にとっても、原田稔会長になって初めての国政選挙であり、春のいっせい地方選とあわせ「本門の池田門下の初陣」と位置づけてきました。
しかし、選挙区では埼玉、神奈川、愛知が次点となり、十八年ぶりに選挙区候補が落選。過去最高得票を目指した比例区では、逆に前回参院選から約八十六万票減となりました。四十選挙区で推薦した自民系候補も、当選は十七人にとどまりました。
一九九九年に連立与党入りして以来、創価学会・公明党は、自民、民主が競り合う選挙区で学会票を自民党候補に流し、その見返りを比例区で受け取るというバーター戦術をとってきました。この戦術も、悪政に対する圧倒的な怒りの前に崩壊した形です。
選挙後には、公明党幹部から「暴走機関車に乗り込み、ブレーキをかけていたつもりだったが、国民からは一緒に石炭をくべていると思われていた」(「産経」七月三十一日付)との発言がもれたと報じられました。
ところが、太田代表は早々と「小泉、安倍の改革路線を国民が否定したのではない」(七月二十九日)と表明。憲法改悪を核心とする安倍首相の「戦後レジーム(体制)からの脱却」路線に追随して改憲手続き法を強行してきたことや、小泉「構造改革」以来の社会保障の切り捨てと自らが主導した定率減税廃止などの庶民大増税などによる貧困と格差の深刻化には一言もふれていません。
逆に、「『政治とカネ』の問題や、年金記録問題、大臣の不規則発言や振る舞いなど、(共通して)『何かものを隠している』ということがあった」(太田代表、公明新聞八日付)と、いわゆる“逆風三点セット”に敗因を矮小(わいしょう)化しています。
同党国会議員のブログやホームページでも、「『年金記録・政治とカネ・閣僚発言』の部分が大いに影響」(谷合正明参院議員)、「(三点セットは)候補者にとっては、後ろから鉄砲を撃たれているような気持ちで、さぞや無念であったろう」(上田勇衆院議員)と、自らには責任がないかのような態度です。
「格差問題で国民の不満が鬱積(うっせき)していた」と分析する赤松正雄衆院議員も、「自立・自助の時代における弱者の味方であるとの主張に徹し切れなかった」と、説明不足がいけなかったとの立場です。
国民の厳しい審判を受けながら「悪政戦犯」に目をつぶるのでは、今後も自民党の暴走にアクセルを踏むことになりそうです。
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