東アジアをめぐるFTA関連情報の追加。
EU・アメリカ・中国・インドらの競争関係が注目されているが、それが大国による一方的な経済分割ではないところに今日の国際経済関係の特徴がある。
靖国史観問題をかかえる日本が東アジアで出遅れるなど、その典型といっていい。
欧米のアジア、FTA戦略加速 中国との主導権争いが激化(FujiSankei Business i. 5月8日)
韓国と欧州連合(EU)の自由貿易協定(FTA)締結を目指す本格的な交渉が7日、ソウル市内で始まった。EUは4日に東南アジア諸国連合(ASEAN)とのFTA交渉開始の合意に続き、FTAを通じアジアでの輸出市場拡大を狙う。米国も4月の米韓FTA合意に加え、アジア太平洋経済協力(APEC)をベースに巨大市場に布石を打つ戦略を進めており、出遅れた日本を尻目に、欧米と中国による東アジア貿易の主導権争いが激化してきた。(上原すみ子)
≪2国間交渉に軸足≫
EUと韓国のFTA交渉は11日まで行われ、第2回交渉は7月にブリュッセルで開かれる。自動車、電子製品などの市場開放が大きな焦点になる見通しだ。
EUは昨年10月にまとめた新通商政策で「世界の成長センター」であるアジアに着目。従来の世界貿易機関(WTO)一辺倒の戦略を転換した。すでにASEANとインドとの交渉開始も秒読み段階にある。
ロイター通信によると欧州委員会のマンデルソン委員(通商担当)はアジア各国とのFTAの推進が「欧州に新たな市場を提供する」と語り、期待を表明。一方の韓国も日本同様、農業問題を抱えるアジアの貿易立国ながら、4月の米韓FTA合意に加え、EUとの早期合意に意欲を燃やす。
政府間交渉での日本の出遅れが、欧州に進出した日本メーカーに与える影響は小さくない。
日本貿易振興機構(ジェトロ)が今年2月、欧州の日系企業を対象に実施した調査では、特に電気、電子機器分野で半数以上の企業が韓国のサムスン電子やLG電子などによる低価格製品の欧州向け輸出で影響を受けていると回答。52%がEU-韓国のFTA締結の影響を懸念している。
ジェトロは「(EU-韓国FTAで)高い税率の液晶テレビや自動車の関税が撤廃されれば、日本メーカーは欧州市場で韓国勢に圧倒される」と分析している。
≪貿易額4位に≫
ASEANとのFTAでは中国が先行している。05年の関税引き下げ実施に続き、06年12月には10年までにサービス分野自由化を進めることでも合意した。関税撤廃の効果は小さいとの指摘もあるが、中国とASEAN間の06年の貿易総額は前年比23・4%増と急増したのに続き今年1~3月も24・8%増の約431億ドルに達した。EU、米国、日本に次ぐ第4位の貿易相手国に浮上し、勢いは増すばかりだ。
鋼材など過剰生産を抱える中国は08年の北京五輪後にも予想される経済停滞を避けるためASEAN市場開拓が不可欠。タイ、ラオスなどと国境を接するメコン川流域のインフラ整備、地域開発の主導権も狙っている。
米国やEUがFTA戦略を加速する背景には、東アジアでの中国の過大な影響力を牽制(けんせい)したいとの思惑もある。
≪出遅れる日本≫
日本は、今月4日、ASEANとの経済連携協定(EPA)で大枠合意したが、出遅れ感は否めない。貿易額の約9割について関税を撤廃するとしているものの、どの品目の関税を引き下げるかの中身はこれからだ。
昨年4月に経済産業省が打ち出したASEANプラス6(日中韓、インド、豪州、ニュージーランド)間の貿易を自由化する「東アジアEPA構想」実現に向けた第一歩と評価する声もある。
この一方、元通産審議官で国際経済交流財団の畠山襄(のぼる)会長は、「最低限の条件をクリアした段階で、農業問題など課題は山積している。アジアで存在感を高めるには、欧米のように通商問題を政治決着できる体制が必要」と指摘。日本のFTA交渉の対応遅れを懸念する。
外務省や農業問題を抱える農林水産省は東アジアEPA構想実現の熱意に乏しく、日本がカヤの外に置かれかねない危険性も秘めている。
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【用語解説】FTA(自由貿易協定)
特定の2国(地域)間で、鉱工業品、農林水産品などの物品や金融、流通などのサービス貿易の自由化に向け、関税や外資規制などの障壁を取り除く条約の一種。FTAに対し、EPA(経済連携協定)は、協定の範囲を貿易分野にとどめず、ヒトの移動や投資環境整備、知的財産権の保護、紛争処理手続きなどに広げたもの。日本政府は、FTAだけではなく、EPAによる関係強化を目指している。いずれも発効には議会での批准が必要になる。
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